FC2ブログ

老人アパートの話

2020.01.12 (Sun)
南といいます。この2ヶ月の間に俺の身に起きたことを話そうと思って
ここに来ました。複雑なことはしゃべれないんで、実際にあったことだけ、
時間を追って話していきます。2ヶ月前にね、長期間やってたバイトを
辞めたんです。本筋には関係ないけど、中古家電屋の店員だったんです。
4年以上やってて、正社員になるって話も出てたんだけど、
ちょっと事情があって。それからは、なかなかいいバイトがなくて、
短期のやつをぼちぼち入れてました。そしたら、生活が苦しくなってきて。
貯金なんてほとんどなかったですから。それで、支出を切りつめようと
思いました。といっても、食費はもとからそんなにかかってないし、
光熱費たってたかがしてれてます。一番大きいのがアパートの家賃なんで、
これが何とか出来ないかと思ってね。ひと間なんだけど、分不相応に、

俺にしてはちょっと高いとこに住んでたんです。手近な不動産屋を
何件か回って、格安物件を探したんです。そんときはまあ、
部屋は寝れればいいやと思ってました。仕事が安定すればまた移れる
わけだしね。で、3件目に行った不動産屋で、バス・トイレ・キッチン
つき6畳で、家賃が2万5千円という破格のとこを見つけたんです。
こう言うと、みなさん、今にもつぶれそうなボロアパートって
思うかもしれないけど、見せられた物件の画像は、
部屋の中だけだったけど、すげえ新しかったんです。不動産屋の
話だと、築7年ってことでした。でもね、そうするとますます怪しい。
そのあたりの相場だと、どう考えても4万は下るはずがないんです。
そう思って、単刀直入に聞いたんです。

「ここ、訳あり物件ってやつですか?」って。ほら、よくホラーマンガ
とかに、前の住人が自殺したり、孤独死で長い間発見されなかったりって
事情があって、異様に安くなってるところ。そのかわり、
もれなく幽霊がついてくるってやつ。いや・・・あのね、俺自身、
幽霊なんてまったく信じてなかったんです。だから、そういう話だったら、
めっけ物だって思ったくらいで。ところが不動産屋は、にこにこ顔で、
「ああ、やっぱりそう思われますよねえ。けど、われわれにも
 告知義務というのがありまして、そういう情報をお伝えせず、
 お客様とトラブルが起きると、裁判で負けてしまうんです。
 はっきり言いまして、あの部屋で亡くなった方はいません。
 その点は心配する必要はないです。住人の方はひんぱんに替わられては

 いますが、これは学生さんが多かったからでしょう」
こう言ったんです。俺がけげんそうな顔をしてたからでしょうか、
続けて「ただね、特殊な事情がないわけではありません。
 アパートは2階建てで、部屋は12ありますが、住人の方の
 ほとんどは高齢者なんです。あ、でも、みな身元のしっかりした方で、
 生活保護なんかではありません。今は、そういう人たちがまとまって
 住んでるとこもありますが、それとは違いますから」って説明をしたんです。
それ聞いて、高齢者かあって、ちょっと考えました。だってね、そういう人たち
って世話好きというか、いろいろ干渉してくるかもしれないじゃないですか。
そしたら不動産屋は、こっちの気持ちを見透かしたかのように、
「その方々、昼は全員がある施設に行ってて夜にならないと戻って

 こないみたいですよ。それに全員が健康そのもので、その点でも
 お客様がご心配するようなことはないかと」まあ、ここまで言われたんで
契約することにして、さっそく前のとこをから移りました。
引っ越ししたのは午後ですが、他の住人の姿は見なかったです。
ふつうほら、引っ越しだとわかれば窓からのぞいたり、出てきてあいさつしたり
するもんじゃないでか。ところが、そういったことは一切なし。しんと静まり
返ってて、誰もいないみたいなんです。部屋はね、不動産屋の画像のとおり、
新しくてきれいで快適でした。しかも2階の角部屋で日当たりもいい。
あと、最初から大型のエアコンがついてました。聞いたことのない
メーカー名だったけど、かなり強力そうな。で、こうして俺の新しい生活が
始まったんですが・・・ あ、一つだけ、このときに気づいたのが、

押入を開けたときに妙な臭いがしたことです。いや、嫌な臭いってことじゃなく、
それまで嗅いだことのない、異国的っていうのか、そういう臭いで、
何かのお香のように思いました。でもね、そんときは気にしなかったです。
押入だから、虫除けとかの臭いだと思って。その夜ですね、
アパートの前が少し騒がしかったんです。うるさいってほどじゃないけど、
ドアを開けて廊下に出てみると、前の道路にマイクロバスが停まってて、
老人たちがぞろぞろ降りてくるとこでした。全員が男で、80歳前後に
見えましたね。それで、ちょっと驚いたのが、みな夜会服って言うんですか、
高そうな黒い服、それを着てたんですよ。ここで、住人は日中、
どっかの施設に行ってるって不動産屋の話を思い出して、その帰りだと
思いました。ジロジロ見てるのは失礼と思ったんで、

引っ込もうとしたら、バスから降りた道路の老人たちは、横一列に
並ぶようにして、全員が一斉に顔を上げて俺に深くおじぎしたんですよ。
あっけにとられたんですが、とにかくおじぎを返しました。
それから、老人たちはそれぞれ各部屋に入っていったんです。でね、俺、
いちおう隣にはあいさつしなきゃと思って、安いタオルを買ってたんです
角部屋だったので、着替えた頃を見計らって隣のドアをノックすると、
ガウンに着替えたおじいさんが出てきて、「それはわざわざ申しわけない。
 少し上がっていきませんか」みたいな話になって、普通はね、
玄関先ですませるんですが、さっきのバスのことが気にかかってたんで、
ちょっとだけ上がらせてもらいました。中は俺のとことつくりが同じ
6畳。キッチンからはみ出すようにして大型冷蔵庫があったんです。

それとね、驚いたのが、その冷蔵庫の上に、金色の大きな大黒様の
像がのってたことです。人間の3歳児くらいはありました。
俺がびっくりした顔をしてると、おじいさんは・・・村田って名前でしたが、
「ああ、あれね、驚いたでしょうけど縁起物なんです。私たちの会で
 信心してる。このアパートのどこの部屋にもありますよ」って。
これ聞いて、少し警戒しました。もしかして新興宗教かなにかで、
俺もそのうちさそわれるんじゃないかって。村田さんはその考えを
察したようで、「いやあ、これね、ほら、ピンピンコロリって言うじゃ
 ないですか。できるだけ元気でいて、苦しまず、家族の迷惑にならない
 ようコロッと亡くなるっていう信心。まあ、そういうことを願う
 会なんです。だからメンバーも後期高齢者ばかりで」

そう聞いて少し安心しました。俺はまだ30歳過ぎたばかりですからね。
誘われることはないだろうって。その後、村田さんは高級ブランデーを
出してきて、一杯だけごちそうになりました。その夜です。
12時過ぎに寝たのかな。夢を見ました。俺が寝ている布団の上に、
何か大きなものがいる。でもね、胸とかにのっかられてるわけじゃないから
苦しくはない。そのものはだんだんに明るくなってきて、金ピカに
輝き始めた。あの大黒様だと思いました。ただ、顔が村田さんによく似た
年寄りで、しわだらけ。起きようとしても体が動かない。大黒様は体が
金属でできてるロボットのような動きで、背中の袋を前に持ってくると
俺の顔にかぶせたんです。真っ暗になって、ふっと気が遠くなりました。
目が覚めるともう朝になってて、あと、ここが重要なんですけど、

寝る前に止めてたエアコンがついてたんです。たしかに消したのが、
除湿モードになってました。でね、体調が最悪になってたんです。
頭が重い、体がだるい・・・痛いとこがあるわけじゃないんですけど、
倦怠感っていうんですか、とにかくだるくて動けない。
その日はバイトの面接があったんですが、行けないで午前中ずっと
布団に横になってました。でも、このときは夢と関連があるとは
思わなかったんです。夢に出てきた大黒様は、村田さんの部屋で
見たものが頭に残ってたんだろうって。けど、この夢、それから1週間に
1度ずつ見たんです。まったく同じなんだけど、ただ大黒様の顔だけが、
みな別の老人になってて。いや、これもね、アパートの他の住人たちだとは
考えませんでした。村田さん以外の人とはほとんど会わなかったですから。

で、その夢を見た翌日は体調が最悪で。俺ね、健康だけは自信あったのに。
あと、夢を見た翌朝、何故かエアコンがついてるのも同んなじでした。
バイトもなかなか決まらず、どんどん貯金が減ってって。
そうしてるうち、夢を見ない日も具合が悪くなってきたんです。
何もやる気が起きない。動きたくない。で、無理に動くと体がよろよろで、
俺が老人になったみたいでした。病院にも行きました。検査では、
貧血の数値がやや悪いが、その他は問題ないってことで、
鉄分不足と言われたんです。ほうれん草をとりなさいとか。
まあね、食事はカップ麺やコンビニ弁当でしたから、そう言われると
思いあたる節はある。そうして2ヶ月たつと、とうとう起きれなく
なりました。で、その晩も夢を見たんです。金色の大黒様が出てきて、

俺の顔に袋をかぶぜる・・・このままじゃマズい、って思ったんです。
思い切って上半身をひねり、すると体が動いたんで袋を跳ね上げました。
そしたら、大黒様の体をした老人が、口をすぼめて俺のほうに向け、
チュウチュウ吸うような仕草をしてたんで、「やめろ!!」と
大声が出たんです。老人は驚いた表情になり、一瞬で小さく縮んで、
ひゅ~っとエアコンのほうへ飛び、吸い込まれて消えた・・・
エアコンはそのときもついてて、カタカタ異音を立ててました。
頭にきてイスに乗り、表のカバーを引きはがしたんです。何があったと
思いますか。大黒様ですよ。15cmくらいの金色の大黒様。村田さんの
部屋で見たもののミニチュアが中央にはさまってて、口をすぼめ、
穴が空いてて、そっから空気を吸い込んでるように思ったんです。

「何だこれは!?」わけがわかりませんでしたが、急に怒りがわいてきて、
大黒様をつかんで機械から外し、居間に投げました。すごい重さで、
床にあたってゴッツンという音を立てたので、もしかしたら本物の
金製だったのかもしれません。そのときにはもうわかってました。
俺の体調が悪いのはこいつのせいなんだって。何と言えばいいですかね、
俺の生気? それを、夢を見るたびにこいつが吸いとってた。
だから翌日はものすごく体調が悪い。もうここにはいられない、
そう思って、財布とスマホだけ持って外に出ました。階段を降りて
アパートを見上げると、各部屋の玄関の窓に次々明かりがついたんです。
ほぼ同時に老人たちが出てきました。廊下に立ち、そして俺のほうを見て、
にこにこと笑いながら、深々とおじぎをしたんですよ。





関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/2300-df99317b
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する