FC2ブログ

霊気の研究の話

2020.05.20 (Wed)
あ、どうも。俺、松本って言って、〇〇大学の社会環境学部って
とこの4回生です。あ、知らないですよね。まあそうだと
思います。地方大学だし、自分の母校だけども、
はっきり言って、名前さえ書ければ誰でも入れるような学校で、
俗に言うFラン以下。だから就職もね、地元の鮮魚市場とか
宅配業者とか、そういうのが多いんです。
まあね、親の金で4年間遊ばせてもらってるようなもんです。
それでね、専攻してる社会環境学ってのは、この世の中の
ありとあらゆることが対象。社会の環境なんだから、当然
そうなりますよね。先生方は、このあたりの高校の
社会科教師を退職した人が多いです。

そういう人を安いお金で雇ってるわけだから、あんまりやる気が
ないっていうか、授業も休講が多いし、一単位100分のところ、
半分くらいの時間で終わっちゃうのがほとんど。
でほら、4年だからいちおう卒論はあるんです。けど、
審査なんてないも同然。内容はヒドいもんです。例えば、
昨年度の論文集に出てる「犬の排泄に関する研究」ってのは、
大学のある街を回って、どの電信柱が最も臭いかを調べたもの。
「女子制服の研究」は、この近辺の高校の女子の制服の
スカートの長さを調査したやつで、まず世の中の役に立つような
ことはありません。え、俺の卒論ですか。それが、
「らっきょうの皮論」って題名で・・・

あ、内容は聞かないでください。でね、こっから話すのは俺の
ことじゃなく、同じ4回生の西根ってやつについてです。
友だちだったんです。今年の4月、卒論の内容を決めなくちゃ
ならなかったんだけど、俺も西根もギリギリまで決まらなくて。
まあね、遊び呆けてたからだけど。それでも何とかひねり出したのが、
俺はらっきょうの皮で、西根が霊気。あ、霊気ってどういうことか、
今から説明していきます。この西根ね、心霊スポットめぐりが
大好きだったんです。俺と行っただけでも10ヶ所以上になるし、
他のやつとも、単独でも行ってました。ええ、大学のある街は
戦国時代以前からの城下町だし、太平洋戦争の戦災も
ひどかったんで、いわゆる心霊スポットって多いんです。

いやあ、俺は幽霊なんてまるっきり信じちゃいなかったですけど。
人間、死んだらそれで終わり、だから一生をどのくらい
面白おかしく遊び暮らせるかが勝負だと思ってました。けど、
西根は意外にも真剣で、この研究で認められて、俺は一流企業に
就職してやるなんて意気込んでました。でね、西根がやったのは、
まず百均に行って、大量のフタつきガラス瓶を仕入れてくることでした。
ほら、梅酒なんかを入れるやつ。「それどうするんだ?」って
聞いたら、「いや、心霊スポットに行ったら、そこの空気を詰めて
 観察する」って言ってました。ね、どうしても笑っちゃいますよね。
俺が笑ったら西根は憤然として「まあ見てろや」って。
それから、西根のアパートに酒飲みに行くたび、

ガラス瓶が増えてったんです。どっから見つけてきたのか、
スチール製の錆びた棚に並べてたのが、2ヶ月くらいのうちに
40本までになったんです。棚の背部には黒い模造紙を切って
貼りつけ、ビンの中身が見えやすくなってたんですけど・・・
俺が見るかぎりでは、中は空と言うか、ただの空気が入ってるだけ。
「集めたのはすげえと思うけど、この後、どう研究を進めるんだ」
そう聞いたら、西根のやつ、困った顔をしてましたが、
「いや、心霊スポットで空気を取ったときには、中に何かが
 入ったって確信があった場所がいくつかあったんだよ。
 けど、時間がたつと気配が感じられなくなっちゃうんだ。
 ガラスだと霊を長期間閉じ込めておくのは無理で、少しずつ

 抜け出しちゃうのかもしれない」こんなことを言いました。
バカじゃねえかと思ったんですが、本人は真剣だったので、俺、
「霊には御札ってなってるじゃねえか。ええと、封印って言うのかな。
 どっかの神社から御札を大量に買ってきて、あらかじめ瓶に
 貼っつけといてから、霊気を入れればいいんじゃないか」
そう言ってみたんです。そしたら西根はぱっと顔を輝かせ、
「あ、そうか、そうだな。何で気がつかなかったんだろ。お前、
 頭いいな。一からやり直しになっちゃうけど、そうしてみるよ」って。
でね、卒論はあるけど、大学の授業はほとんどないんで、
俺は相変わらず遊び暮らしてたんですが、西根を誘っても出てこなく
なったんです。自分の部屋に閉じこもって研究を続けてるらしい。

そういう噂が流れてて、心配になって行ってみました。
そしたらね、スチール棚が増えてて、ビンの数は100本を超えて
ました。西根は飯食ってないのか、かなり痩せた感じでしたけど、
目だけはランランと輝いてたんです。「お、松本か。お前のアドバイス、
 大正解だったよ、あれから心霊スポット100ヶ所以上に行き直し、
 空気を瓶に詰めてきた。ほとんどは何の変化もなかったが、
 この4本は違う」そう言って、棚の上段を指差しました。瓶には、
フタから後ろ側にかけて、近くにある護国神社の御札が貼ってあり、
前方には横長の紙に、それを採取した心霊スポットの場所が
書いてあったんです。「ふうん」その4本の中を見てみると、
たしかにどれも、中に白い煙のようなのが渦巻いてたんです。

・・・でもね、その時点でも俺はまだ信じてなかったんです。
それ、西根がタバコの煙かなんかを入れたんだろうって考えてました。
で、写真に撮って貼っつけ、論文を完成させる。バカバカしいと
思うでしょうけど、そんなんでも俺らの大学は通っちゃうんです。
「ときどきな、この煙が顔になって見えることがあるんだ。
 できたらその顔を撮影して、誰なのかを明らかにしたい」
そう言ってたんで、「ガンバレよ。ただ、無理はすんな。霊障って
 言葉を聞いたことがあるし、体壊したら何にもなんないから」って
声をかけて帰ってきたんです。それから1ヶ月ほどして、相変わらず
西根は部屋に閉じこもってる。けど、こんな話が聞こえてきたんです。
西根のアパートの駐車場にときおり高級車が停まってる。

部屋を誰かが尋ねてきてるみたいだ。そいつらは黒いスーツを
着て、いつもサングラスをかけてるって。でまた、西根の部屋に
行ってみました。すぐに出てきましたが、ものすごく痩せてて、
顔は真っ白でした。「おいおい、大丈夫か。少しは日にあたれよ」
そう言うと、西根は勢い込んで「霊に関して、あることがわかった。
 これは俺だけじゃなく、人類にとっての大発見だよ。
 ネットでそのことを少し掲示板に書いたら、翌日にアメリカの
 製薬会社の人が尋ねてきて、俺を研究所に入れてくれるって。
 なんと最初から給料100万は保証するってさ。すげえだろ。
 まあ、日本とはオサラバすることになるかもしれんが」
そんなことを言ってたんです。妄想だろうなって思いました。

んなの、あるわけないじゃないですか。けど、さらに1ヶ月して
大きな出来事が2つあったんです。一つは、ほら、西根が御札を
もらってきた護国神社、火事になっちゃったんです。それも拝殿、
本殿が全焼するほどの大火災で、神職の人も何人か亡くなった。
原因はわかってません。もう一つは、西根が行方不明になったことで、
ずっと音沙汰がないので実家の両親が尋ねてったら、部屋にいない。
いつも使ってるスマホや銀行のカードは残ってたらしく、捜索願いを
出したそうです。部屋には幽霊の瓶は一本もなかったってことでした。
それから今まで行方知れずなんです。まあこういった話で。
え、俺? らっきょうの研究はいちおう完成させました。
就職も決まりました。それがね、地元の漬物屋なんですよ、はははは。
 




関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/2496-a9bc7471
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する