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裏の仙人の話

2020.03.14 (Sat)
どうも今晩は。私、元木と言いまして、食品加工会社に勤めてます。
32歳で、結婚して妻と5歳の息子がいます。
これからお話するのは、私が子供のころ、実家の裏に住んでいた
山田さんっていうおじいさんのことなんです。
実家は昔からの住宅街にあって表通りに面していました。
裏に細い道があって、それを隔てた一軒家に住んでたのが山田さん。
生け垣をめぐらして、せまい庭がありましたね。
山田さんは一人暮らしで、今から考えると子どもさんなんかが
訪ねてくるなかったように思います。で、この山田さん、
町内では「仙人」って呼ばれてたんですよ。なんぜかというと、
まず風貌が中国の掛け軸とかに出てくる仙人のイメージにそっくりで。

頭は禿げてましたが、横と後ろには白髪が残ってました。
額には何重にもシワが刻まれててね。あとヒゲです。白いアゴヒゲが、
そうですね、20cmくらい伸びてたと思います。
着てるのは白い着物・・・といっても、かなりダブダブで、
中国の服みたいな感じ。春夏秋はそれで過ごしてて、冬になると
その上に黒いちゃんちゃんこを羽織るんです。まあ、実家は
九州だったので冬も雪は積もらないんですが、ふつうの人なら
あれだけじゃ寒いと思います。あと、一番仙人のイメージに
ぴったりなのが、いつも持っていた杖ですね。白木で、手で持つところが
?マークみたいに曲がってる。ただね、杖を持ってても、足が悪いって
わけじゃなかったです。かくしゃくとして、歩くのも速かったです。

うちの実家は母親がずっと子どもの頃から住んでた家で、
父親は入婿だったんですよ。それで、母親に山田さんのことを聞いたことが
あるんです。そしたら「ああ、山田さんね。あの人、ホントに仙人かも
 しれないよ。私が子供の頃からぜんぜん見た目が変わってないもの。
 不思議よねえ。すごいお年寄りだと思ってたんだけど、
 20年たっても前と同んなじに見える。もしかしたら本物の仙人
 なのかも」って。母の話では、その頃からやはり一人暮らしで、
働いてる様子はなかったけど、毎朝、数時間の長い散歩に出てるって
ことでした。それは私の頃も続いてましたよ。
私が山田さんと話ししたことも何度かあります。小さい頃は怖い人
だと思ってて、見かけても近づかないようにしてたんですけど、

あれは中学2年のときでした。当時、私は野球部に入ってまして、
レギュラー目指して朝の自主トレなんかしてたんです。
5時過ぎに起きて、ランニングで20分ほど離れた町営の球場に行き、
バックネット下のコンクリの部分にボールをぶつけてキャッチする。
あれは6月でしたか、その帰り道で犬に追いかけられたことが
あったんです。いや、野犬じゃないです。鎖を引きずってましたから、
どっかの家の飼い犬が逃げてきた。いきなり脇道から吠えつかれたんで、
びっくりして走って逃げちゃったんです。そしたら追いかけてきて。
なんとかハウンドっていう洋犬で、そこまで体は大きくなかったけど、
すごい敏捷ですぐに追いつかれて・・・転んじゃったんです。
その上に犬がおおいかぶさってきて。まあ、今から思えば、

噛んだりはされなかったと思うんですが、そのときは恐怖でした。
顔の前に両腕を出して守ろうとしたとき、犬のハッハッという息に混じって
ひょ~という音が聞こえたんです。山田さんでした。10mほど先に
山田さんが立ってて、頬をすぼめて口笛を吹いてたんです。
そしたら、犬がびょんと飛び上がって、そのすきに私は転がって離れ
立ち上がりました。山田さんは口笛をやめると杖を地面と水平にかまえ、
ツンと上に動かしたんです。そしたらです、犬が膨らみだしたんですよ。
風船に空気入れたときみたいに。あっという間にまん丸になって、
しかも地面から1mほど浮いてました。犬は困ったような顔で、
鎖を引きずりながら山田さんのほうに近づいてって、山田さんが杖を
持ってないほうの手で鎖をつかむと、パッともとに戻って

地面降り立ったんです。いや、不思議でした。犬は山田さんの
足元にかしこまった形で、山田さんはにこにこ笑いながら、
「坊や、ケガはなかったない」そう聞いてきたんです。
「大丈夫です。ありがとうございました」と、なんとかお礼は言ったものの、
目の前で起きたことが信じられませんでした。「そうか、よかったの」
山田さんは犬を連れて歩き去ってったんです。いや、そのときは
早朝だったので、私の他に人はいなかったし、車も通りませんでした。
家に戻って、台所にいた母親に起きたことを話しました。
そしたら、母親は特に疑うこともなく、「ああ、山田さんならそういうことも
 あるでしょうね。後で助けてもらったお礼に行かないと」こう言いました。
で、その日は早く学校から戻って、母と2人で裏の山田さんとこに行ったんです。

うちはその頃、家庭菜園をやってまして、ちょうどナスが大きくなってきた
ころでしたので、カゴ一杯にもいで持ってったんです。私が、
「そんなのでいいの?」と聞くと、母は、「山田さんは肉や魚、お菓子なんかも
 食べないから。うちは無農薬だし、たぶん大丈夫」って。山田さんの家までは
歩いて2分くらい。母と、いつも開けっ放しになってる門を入っていき、
玄関の戸を叩くと、ややあって「お~う」と声が聞こえて戸が開きました。
すると、真っ暗だった家の中が急に明るくなったんですが、不思議なことに
電灯がついたってわけじゃないんです。蛍光塗料みたいに壁や天井全体が
ぼうっと光ってました。あとね、家の中もびっくりで、そこら中に
苔むした木があって、さまざまな種類のキノコが生えてたんです。そのうちに
奥から山田さんが出てきたんですが、屋内でもあの杖をついてました。

母が来たわけを説明すると、山田さんは「ああ、あの犬は飼ってる家に
 戻しておいたよ。別に坊やを噛んだりすることはなかっただろうから、
 よけいなお世話だったかもしれんが」そう言われたんです。
母がナスの入ったカゴを差し出すと、「これはこれは、さすがにキノコは
 食べ飽きてたところでありがたい」と受け取ってもらったんです。
そんなことがあって、私は山田さんの姿を見かけると会釈するようになり、
山田さんも微笑んで杖を上げて答えてくれてたんですが・・・1年後、
私が中学校を卒業する間際に行方不明になっちゃったんです。
いや、徘徊老人ってわけじゃなく、山田さんは頭も足腰もしっかりしてました。
でね、そこの市は盆地なんですが、南の山のほうで、山田さんが、
空に登って雲の中に入っていったのを見たって人がいたんです。

まあ、噂なんですけど、母はそれを聞いて、「あ、とうとう羽化登仙されたんだね」
と言ってました。その後、山田さんには一切身寄りがなかったんで、
家の敷地は市のものになり、更地にされて小公園になったんです。
それから、私は高校を卒業して実家を離れ、今の会社に就職して結婚し、
すぐに息子が生まれたんです。実家は今もあの市にあって、両親とも健在です。
で、ときどき会ったときに、山田さんの話なんかもしたんですが、
やはり行方はわからないままでした。ただ、母は亡くなってるとは思ってない
ようでしたね。それで、つい1ヶ月ほど前のことです。連休を利用して
家族旅行に行ったんです。安月給ですから有名な行楽地とかじゃなく、
山のキャンプ場です。アウトドアを趣味にしてまして、オートキャンプって
やつですね。息子はそういうの始めてでしたから喜んでました。

で、午後に着いてさっそくターフを広げ、借りてたバーベキュー場に
行きました。まだシーズン初めで、ちらほらとしか人が来てませんでしたね。
で、炭を起こしてると、近くでうろちょろしてた息子の姿が見えなくなって。
5歳ですからね、そんな遠くに行けるわけもないし、目を離したのも
ちょっとの時間でしたが、どこにもいない。ほら、山で子どもがいなくなった
話なんかを思い出して、妻と2人で必死で探したんです。そしたら10分ほどで、
息子が藪の陰から出てきまして。心底ほっとしました。それでね、
息子はウインドブレーカーを脱いで手に持ってて、その中にたくさんの
栗とキノコが入ってたんです。「これどうしたの?」って聞くと、
「杖を持った白いヒゲのおじいさんにもらった。おじいさんはお父さんに
 よろしくって、しゅーんと空に飛んでったよ」こんなことを言ったんです。






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