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県大会

2014.01.27 (Mon)
高校3年の夏のことだ。
俺は柔道部でね。その年は当然ながら高校最後のシーズンで、
俺らは中央地区の大会で団体3位に入って県大会に出場することになった。
県大会は県内のあちこちの市で持ち回りでやることになってって、その年は県南のほうだったな。
高体連に申し込みをすると、宿が安い料金で割り当てられてくる。
ただチーム数が多いんで、ちょっと離れた町村部の旅館とかになってしまうこともある。
その年も、会場のある市から少し離れた町の旅館に1泊することになった。

旅館は古い造りで、なんでも昔から行商人が泊まってた宿らしく、
部屋は日本間で、畳なんかは日に焼けて焦げ茶色に近くなってた。しかもエアコンがない。
それでも夕食はトンカツを出してくれたし、
前日計量も終わってたから俺らは何杯もおかわりして飯を食い、
でかい柔道部にはせまい木造の風呂に入って部屋に戻った。
団体戦のメンバー5人と補欠3人、個人だけに出る軽量級のやつが1人の計9人。
これが4人と5人に分かれてそれぞれ8畳間に寝る。俺は4人のほうに入ってた。
それから監督とレンタカーのマイクロバスを運転してくれた父兄の人たちは別の部屋。

10時には消灯するスケジュールだったんで、それまでテレビを見て過ごし、
9時50分に過ぎに監督が部屋に入ってきて、
「明日は大事な試合だから絶対寝とけよ」と言って電灯を消していった。
とは言っても高校生が寝るには早い時間だし、暑いし、興奮してることもあって寝つけず、
ぼそぼそ小声で話したり、ひんぱんに寝返りを打ったりしていた。
それでも1時間ぐらいすると、一人また一人と静かになっていった。
俺もうとうととし始めたとき、細いけれども甲高い声が聞こえてきた。
「・・・わたしは、わたしはここで死んだのです」こう言ってるように聞こえた。

それで目が覚めたが、だれか寝つけないやつがふざけてるんだと思って、
「こらやめろ。早く寝ろ」と小声で言った。俺はいちおう副主将だったしな。
しばらく静かになったが、また「・・・わたし・・は、ここで死んだのです」と聞こえてくる。
「ふざけるなよ、明日試合なんだぞ」ちょっと怒気を含めて言ったら、
「なんかオカシイ」という声がして、だれかが立ち上がって電灯をつけた。
同じ3年のメンバーのやつだった。
そいつが「しゃべってるのはこいつだけど、変だぞ」と言って寝てるやつの一人を指さした。

見ると2年生の補欠で、120kgある後輩が仰向けに寝てるんだが、
タオルケットをはがして短パンにTシャツ姿で腹を出し両手を胸の上にあげ、
にぎにぎするような格好をしている。
顔は真上を向き、目をつぶって苦しそうな表情をしてる。
うなされてるんだと思い、「オイ、起きろ」と揺すったが身じろぎするだけで目を開けない。
そうしてるうちに口がすっとすぼまって、
「・・・わたしは、ここで死んだのです」と笛を吹くような甲高い声で言った。
こいつ普段は、超重低音でしゃべるやつなんだ。

それで俺が「監督に知らせてくる」と大人の部屋に行ってノックしたら、
「何だ」と言って、すぐに監督が顔を出した。酒臭かったので、
父兄の人とビールでも飲んでたんだろう。
それはともかく、事情を話したら「ふーん、どれちょっといくか」と俺らの部屋にきた。
部屋に戻ると、もう一人の3年のやつも起きてて、寝てる後輩のわきに膝をついて、
「先生、こいつ起きないんです」と言った。
監督がその寝てる顔を覗きこんだとき、また後輩の口がひゅーと伸びて、
「・・・わたしは、ここで、死んだのです」

監督は笑い出し「おもしろいなこれ」とつぶやきながら、俺らの顔を見て、
「なんか霊のようなのがきてるのかもな。
せっかくだから次しゃべったときにお願いしろ」と言った。
俺らが驚いて「えっ、何をですか」と聞くと、「明日の勝利に決まってるだろが」と答えた。
それで待ってたら、「・・・わたしはここで・・・死ん・・」
そのとき監督が寝てる後輩に顔を近づけ、大声で、
「どなたか知りませんが、明日の試合を応援してください。よろしくお願いします。
・・・さあ、お前らも言え」と言ったんで、俺らも声を揃えて「応援、よろしくお願いします」
と叫んだ。

その後、監督が後輩の腹に乗って、絞め落とされたやつに活を入れるときのように
両脇をぐっと押すと「うーん」と言って後輩は目を開けた。
皆がまわりをとりかこんでるのが、わけがわからないという様子だった。
簡単にそいつに事情を説明してから「まあ、もう大丈夫だろ。また何かあったら言いにこい」
監督が電灯を消して出ていき、俺らは再び寝た
当然ながらあまり眠れなかったが、その後は朝まで何事もなかった。
翌日の大会で俺らのチームは順調に決勝まで勝ち進み、下馬評ではベスト8くらいだったのが
相手のポイントゲッターの奇跡的な反則負けなどもあり、なんと優勝してしまった。
霊のおかげかどうかはわからない。

その後、帰りのバスの中で監督が、
「あのな、宿の人に幽霊の話をしたらな。心あたりがあるみたいだったぞ。
あそこの旅館は行商人の宿と言ったが、
一時期、鉱山の人相手のお女郎屋みたいなこともやってたらしい。
お女郎屋ってわかるか?
それで、さすがに武道をやる人たちはすごいですねって感心しまくりだった」
こんな話をしてガハハハと笑った。
その後俺らは東北大会に出場したが、宿はホテルで霊関係のことは何も起きず、
予選で敗退した。


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