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見下ろす家の話

2020.03.16 (Mon)
山本です、主婦をしています。どうぞよろしくお願いします。
あの、あまり人前で話をするのに慣れてなくて、起きたことを
順番に説明していきますが、もしわからないことがあれば途中で
質問してください。今年の4月、アパートからマンションに
引っ越したんです。あ、賃貸のマンションです。
うちは主人と、1歳になる息子が一人で、マンションは3部屋と
広かったので、子どもが小学校に入るあたりまではそこに
住もうと考えてのことです。場所は主人の会社にも近く、
通勤が楽になったとよろこんでました。それで、話は、
そのマンションのことじゃないんです。部屋はまだ新しいし、
事故物件ということもありません。そうじゃなくて・・・

11階建てのマンションで、部屋は9階にあります。
入居手続きはスムーズに進んで、自治会に入りましたし、
両隣の部屋の方にもご挨拶しました。ええ、どちらもうちと似た
家族構成で、ああ、息子にもいい友だちができるなって
喜んでたんですが。入居して3日目の午前中のことです。
夫を送り出し、天気のいい日だったので、ベランダに洗濯物を
干していました。そしたら、右隣の部屋のサッシが開いて、
土田さんの奥さんが出てこられたんです。左隣の方はお仕事を
されてましたが、土田さんは私と同じ主婦でした。快活な方で、
年齢も近く、これから何かと頼りになっていただけると思ってました。
土田さんがベランダの境まで来られたので、ご挨拶しました。

そしたら、笑顔でしたけど「あの、自治会長さんから聞いてないですか、
 ベランダには出ないほうがいいですよ」こんなことを言われて
ちょっと驚きました。「え、どうしてですか?」 「うーん、そっち
 行ってもいい」それで、玄関から入ってもらい、2人でうちのベランダに
出たんです。「ベランダに出られない決まりなんて聞いてないですけど」
「ええ、もちろんそんな決まりはないんだけど・・・ほら、
 あそこの家」そう言って、下を指さされたんです。「どこですか?」
「通り2つ向こうの左端に、蔦におおわれた家があるでしょ」
「え、ああはい、すごいですね。もう屋根の上まで蔦が来てる」
「こんなこと言っても信じてもらえないかもだけど、あそこの家、
 見るとよくないのよ。だから、うちでは洗濯物は乾燥機に入れてるし、

 タオルケットなんか大きいものは業者に出してる。他の部屋の人もそう。
 こっち側でベランダを使っているとこはないの」
「あの・・・家のせいでですか」 「ほら、蔦の家の隣、あそこは
 建売住宅なんだけど、ローンを残したまま引っ越して、今は誰も住んで
 ないし、買い手もついてない」 「それもあの家のせい?」
「そう、まだ子どもさんが小さいのに奥様が急死されて」
「何で亡くなったんですか」 「病気で、内臓破裂って話だった」
「あの家のせいなんですか」 「おそらく。あとね、あの家の向かいに小さい
 ビルがあるでしょ。そこも入居者がどんどん出てっちゃって」
「あの家、人は住んでない?」 「それがね、女の人が一人で住んでる。
 30代の後半くらいかな、ずっと引きこもって外には出ない。

 何で暮らしをたててるかわからないけど、親御さんの遺産じゃないかって
 言われてる。とにかくね、家から一歩も出なくて買い物もしない。
 食料なんかは月に何回か、宅配業者が箱で運び込んでる」
「その人の両親は?」 「私が越してくる前、10何年か前に亡くなってる。
 聞いた話だけど、両親同時にあの家で亡くなって、救急車とパトカーが
 来たみたい。ニュースなんかには出なかったけど、自殺って言われてる。
 これは噂なんだけど、両親が娘を道連れに無理心中しようとしたのが、
 娘だけ生き残った。父親は銀行の支店長だったって話よ。
 町内活動も熱心にやってたって。その頃はまだ、あんな蔦もなかった」
怖いなと思いましたが、その反面、興味もわいてきたんです。
もう一度蔦の家をよく見ると、びっしり覆った蔦の間から、

わずかに青い屋根が見えたんです。「見つめちゃダメ。とにかく、見ない
 ようにしてれば何でもないから。うちはサッシにブラインドをつけてる」
そう言われてみれば私のとこも、いやにぶ厚いカーテンがかかっていて、
もっと軽いレースののに変えようかと考えてたんです。
「見つめてると、どうなるんですか」 「わからない、けど、そうする人は
 いないわ」ここまで言われれば、どうしてもそうしますよね。
ただ、私は子どもの頃から好奇心の強いほうで、その家に興味を持って
しまったんです。ちょっとだけ行ってみようか。ただ前を通るだけで、
立ち止まったりしない。道なんだから他にも通る人がいるはずだし。
それから1週間くらいした月曜だったと思います。子どもをベビーカーに
乗せてスーパーに買い物に行った帰り、遠回りしてその通りに入りました。

普通の道で、車も通ってましたが歩行者はいません。でも、平日の午前
なんてそんなものですよね。その家は道の端で、もっと広い道に出る
交差点の角にあったんです。近づいていくにつれ、頭上が騒がしくなりました。
はい、電線にカラスがいたんです。そして、いよいよ蔦の家・・・
それはもう全体が蔦のかたまりと言っていいくらいでした。
塀から壁からすべて蔦で、引っ越して無人になっているという隣にまで
蔦は侵食していたんです。それとカラスが、家の前の電線に何十羽も
とまっていて、小鳥ならともかく、そんなの見たことなかったです。
背筋がぞくぞくしてきて、来たのを後悔しました。通り過ぎようか
戻ろうか、少し迷ったとき、カラスがグワーグワーと鳴き出したんです。
それだけじゃなく、買い物に疲れて眠っていた息子まで、

目を覚まして火がついたように泣き出して・・・戻ることにしたんですが、
ベビーカーの向きを変えるとき、慌ててよろけちゃったんです。
蔦の家の2階の窓が目に入りました。窓もほとんどが蔦に覆われて
ましたが、それがメリメリという感じで蔦をちぎりながら開いていき・・・
奥に白いトレーナーのようなものを着た人がいたんです。
ただ、ほんとうに人だったのかはわかりません。顔は見えなかったし、
幅が窓2枚分に近かったからです。人間だとしたらものすごく太ってる。
とにかくその場を離れようと、小走りでベビーカーを押しました。
背後ではカラスの鳴き続ける声。その間中、息子も泣き続け
だったんですが通りを出るとぴたりと治まったんです。とにかく、
かかわってはいけないものだ、ということは嫌というほどわかりました。

マンションに戻り、息子の様子は特に変わったところはありません。
はい、今でもとても元気です。魅入られたのは私でした。それからは、
夫にも事情を話し、半信半疑の様子でしたが、ご近所もそうしてる
ということで、ベランダには出ない、乾燥機を買うって約束してくれたんです。
ずっとベランダのあるサッシのカーテンは閉めたままで、
ふだんの生活に戻った、そう思っていたんですが、なんだかとても
お腹がすいたんです。私はどちらかというと痩せ型で少食なほうでしたが、
食事のたびに夫から、「よく食べるなあ、お前」と言われたんです。
べつに非難してる口調ではなかったですし、体重計に乗ってもそれほど
増えているわけでもない。だから、あまり気にしてなかったんですけど、
あの家の前に行ってから1ヶ月くらい後の夜中です。

自分では何も覚えていません。気がついたら真っ暗な中、ベランダに出て、
コンクリの手すりにもたれていました。お腹が苦しい、そう思ってさわって
みると、パジャマの下がパンパンに膨れてたんです。たしかに
夕食は多めに食べた、けど、こんなにお腹が膨れるまでには・・・無意識に
あの蔦の家を見ていました。角度があるので、2階の窓は下の端しか
見えませんでしたが、そこに明かりがついたようでした。ああ、あそこにあの
太ったものがいる、そう思ったとたん、吐き気が込み上げてきて、ベランダから
下に向かって吐いてしまったんです。何度も、何度も。「おい、どうした大丈夫か」
夫の声が聞こえ、後ろから抱きとめられました。その後、夫の車で病院に
行ったんです。冷蔵庫の中の食料がごっそりなくなっていて、生の肉や卵、
ソーセージなどがベランダまでこぼれていました。そのとき、私が食べたんです。






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