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ヘチマの種とチンテの話

2020.04.04 (Sat)
あ、ども。じゃあ話をしてくけど、俺な、日本に
帰ってきたのが11年ぶりで、浦島太郎みたいなもんだよ。
こっちの事情がいまいちわからない。まあ、日本語は向こうでも
話してたから大丈夫だと思うが、もし何かおかしいところが
あったら言ってくれよ。つい2ヶ月前まで、東南アジアの某国にいたんだ。
某国っても、これからの話でどこだかはすぐわかるけどよ。
いちおう名前は伏せとく。で、何やってたかっていうと、
日本大使館の下請け。エージェントって言ったほうがわかりやすいか。
現地人の中に入って調査したり、日本人旅行者がトラブルに
巻き込まれてるのを解決したりの何でも屋だ。現地語はふつうに話せるよ
日本に帰れねえ事情があったから必死で覚えた。

あ? 日本じゃある組に入ってたんだが、いられなくなって
外国に逃げたのよ。いや、俺みたいなのは他の国の大使館でも
雇ってるだろ。そりゃ外交官様が汚れ仕事はできねえから。
で、今回の件で、現地の華僑社会と揉めちまってな。
詳しいことは言えねえが、日本から来た旅行客の一人が、
有名企業経営者の次男だか三男だったのよ。それが向こうで地元の
女に入れあげて、結婚しようって話になった。けど、それは罠でな、
ライバル会社が、その息子の行状が悪いのを知ってて、
幇(パン)に依頼して美人局を仕掛けた。あ、幇ってのは、
華僑の同盟結社みたいなもんだ。現地じゃかなりの力を持ってるし、
法律違反でも何でもやる。それで大使館から話が来て、

俺が何とかその息子を連れ出したわけ。まだ女に未練があって
グズってたけどな。で、日本に送り返したんだが、華僑社会に恨まれてな。
俺も久しぶり日本に戻ろうと思った。大使館で手続きを済ませ、
いったんヤサへ帰る途中だった。マンションの前でタクシーを降りると、
たまたま托鉢してる坊さんが3人いたんだよ。運が良かったんだなあ。
あのとき出会わなかったら、たぶん死んでた。その国は仏教国で、
坊さんはオレンジや赤の袈裟を着てる。日本の坊主を想像して
もらうと困るが、暑い国だからその下は下着だけ。
托鉢で暮らしてるんだよ。寺の中でふんぞり返ってる日本の坊主とは
まるで違う。でな、一番若い坊さんと目が合ったから、もうこの国を
出るんだと考えて、財布の中身を全部 鉢に入れたのよ。

したら、その坊さんが口を開いて、「首筋に何かついてます」って言う。
で、手を伸ばして取ってくれたんが、ヘチマの種だ。
最初は虫かと思った。黒い楕円形の小さい種で、そうだなあ
スイカの種よりちょっと大きいか。向こうではヘチマはよく
食われてるんだ。味は不味い。で、「ありがとよ」と答えてマンションに
入ろうとしたら、一番年配の坊さんが顔をしかめながら、
「それ、よくないものです」って言うんだな。「へええ、何で?」
「ものすごく悪い気を感じます。おそらくあなたを呪詛している種
 でしょう」って。それ聞いて、ちょっと気味悪くなった。
華僑の幇には道士っていうか、風水師みたいなのがついてて、
変な術をかけたりするんだよ。俺も恨みを買ってるわけだし。

「どうしたらいい」と聞くと、「私たちの寺院に来てくれれば、
 術を破る方策を考えましょう」ときた。少し考えて、
まだタクシーが近くにいたんで、その3人の坊さんを乗せて、
やつらの寺院に行ったのよ。いや、騙されるとは思わなかった。
そこの国は、人が素朴なのよ。他の東南アジアとはだいぶ違ってる。
まして坊さんだしな。20分ほどで寺院に着いたが、日本のお寺とは
イメージが違う。パゴダっていう、塔みたいな形をしてて金ピカに
塗られてるんだ。で、その寺院で祈祷をしてもらった。
向こうは小乗仏教で、儀式は鉦や笛を使ってにぎやかだ。
これで済んだかと思ってると、そこの寺の住職?が出てきて、
「かなり強い術がかけられてるので、祈祷だけではダメかもしれません。
 
 これをお渡ししましょう」って手渡されたのが、10cmないくらいの
素焼きのチンテ。あ、チンテってのは日本で言う狛犬。けど、
狛犬よりは沖縄のシーサーに似てるか。寺院の前に一対になってる
黄金の獅子像、そのミニチュアだ。お布施は十分してるし、
ありがたくもらっておいたよ。で、タクシーで部屋に戻った。
したらメイドに頼んでた荷造りが終わって中は片づけられてた。
メイドたって婆さんだけどな。しばらくは戻らないつもりだったが、
その部屋は大使館に預かっておいてもらう手はずだった。
で、エアコンのスイッチを入れようとしたら、足で何かを踏んづけた。
拾い上げると、さっきと同じヘチマの種。緊張したよ。ここに誰か
入ったのか。しかし鍵はかかってたし、荒らされた様子もない。

ヘチマ、呪詛・・・探したらそれ一個だけで、少し考えて窓から
外へ捨てた。日本へ戻る飛行機は翌日の午前10時。大使館に戻ろうかとも
思ったが、もう夕方だったし、起きて翌朝まで過ごすことにした。
部屋には拳銃もあるし、まさか押し入っては来ないだろう。
さっき坊さんからもらったチンテを机の上に置き、
拳銃は引き出しに入れて、ずっとテレビを見てた。そのうち夜が更けてきて、
少しならいいだろうと思い、ブランデーを出してグラスについだ。
ちびちび飲んで、酔ってるつもりはまるでなかったんだが・・・
12時少し前か。テレビ放送が終わったんで消して大あくびをした。
そんとき、ベッドのある壁に何かがいたんだよ。
黒い丸いものだ。ヘチマの種に似てたが、手のひらくらいある。

何だこれは、と見てるうちに、ぐんぐん大きくなって、
そうだなあ、日本の座布団ほどになった。上のほうに針金のようなのが
2本ついて動いてる。何なんだこれは? 「 ああっ!!」正体がわかって
俺は飛びはねるようにして後ろに退がった。ゴキブリだよ。
日本のとは違う現地のやつ。それがバッと翅を広げて壁から離れ、
向きを変えて俺の顔に飛んできた。段々になった腹が見えた。
「うわああ」俺は尻もちをつくようにして倒れ、壁が背中にあたった。
両手で顔をかばったが、その間から巨大ゴキブリの脚が入り込んできて
まぶたを引っ掻く。樹液のようなキツイ臭いがしたな。
これが呪詛? 馬鹿なと思ったとき、部屋の中が金色の光につつまれたんだ。
ドンと、ゴキブリ越しに何か大きなものがぶつかってきて、

ゴキブリが俺から離れた。顔から手を話すと、子馬くらいの大きさの
金色に光るチンテが口にゴキブリを横咥えしてたんだよ。
チンテは万力で締めるように、グシャリとゴキブリを噛み潰し、
うす黄色いクリームみたいなのがこぼれた。で、ふっと金色の光が弱まり、
チンテはゴキブリごと縮んで、コロンとカーペットの上に転がった。
ようよう俺は立ち上がり、そこまで行って拾い上げると、
寺院でもらった素焼きのチンテで、口にヘチマの種がはさまってた。
机の上にはなかったから同じものだ。・・・まあ、こんな話なんだよ。
え、信じられないって。・・・そうだろうなあ。
こうやって話してる俺でさえ、本当にあったこととは思えん。
だがな、そのチンテ、ここに持ってきてるんだよ。ほら、これだ。

ここに置いてくから、いろいろ調べてもらってかまわない。
そっから先は話すまでもないんだが、朝早くにタクシーで空港に行って、
日本に戻ってきた。俺は今、政府の仕事に関わってるし、
さすがにこっちで襲われるってことはないと思うが、油断はしてねえよ。
それにしても思うのは、向こうは呪詛とかがまだ生きてるってことだな。
同時に宗教の力も。それに比べて、日本の社会は無機質というか、
闇の部分がなくなってしまった。いや、それはもちろん、
詐欺や暴力事件はあるが、人を呪い殺すなんて誰も信じないだろ。
けどな、闇の部分があるってことは、それを照らす光もまたあるわけだ。
そういうことを学ばせてもらったのは、俺にとって意味があったと思ってる。
ここのあんたらもそうなんだろ。じゃあ、これで終わらせてもらうよ。





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