ベランダ

2014.01.18 (Sat)
小学校6年生のときの話。
うちはマンション住まいでペット禁だったけど、ベランダで亀を飼ってた。
それくらいはまあ大目に見られてたんだな。もちろん俺が世話する係なんだけど、
その頃は外で遊ぶのが忙しくてあんまりかまってなかった。
まあ飽きてきたたんだろうな。水槽の水がドロドロに汚れて嫌な臭いがしていた。
それで日曜の日に、母親から水くらい換えなさいってとうとう怒られて、
バケツを持ってベランダに出たんだ。

母親はその前でリビングに掃除機をかけてたんだけど、
それがつっとベランダに寄ってきて俺が外にいるのにサッシの鍵を掛けたんだよ。
ふざけてるのかと思ってサッシのガラスを平手で叩いたけど、こっちを見もしない。
そのときは「こんなことくらいで怒ってるなあ」としか思わなかったけど、
水槽の水をバケツに移して台所に戻ろうとしても、
鍵を開けてくれず平然と掃除をしてる。

ムカついて、手で強く何度かガラスを叩いたんだ。
そしたら妙なことに気がついた。ガラスを叩いた感じが、
まるで平らな岩の壁を叩いているようなんだ。ガラスのつるっとした感じがしないし、
たわんだりもしない。何より叩く音が聞こえないんだよ。
そういえばさっきから掃除機の音もしなくなってた。

母親はすぐ目の前で掃除をしてて、よく見ると怒ってる感じじゃない。
フンフンと鼻歌でも歌ってるような機嫌だった。
俺は手を広げてガラスにビターっとくっつくようにしてみた。
それで体全体でガラスを押す。ビクともしない。
どんどん力を込めてみた。普通そんなふうにすれば、
ガラスが割れるかもと思って、ふざけてるんなら開けてくれるだろ。
ところがぜんぜんこっちを気にしてないし、俺は巨大な壁に張りついているよう。
そこでさらに驚くことが起きた。リビングのドアが開いて俺が入ってきたんだよ。

完全に俺、顔形もきている服もまったくそっくりな俺が歩いてきて、母親と何か話してる。
そのもう一人の俺の顔はベランダのほうを向いているんで、ガラスごしに俺が見えるはず。
それなのに平然として母親と会話してる。声は聞こえない。
その頃にはもう泣いてた気がするな。リビングの中の俺のほうは、
ハンガーからジャンバーをとって外に出ようとしていた。
もう一人の俺はドアの前までいくと、急にくるっと振り返ってこっちを見た。

そのときに目が合ったんだよ。するとニヤッと表情が崩れて、俺に向かって手を振った。
実は俺がベランダに閉じ込められているのに気がついてたみたいなんだな。
その後、人指し指を立てて口にあてて「しーっ」のポーズをしてみせた。

もう一人の俺が部屋を出いていくと、手にガラスの感触が戻った。
そのままガラスを叩くとちゃんと音もした。母親がそれに気づいて、
びっくりした表情をしたので、鍵の部分を指さしてサッシを開けてもらった。
母親はあっけにとられたように、「あんた何でこんなとこにいるの、
 今出てったばっかりじゃない」と言う。
俺は泣きながら、今起きたことを説明しようとしたが、
もう一人の俺の「しーっ」の動作が気になってやめた。

母親は頭の中に?マークがいっぱいのようだったが、ベランダの様子を見て、
「ああ、亀の水を換えるんだったのよね」と言った。
その後、二度とそんなことはなく、もう一人の俺には会っていない。
ただお気に入りだったジャンバーがなくなってしまった。





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コメント
毎日、とっても楽しみにしています。
かわずさくら | 2014.01.19 10:43 | 編集
応援ありがとうございます。
怖い話はちょっと出来不出来が大きいんですがごかんべんを。
bigbossman | 2014.01.19 19:16 | 編集
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