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箪笥

2014.01.12 (Sun)
俺の伯父さんだが、けっこう長く入院してたんだ。
病気は末期の肺がんで、1度は手術したものの完治はぜず、
2度めの手術を勧められたが断ったらしい。
もう覚悟を決めたんで、苦しい思いはできるだけしたくないってことだったみたいだ。
俺の母親の兄だけど10以上歳が離れていて、たしか66歳だったはず。
元実業家で、飲食店やビルの経営をしてバブル期にはかなり儲けてたらしい。
母親は、若い頃は相当荒っぽいことをして元手を稼いだとも言ってた。
それが60過ぎてすべて売り払って、これから好きなことをするぞってときに病気になったから
さぞやがっくりときてたと思うんだ。

でも気丈というか、負けず嫌いな人だったから、
何度か見舞いに行ったときも、酸素の管を離せないのにふざけた冗談ばかり言って、
看護師たちの手を焼かせたりもしてたらしい。
弱気なところは人前ではいっさい見せなかったな。
最後に病院に行ったときに俺にこんなこと言ったんだ。
「お前、オカルト好きだったよな。よし、俺が死んでもし死後の世界があるんだったら、
見てきて必ず幽霊になってどんな様子か知らせてやる」
俺が「嫌だなあ、まだまだ先のことでしょ。それより早く元気になって、またタイのバーにでも
連れてってくださいよ」と返すと、ニヤーッと笑った。

で、その伯父さんが昨日亡くなったんだよ。
突然のことで末期には立ち会えなかったけど、今日火葬をするんだ。
俺らの地域は火葬が先で、葬式は遺骨になった後からってことになってるんだ。
それで俺も母親とともに火葬に立ち会うことになった。
喪服に着替えようと、物置みたいにしてある2階の和室に取りにいったんだ。
普段あまり着ない服や季節外れのは、そこのクローゼットに掛けてるんだが、
そのとき母親に、箪笥にしまってある着物の喪服をついでにとってきてくれって頼まれた。
和服は帯とか紐とかごちゃごちゃいろいろあるんで、まず先にそっちを出してしまおうと
箪笥の引き出しを開けた。

中に伯父さんがいた。その箪笥の引き出しは高さ15cmくらいのものなんだが、
そこに薄く、平べったくなって伯父さんが入ってた。
伯父さんの顔は、普段の陽気さはかけらもなくゆがんでて、瀬戸物をこすり合わせるような声で、
「来るな、・・・する前にぜったいこっち来るな」と言った。
俺はびっくりして後ろに尻もちをついてしまったが、怪談話にあるように気絶したりはしなかったな。
立ち上がったときに引き出しの中が見えたけど、
そこには母親の喪服が薄紙に包まれてあるだけだった。
ああ死後の世界を見てきて知らせるって言ってたな、と思い出した。
約束を守ってくれたんだ。
しかし来るなって言われても無理だよなあ。「・・・する前」って何だろ、聞きのがしちまった。


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