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図書室の本

2014.01.22 (Wed)
小学校6年生のときのことです。
4月にクラス替えがあり、わたしは自分から立候補して
児童会の図書委員になりました。小さい頃から本好きでしたので、
とても嬉しかったことを覚えています。すぐに第一回の活動があり各学年、
各クラスの図書委員から副委員長にも選出されました。
わたしの小学校は大規模校で図書室は大きく、たくさんの本がありました。
今は学校図書館に司書の先生がおられる学校も増えてきましたが、
当時は、担当の先生はおりますものの、
学級文庫選びや昼休みと放課後の貸し出し当番、
破損した本の修復や図書カードの整理など、
子どもの手でたくさんの仕事をこなさなくてはなりませんでした。

その頃、わたしたちの学校の図書室には奇妙な噂がありました。
今から考えれば、それはどこにでもあるような他愛のない怪談話で、
たくさんの蔵書の中に一冊、呪われた本があるというのです。
何でも、その呪われた本をたまたま開けてしまうと別の世界につれ込まれ、
二度ともとの世界に戻れなくなってしまうということでした。
ただ、この話は低学年では知らないという子も多く、
6年生はみな知っていましたが、
本気で信じているという人はいなかったと思います。
なぜならその図書室で誰かが行方不明になったり、
その他の事故が起きたなどという事実はなかったからです。

それでも放課後に当番数人で残って本の整理をしていて、
初めてみる題名の本を開くときなど、ちょっと気持ちが悪いこともありました。
特に「井田文庫」の本を手にしているときには。
「井田文庫」というのは地域の資産家の方が、
5年ほど前に学校に寄贈されたもので、
児童文学全集が何種類も揃っており、本棚二つに並べられて
図書室の一番奥の廊下側にありました。当時の子どもたちの噂では、
これらの本は資産家の方が亡くなったお嬢さんのために買い揃えたもので、
呪われた本はその中にあるということでしたから。
本自体はページも日焼けしておらず、破損などもほとんどありませんでした。
貸し出しをしていなかったのと、噂のせいで、
図書室内で読む子も少なかったためだと思います。

夏休み前の委員会でちょっとした出来事がありました。
「井田文庫」を寄贈されたお家の方が図書室を訪ねてこられたのです。
学校では全校集会でお礼をという話もあったそうですが、
それは大げさすぎると断られ、図書委員の活動時に、
文庫の様子を見ていただくということになったのです。放課後、
図書委員が集まっているところに来られたのは、背の高い女の人でした。
白地に水色の模様の和服を着ていたのを今でも覚えています。
すらりとして色が白く、今思い返してみると30代前半くらいだったでしょう。
その方はわたしたちの前で「サワチです」と名のられました。
苗字が「井田」でなかったのが不思議でした。

わたしが委員を代表してお礼の言葉を述べると、
サワチさんは何だか目の焦点が合わないように視線をさまよわせ、
「本がみなさんの役に立ててうれしい。これからも大切にしていただけたら」
という内容を短く話されました。記念の寄せ書きをわたすとき、
差し出した手をとり体を折ってわたしの目を覗きこみました。
その瞳をわたしも見ましたが、金色に近いような黄色でした。
ああこの人は日本人ではないのかもしれない、と思いました。
この後、サワチさんは「井田文庫」の本棚の前で、
しばらく背表紙をみておられましたが、礼を言って帰っていかれました。

夏休み明け、秋になった頃のことです。
その日の放課後、わたしは泣きながら図書室にかけ込んできました。
嫌なことがあったのです。いじめなどではありませんが、
仲違いをしていた友だちに、わたしのほうから謝って仲直りをしようとしたら、
すげなく拒絶されてしまったのです。「あんたの他に遊ぶ子は
 いっぱいいるから。あんたは一人で本でも読んでいればいいの」
こんなことを言われました。図書館の鍵は開いていましたが、
生徒や先生の姿はありませんでした。
わたしは人に見られないよう奥まで走り込みました。
あの井田文庫の棚のあるところです。そのときは、
今あったことで心がいっぱいになっていて、
怖いなどという考えは頭に浮かんでこなかったのです。

本棚を背にしてどっと座り込みました。そのとき体があたって棚が揺れ、
重い音を立てて一冊の本が脇に落ちてきました。
厚く豪華な装丁の「小公女」でした。わたしは泣きながら、
その本を手に取ろうとしました。でも手が動かないのです。
いつの間にかあたりが暗くなっていました。肩と腕の痛みが襲ってきました。
両肩が後ろに回され、縛られているかのように手を動かすことができません。
下に目を落とすと、わたしの両足が白い袋に入れられ、
荒縄でその上からぐるぐる巻きにされていました。
何が起きているのかわけがわかりません。図書室にいるのではないようでした。
暗いせまい部屋の中です。饐えたような臭いがしました。
背の高い本棚がいくつもあり窓をふさいでいました。

目の前には太い木の格子、そして体の横に人の気配を感じました。
首を曲げてそちらを向くと、見覚えのある顔がありました。
いつか学校にこられたサワチさんだと思いました。
でも、学校で見たときより若いように感じられました。サワチさんは歌うように、
「さあ、早く食べなさい。お食事を済ませなさい」そう言いながら、
手に持った箸でわたしの口に何かを運んでよこします。

赤黒い塊がわたしの口元に押しつけられました。
生臭さに息がつまりそうでした。
生の肉だと思いました。わたしが歯を食いしばっていやいやをすると、
側頭部を平手で叩かれ、頬にめり込むほど箸に力を込められました。
「ききわけのない子。おいしいお食事なのになぜ食べない。
 食べなさい、さあ」やはり優しく歌うような声。

「嫌だ!」わたしは動かない体を強くよじりました。
そのとき、卵の殻が割れるのを内部から見ていたように、あたりのものがはじけて、
わたしは涙でぐしょぐしょになりながら図書室の床に座り込んでいたのです。
今の今まであった光景はなんだったのでしょうか。
知らぬ間に眠り込んで夢を見ていたのでしょうか、
今から考えるとそうかもしれません。

でも、あの生肉のねっちゃりとした感触と臭いが、
顔のまわりに残っていたのを覚えています。座っている横に本がありました。
「小公女」の本がページを下向きにして床に落ちていました。
わたしはしゃくりあげながら立ち上がり、拾って棚に戻そうとしました。
本を閉じようとしたとき、ツメか何かでこすって余白に
字が書かれていることに気づきました。光のあたる角度を変えてみると、
それは「タスケテ」と読めました。これでわたしの話は終わりです。





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