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飲むなの壺の話

2020.03.19 (Thu)
※ 骨董屋シリーズです。

あ、どうもお晩でございます。ここに来させていただくのも、もう何回目
ですかねえ。いつもの引退した骨董屋でございます。
また新しい出来事があったので、お話しにまいりました。
それでですね、もう私は店は持ってないんですが、昔の仲間なんかから
相談事がよく持ち込まれます。その多くは鑑定なんですが、
どうも、奇天烈なものは私のとこに持っていけば、なんとか目鼻を
つけてくれるって評判が流れてるみたいで、いわゆる曰くつきの品を
見ることも多いんですよ。今回もそのたぐいのもので。
持ってきたのは、まだ若い・・・といっても40代の骨董屋で、
この世界では40代はひよっこです。なんでも地方の旧家の当主が
亡くなって、その遺産整理で出たものだということでした。

まず価値がわからないし、収蔵のしかたも変だったってことです。
他の収集品はきちんと蔵にしまわれてたのが、その壺だけは、
当主が寝起きしていた部屋の押入の上段に置かれてて、
木箱に入ってその上からぐるぐる巻きに縄がかけられていたそうです。
まるで外に出すのを嫌がってたみたいに。しかし、骨董品なんだから
気に入らないなら売ってしまえばいいわけで、そこが不自然ですよね。
ともかく見せてもらいました。箱は杉板でつくった新しいもの。
中から出てきたのが、高さ20cmくらいの無地の白い壺、
水差しとも一輪挿しとも言えそうなものでして、それが何なのかは
一目でわかりました。ボーンチャイナというのはご存知ですか。
イギリスで、中国や日本の白磁を目標につくられた陶器のことです。

といってもイギリスですから土が違います。陶磁器は陶石や磁器土
などからつくりますが、イギリスでは手に入りません。そこで、
陶石の代替として乳白色に焼きあがる牛骨灰を使用してるんです。
牛骨にはリン酸カルシウムが含まれますが、日本ではこの成分が
30%以上のものをボーンチャイナと言うんです。
でね、これがつくられ始めたのが18世紀末頃からで、つまり
新しいものってこと。ふつうはどこかに製作者の銘があるんですが、
底を見てもただのっぺりと白い。うーん、値段はつけられないと思いました。
西洋陶器ですからね。私の専門からは外れてる。
ただもちろん、さっき言った縄で縛られていたということは気になりました。
それでその骨董屋に、「これを預かって何かおかしなことはなかったかい」と

聞いてみたんですが、「倉庫にしまってたので特には」ということでした。
あとね、箱の中に壺といっしょにメモ用紙が一枚入っていて、
それには手書きで「Do not drink」とあったんです。「飲むな」って
ことですよね。意味がわかりません。この壺に水なりなんなり液体を入れて
飲むなということなのか。メモ用紙は黄ばんでいて、古いものと思いましたが、
時代もわからない。その亡くなった当主が書いたのかどうかも。
で、興味を惹かれまして、何日かあずかることにしました。
私はほら、女房に死なれてからずっと独り身で、枕元に置いて寝たら
何かわかることがあるだろうと考えたんです。
1日目の夜は何事も起きませんでした。朝になっても変わった様子はなし。
それが、2晩目に夢を見たんです。それがねえ・・・

お恥ずかしいですが、死んだ女房と2人で庭を歩いてる夢なんです。
その庭は見覚えがありました。私は女房とは見合い結婚でしたが、
その見合いのときの料亭のです。だから女房もまだ若い。
いや、そのときの会話なんてすっかり忘れてたんですが、一言一句、
思い出したというより、再現されたと言ったほうがいいでしょう。
朝になって起きたときには胸がどきどきしていました。
ああ、私にも若い頃があったんだな、そんなことを思いながら
壺を持ち上げると、少し重かったんです。中をのぞき込むと、うす赤い
水が溜まっていました。いや、前の晩にはなかったはずです。
これは何だろう? 飲むなというのはこのことなのか?
水はせいぜいコップで4分の1ほどの量。

まさか毒ではないだろうと思って、少しだけ皿に取り、指をつけて舐めて
みたんですよ。そしたら・・・ほとんど無味に近いがかすかに甘い。
あと何かの果実の香り、杏ですかねえ。そのあたりはよくわかりませんでした。
ほんのちょっとでしたから体には異変はなく、その水は外の
側溝に捨てました。人に何かを思い出させる・・・過去のことを
見せる壺なんだろうか。ともかく、枕元に置いて寝るのは続けました。
で、また数日たって夢を見ました。戦後の混乱期からようよう脱した昭和の30年代
ですね。私が最初の店を大きくして、若い人を2人使っていたときの夢です。
一人はAとしておきましょうか。当時20代後半で、知り合いから口利きを
されて雇った者です。もう一人は高校を出たばかりで、Bとしておきましょう。
いやもちろん、2人とも骨董は素人で、簡単な仕事しか任せてませんでした。

Aのほうは、どことなく癖のあるやつで、私の見ていないところで
Bをイジメていた節があったんです。それは何度も注意はしましたが、
その頃は、商売人は殴られて仕事を覚えるのが普通って時代でもあったんです。
Bはね、年が年だけに世慣れしてなくて、いつもおどおどした様子でした。
けどね、骨董屋には向いているんじゃないかと思ってたんです。
この商売はね、臆病なほうがいいんです。一か八かの賭けに出るような
やり方だと、どっかで必ず落とし穴にはまる。闇の深い商売なんですよ。
それでね、この2人、雇ってから2年後に、同時にいなくなっちゃったんです。
ある朝、私が起き出してきたら、2人とも布団におらず、それっきり。
その後に、店の売り上げがごっそり失くなってるのがわかったんです。
そのときは、2人がしめし合わせて持ち出し、どこかへトンズラしたと

考えました。いえ、警察に届けを出すことはしませんでしたよ。
消えたのは現金だけで、店の品物には手をつけてなかったですから。
ま、骨董を持ち出してもさばくあてもなかったと思いますけど。
ああ、すみません。夢の話でしたね。映画のようにひと続きになった内容でした。
まずAが店から表に飛び出し、ややあって、それに続くようにして
Bが出てきました。早朝のまだ誰もいない道です。
Aは走ってて、それをBが追いかけていって港湾に下りる坂のところで
追いつきました。それから口論になって、Aが懐から短刀を出して
Bの腹を刺したんです。夢とはいえ恐ろしい光景でした。
Bが手で押さえた腹から、どんどん血があふれてきて、顔色が白くなって
その場に崩れ落ちる。そこで目が覚めたんです。

心臓が早鐘のように打っていました。これは解釈するまでもないと思います。
Aの盗みに気がついたBが後を追いかけて刺された。
で、壺にはやはり中身が入っていましたが、今度は半分くらいまでの
黒い色の水。いや、さすがに舐めたりはしませんでしたよ。
別の容器に移しておきました。それにしても、夢で見たことが事実なら
傷害か殺人、といっても、もうすでに時効が成立してしまっています。
それから数日して、続きの夢を見ました。Aがオート三輪の荷台から
シートに包まれたものを下ろし、肩にかついで山林の中に入っていく。
いや、どこの場所なのかはわかりませんでした。
あんな山は周囲にいくらでもありますから。Aが時間をかけて大きな
穴を掘り、シートをその中に投げ込む。端から足先が見えてましたよ。

ああ、やはりBは殺されたのか、そう思いながら目を覚ましました。
壺にはまた水が溜まってましたが、今度は濁った泥水のようなもの。
それも別容器に移しておきました。でね、どうすることもできないですよね。
Bが埋められた場所は特定できないし、もしかしたらすでに
身元不明の遺体として発見されてるのかもしれない。
ここで終わりです。その壺は、持ってきた骨董屋にかいつまんで事情を話し、
安い値段で私が買ったんです。で、壺は中に入ってた水とともに
知り合いのお寺に持っていきました。そこには何度か古物の供養を
頼んでいたんです。供養の現場には立ち会わせてもらいましたよ。
壺は最後のほうに住職が宝具で打ち砕きました。そのとき、悲鳴とまでは
いきませんが、強い気が立ち上ったように思いました。まあ、こんな話なんです。





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