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井戸神の話

2020.01.06 (Mon)
あ、どうも、木村と申します。じゃ、話していきますけど、
いろいろヤバイんですよ。ここんとこ2日寝てなくて。ここは
霊とか神様とか、そういうことに詳しい人が集まってるって
聞いてきたんで、もし何か解決策とかがあったら教えて下さい。
俺、都内の大学の3年です。いや、大学名はかんべんしてください。
あんまり優秀なとこじゃないです。でね、今年の夏休み、盆過ぎに
廃村探索ツアーってのをやったんです。バカみたいですよね。
でもね、もうすぐ就職活動しなくちゃなんないし、
そういうバカできるのも今のうちだって、話がまとまって。
行った先は、北関東のほうです。ネットのサイトにね、廃村地図とか
載ってて、それで見つけました。都内からだと車で2時間。

免許持ってるやつがいたから、レンタカー借りて。ついでにね、
キャンプ道具も借りたんです。バーベキューできるセット。
あとは炭とか、安い牛肉とかを買い込んで、1泊の予定で
出発しました。あ、寝る場所はね、ネットに載ってた写真を見れば、
廃村と言っても、建物は比較的新しかったんです。
ちゃんと屋根もトタンで、藁葺の農家ってわけじゃない。
だから、空いてる家のどっか部屋にでも入って、まだ8月だし、
寒いってことはないから、タオルケットでもかけて寝ようって。
実際、むしむしと暑かったです。え、許可? いや、そんなの
取ってないです。まあねえ、廃村っても土地の所有者とかいるん
だろうから、本当は取るべきだったんでしょうけど、

でも、目的を言えば許可されないと思ったし。行ったメンバーは
4人です。俺とあと同じ学部、同じ学年の友人が3人。
昼過ぎに出発して、場所はナビに入れてあったんで、すぐ着きました。
迷うことはなかったです。ただね、そこ、雰囲気が悪かったんですよ。
それはすぐわかりました。山に囲まれた小盆地で、閉鎖的な感じが強くて。
少しは調べたんです。そこが放棄されたのは昭和20年代、
戦争が終わって、これから人口が増え、高度成長期になるってときに
放棄された理由はよくわかりません。ただ、そんなに戸数はないんです。
家の数は20を切るくらい。だから、廃村って言うより廃集落のほうが
近い。不便な場所だったので、立ち退いたんだろうくらいに思ってました。
人の姿はまったく見かけなかったです。2日間で1人も。

まあでも、平日だったし、何か用があってくるようなとこじゃないし。
でね、1軒の比較的壊れてない家の前に車停めて、まずは探索しました。
中には玄関から簡単に入れて、荒らされてる様子はなかったです。
床にホコリが厚く積もってましたけど、足跡は俺ら以外のはなくて、
誰も入ってないってわかりました。そんなだから、都市部の廃墟みたく
スプレーの落書きとかもなし。居間にはちゃぶ台とかがそのまま
残ってて、カレンダーはなかったけど、日めくりが昭和26年の
8月15日でとまってましたね。中はすごく暑かったです。
それから外を回りました。庭はけっこう広く、縁側に面して
池があったけど干上がってました。あとね、井戸があったんです。
ポンプ式じゃなく、桶で汲み上げるやつだと思いますけど、

埋められてました。仲間の一人がそれ見て「ははあ、作法どおりだな」
って言いました。そいつ、民俗学のゼミを取ってて、そういうことに
けっこう詳しんです。「井戸を埋めるときは神事を行って、
 井戸神を封じなくちゃならない。まあ、それまで世話になったお礼を
 するわけだ。井戸ってのは、地下の川から水を汲んでるわけだから、
 完全に埋めるとどっかであふれてしまう。だから、最初に大きな
 岩を入れ、その後に瓦礫を入れる。あと、井戸神様が息できるよう、
 節を抜いた青竹を差しておくんだよ、ほら」そいつが指差した先に、
たしかにそれほど太くない竹の頭が見えました。あとね、井戸枠の
四方に塩が盛ってあったんです。あ、言い忘れてたけど、その井戸、
枠が貞子の映画に出てくるような丸型じゃなく、四角い形でした。

「でも変だな」って別のやつが言い、「この塩、さらさらして、
 しかも三角に盛った形が崩れてない。露天なんだから、雨も降るし、
 台風だってあっただろ。そんな昔のものがずっと残ってるのは変じゃね」
たしかにそう思いました。「うーん」でね、それから隣りあった
2軒を回ったんですが、やはりどっちも庭に井戸があり、
封じられて新しい塩がのってたんです。「こりゃあれだな、昔ここに
 住んでた人がときおり来て、塩を置いてるんだろ」 「昭和20年代から
 ずっとやってるのかねえ」 「そうとしか考えられないだろ」
まあでも、そういうこともあるだろうって。そしたらね、別の一人、
そいつ岡田って名前にしておきますが、かがみこんで青竹の頭に口を
つけ、息を吹き込んだんですよ。「あ、やめろ」 「大丈夫だよ」

そいつが言うには、詰まってる感じはなく息が通った気がするって。
ただ、古い空気でも吸い込んだのか、べっべっとしきりにツバを吐いてました。
あとね、変なことに気がついたんです。「静かだよな。フツー今どき、
 セミとか鳴いてないか」そう言われると、たしかにね、東京でも、街路樹に
セミがいてうるさく鳴いてましたからね。「ああ、気味悪いほど静かだ」
それでちょっと空気が沈んだんで、まだ早いけどバーベキューを始めたんです。
車から道具を出して、安肉とソーセージ類、野菜はタマネギだけ。
ビールも飲んで腹いっぱいになりました。途中、さっき竹に口をつけた岡田が、
「井戸神様にも捧げものしなきゃな」とか言って、長いソーセージを
持ってって、竹筒に押し込んだんですよ。「やめろよ、詰まるぞ」
そしたらやっぱ詰まって、落ちてた木の枝とかを差し込んだりしてましたが、

「ダメだな」って戻ってきました。日が落ちてもすごい暑さで、
気温はまだ30度ちかくあったと思います。「なあ、外で寝ないか。
 雨は降りそうもないし、ここにブルーシート敷いて」 「え、ヤブ蚊とか
 いるだろ」 「さっきから虫とか一匹も見てないぞ」 でね、結局そうしました。
炭火コンロをガンガン焚いて、持ってきた蚊取り線香とかも入れて。
それからずっと酒飲んで、寝たのが11時頃ですね。ええ、野外です。
とにかく暑くてタオルケットとかもかけませんでした。でね、朝方かな
夢を見たんです。俺、暗いせまい座敷みたいなとこに正座してて、
椀を持ってました。椀の中には、ミミズより少し細い黒い虫が山盛り・・・
椀を投げ出したいんだけど、なんか周囲を囲まれてるんですよ。いや、誰とは
わからないけど。でね、そいつらが無言のプレッシャーで「食え、食え」って。

逆らえなくて、しかたなく口に持ってったとき、目が覚めたんです。
今思えば、あれ喰わなくてよかった。もうすっかり明るくなってて、でも、
やっぱ鳥とかも鳴いてない。すぐ近くに2人寝てましたが、岡田の姿が見えず、
立って探したら、あの井戸の縁にもたれて寝込んでたんです。そんときは、
「あー、あんな酔っ払って」としか思わなかったんですが、
背中を揺すって起こそうとしたとき、うつ伏せになってた岡田の口の端に
黒い虫の尾が見えたんです。ええ、夢に出てきたやつとそっくりの。
「うあ!」と離れると、虫はチュルッと岡田の口に入ってって・・・
いやあ、今思えば本当に見たのか怪しい気もしますけど・・・ 「うー」と
伸びをして、岡田は普通に起きてきました。でね、みな起きて、
二日酔いで具合悪かったんで、コーヒー沸かして飲んだんです。

それからは集落を回って動画撮って帰ってきました。全部の家に入りましたが、
半分以上に井戸があって、同じように封じられてました。盛り塩も同んなじ。
「やっぱ誰かが世話してるんだろうよ」そういう結論でした。
でね、帰りの車の中で、誰言うともなく、「虫を食わせられる夢見た」って
話が出て。「あ、俺も見た」 「俺も、気味悪い黒いヒルみてえな虫が
 椀に山盛り」 「それも同じだ」 「食ったか?」 「いや、食う前に起きた」
確認すると、細部もそっくりだったんですが、見てないやつが一人いました。
岡田です。「お前らなあ、気にしすぎだぞ。昨夜だって真っ暗になったけど、
 何も出なかっただろ」そう言ってました。たしかに、夜に撮った動画にも
おかしなものは映ってなかったです。それでね、その動画、戻ってから
2日後に、俺の部屋に集まって確認したんです。

そのときに岡田も来るはずだったのが来ない。スマホは圏外で、
やつの部屋の固定電話にかけてもずっと呼び出し中で。だからその後に
みなで岡田の部屋に行ってみました。もう夜になってました。アパートの
玄関の鍵がかかってなくて、「開けるぞー」と言いながらドアを開いたら、
中の戸も開いてて、倒れてる岡田の足が見えたんです。仰向けで、
カエルのように腹がふくれ、死んでるんだと思って救急車を呼んだんです。
岡田の頭のまわりに、醤油や酢、ソースなんかの調味料の容器が空になって
散らばってて、あとね、1Lの飲料水のボトル、これが20本以上。岡田は
やっぱ死んでました。救急隊員からいろいろ事情を聞かれ、警察も後から
来たんですが、俺らの話がすべて一致してたし、その日は放免されました。
精神がおかしくなって、自分で水とかを飲み続けて死んだ。

いや、水中毒なのかはわからないです。病院でCTを撮って、胃が裂けてる
みたいだって話も出ました。結局、自殺なのか事故なのかも不明の
ままです。おかしいと思うのは、なんで水道水を飲まなかったのかってことで、
そのペットボトルはコンビニで買ってきたものなんですよ。袋も見つかった
みたいです。でね、これは俺が直接見たんだけど、やつの台所の水道の蛇口ね、
出水口に木を削ったのを詰めて、さらに針金でぐるぐる巻きになってたんです。
何でそんなに水を飲まなきゃならなかったのか、水道を塞いだのはどうしてか。
まるでわからずじまい。警察には、あの廃村巡りのことは言わなかったです。
聞かれなかったし、話しても関係ないと思われるだろうし。それから、
特に何事もなかったけど、3日前、あのときと同じ夢を見たんです、椀に入った
虫を食わされる。いや、まだ食ってはいません。それから寝てませんから。






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