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ある失踪の話

2020.01.22 (Wed)
俺、右京って言います。仕事は自動車組み立てラインの工員で、
いちおうは正社員です。独身でアパート暮らしてます。
それでね、ここのところ おかしなことが続いてるんですよ。ここの
ルームのみなさんって、そういう、えーと、超常現象の専門家
なんですよね。いったいどういうことなのか教えてもらいたくて。
あ、ここのことは、神主をやってる親戚がいて、その人から聞きました。
じゃあ話していきますけど、このとおり、しゃべることに慣れてないんで
わかりにくいかもしれません。わけわからなかったら、途中途中で
質問してください。4日前の火曜日です。俺、仕事の後でいっつも
飲みにいくんです。部屋に帰っても誰もいないし、飯つくるのも
かったるいんで、そこのスナックで済ませちゃうんですよ。

で、あれは10時頃だったな。そんとき、店にいたのはマスターと
女の子一人、それから客は俺入れて4人ぐらいだったと思います。
そろそろ帰ろうかってときでした。店のドアが開いて佐藤が
入ってきたんです。あ、佐藤ってのは工場の俺の2年後輩です。
やっぱアパート暮らししてて、場所もわりに近い。
佐藤は入ってくるなり俺を見つけて、「やっぱここにいた。
 右京さん、頼みがあるんス。俺の部屋に来てもらえないスか?」
こう言いました。俺が「え、そりゃ別にかまわねえけど、どうしてだよ。
 なんかいいもんでも買ったのか?」そしたらね、びっくりするような
答えで。「いや、俺の部屋、今、幽霊がいると思うんス。
 それで怖いし、右京さんに見てもらいたくて」

それ聞いたときには、ああ、こいつ酔ってるのかって思ったんですけど、
いつもふざけてるやつがいつになく真剣で。酒が入ってるようにも
見えませんでした。「幽霊!? いきなり何言い出すんだ。どんな幽霊だよ」
「いや・・・それが、うまく説明できないんス。とにかく来て
 見てもらえませんか」まあね、佐藤のアパートは帰り道の途中なんで、
寄るのはわけないんだけど、それにしても幽霊ってのは・・・
それで店の勘定を済ませて佐藤についてったんです。
アパートはそこのスナックから歩いて10分もかからないとこです。
その道々、「どんな幽霊だよ、何で幽霊だと思うんだよ」って、ずっと
聞いたんですけど、佐藤は「とにかく来て見てほしいっス」そう
くり返すだけで、下を向いてスタスタ歩いてくんで、変は変だと思いました。

佐藤のアパートが見えてきて、1階の角部屋なんです。ドアの前に
立つと、佐藤はガタガタ震えだして、「怖い、ああ、怖ええよう」って
泣きそうでした。いや、ふだんそういうやつじゃないんです。でね、ほら、
ドアにのぞき穴ってあるじゃないですか。レンズついてて中から外が
見えるやつ。佐藤がかがんでそこ見て、「あーっ、やっぱいる!」って
叫んだんです。けど、外から中は見えないじゃないですか。
そのことを言うと、「見えないけど、中、暗いのわかるでしょ」って。
「どういうことだよ?」 「俺、出るとき部屋の電気全部つけてきたんです。
 玄関も。だから、穴からは中がオレンジ色に見えるはずです。
 それが暗いでしょ。いるんですよ。幽霊が電気消したか、
 それともドアの後ろにいて、こっち見てるか」 

「んなバカな。・・・鍵貸せ、俺が開けてやるから」いやね、もちろん
幽霊がいるとは思いませんでした。佐藤がなんかで俺をかつごうとしてる
のかな、とは考えましたけど、俺らの工場は上下関係がけっこう
厳しいんで、それも考えにくいんです。で、佐藤が出した鍵を回して
ドアを開けたんです。「えええっ?!」何があったと思いますか。
・・・佐藤がいたんです。電気はついてて、ドアの後ろの玄関に
しゃがみ込んでました。「え、え!? お前今、外にいただろ」
当然後ろを見ますよね、けど誰もいない・・・ 佐藤は立ち上がって、
「ああ、右京さん、来てくれたんですね。よかった」って泣かんばかりの
様子で。わけわかんないですよね。「どういうことだよ」
「まあ、上がってください」佐藤の部屋には何度も来てるんで、

上がって2人でこたつに座りました。「説明しろ、どういうことなんだ?」
「今さっき、ドアの穴から外見てたんです。右京さん、一人で
 しゃべってましたよね。あれ、どうしてですか?」 「いや、だから
 お前とだよ・・・と思ってたんだが、ドアを開けた途端、後ろにいたお前が
 いなくなって中にいた。わけわかんねえよ、手品とかじゃないだろうな。
 もしふざけてんなら食らわすぞ」 「違うっスよ。さっきまで
 中田の幽霊が外にいてドアを叩いてたんス」 「中田ぁ?」
この中田ってやつは、やっぱ同じ工員で佐藤の同期なんです。そう言えば、
部署は違うけど、その週に入って月、火と中田の姿を見てませんでした。
「2日前の日曜日、中田に誘われて心霊スポットに行ったんス。ほら、
 ◯号線沿いにあるドライブインの廃墟」 「ああ、知ってる」

その廃墟は地元でちょっと有名な場所で、週末は探索のやつらが
けっこう来てるって話でした。俺も1度だけ行ったことがありますが、
スプレーの落書きだらけでしたね。変なことは何もなかったです。
オーナーが経営不振を苦にして首を吊ったってのも、嘘だって判明してます。
「で?」 「男2人なんで俺は気乗りしなかったんスけど、中田が
 行こう行こうって言って。でも、それも変なんスよね。ふだん
 そういうことに興味を持ってるやつじゃなかったし」 「で?」
「俺の車で行って、そんときは夜の12時近くで、俺らの他に誰も
 いなかったス。車についてる懐中電灯だけで各部屋を見て回って、
 最後に2階の首吊りの部屋ってとこに入ったんス」 「わかるよ。
 それで?」 「上からロープが下がって輪っかになってたけど、

 あれは誰かのイタズラっスよね。とにかく全部見たんで、
 中田も気がすんだろうと思って撤収したんス。で、ほら割れた1階の
 ガラス戸、あそこから出るとき中田が「うううう」ってうめいて。
 気色悪い声出すなよってそっち見たら、中田じゃなかったんス」
「何だったんだよ」 「・・・粘土の人形みたいなもんだったんス。
 人間と同じ大きさの。暗かったけど、顔がドロドロに溶けてました」
「んなバカな。で、どうした?」 「俺ね、恥ずかしい話スけど、
 腰抜けてその場に座り込んじゃって。そうしてるうち、泥人形は完全に
 溶けて消えちゃったんス」 「信じられねえな。中田は?」
「それからいなくなっちゃったんス。まずスマホにかけたけど圏外。
 でも、今どき市内で圏外なんてありえないスよね」 「ああ」

「中田の部屋の固定電話にもかけたけど、ずっと呼び出しだったんス」
「ドライブインの中も調べたんだよな」 「そんときは怖かったんで、
 明るくなってから行ってみたんスけど、誰もいなかったス」
「うーん、中田が今週休んでたのは確かだな。そのこと会社に話したのか」
「・・・・」 「バカ、じゃあ中田は無断欠勤になってるだろ。
 何やってんだよ、馘になるぞ。それに本当に行方不明なら警察に連絡
 しねえと」 「スンマセン」 「で、さっき外に中田の幽霊がいたって
 言ったよな。何で幽霊だと思ったんだ。本人かもしれないだろ」
「ドアののぞき穴、あれから見たんス。そしたら泥人間だったんス。
 全体に青緑色で、顔が溶けてるんだけど、中田の顔になったり、
 またドロっと崩れたりして。だから、そいつがチャイム鳴らしても

 ドア開けなかったんス。そしたらドンドンドンドン叩き出して」
「で?」 「しばらくそうして消えたんス。俺、部屋を逃げ出そうかと
 思ったんスけど、外に出るのも怖くて。そうやってるうち、
 右京さんが来たんス」 「・・・・」佐藤のやつが嘘ついてるとも
思えなかったんです。そんなことする意味ないですよね。思いついて、
佐藤の部屋からスナックに電話してみました。他の客は帰っただろうけど、
マスターは佐藤が入ってきて俺と話してるのを見てたはずですから。
ところが、マスターが言うには、俺が急に立ち上がって、誰かと
話してるように一人ごと言いながら勘定を済ませて出てったって・・・
ともかく、その夜はしばらく佐藤のアパートにいたんです。
やつのウイスキーずっと飲んでて、佐藤がつぶれて寝たんで、

敷きっぱなしの布団に寝かせ、目覚ましセットして自分の部屋に戻りました。
もう3時頃になってましたが、3時間は寝て工場に出たんです。
そしたら・・・佐藤は出社せず、なんと中田が出てきたんですよ。
この2日、風邪で熱が出て、ちゃんと連絡して休んでたって・・・
佐藤とドライブインの廃墟に行ったかも聞きました。そしたら、
行ったけど特に何も起きなかった。泥人間なんかも見てないけど、
ただ、2階から下りるときから佐藤がも物しゃべらなくなって、
ずっと車の中でも無言だったそうです。あと、ドライブインに誘ったのは
佐藤のほうからだったとも。でね、佐藤はその日以来 行方不明なんです。
工場長に話し、アパートの大家といっしょに部屋を見たけど いませんでした。
もう1日探して所在がわからなければ警察に届けることになってるんです。

 




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