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守りの山の話

2020.05.31 (Sun)
これな、もう20年も前に死んだジイさんに、俺が子どもの頃
聞いた話だから、たぶん昭和初期くらいの出来事だよ。
ジイさんは若い頃、山師をしてたんだ。山師ってのは、
詐欺をするってことじゃなくて、基本は、あちこちの山を
回って鉱脈を探す仕事。ただ、それだけじゃあ食って
いけないから、いい庭石になるような岩や、楓の樹なんかを
見つけて里に下ろしたりもしていた。ああ、庭師としての
腕も確かだったな。場所は、どこの山とは教えてくれなかった。
子ども相手とはいえ、差し障りがあるんだろう。
こんな話だよ。ジイさんは1年のうちのほとんどを
日本各地の山に入って過ごしてた。まだ独身だったんだ。

で、ある温泉宿に泊まってるところへ、山師仲間がひょいと
訪ねてきた。「お、どうした?」と聞くと、「あんたが
 ここに滞在してるって聞いてやってきた。ちょっとな
 おかしな山があるんだ。いい石を探してて、山主に
 金払ってその山に入ったんだが、妙なことが起きるんだよ。
 それで奥まで進めねえ。こういうことあんた詳しいだろ。
 このままじゃあ損をかぶっちまうから、いっしょにその山に
 入っちゃくれないか」こんな話だった。
「お、いいけどよ。おかしなことってどんな?」
「それがな、最初の日な、獣道を見つけて登ってったんだよ。
 朝早くに出て、そんな難所もなく、昼前には頂上に出る・・・

 それがな、気がついたら麓に下りてた」 「はあ? そんな
 わけはねえだろ。登ってるか下ってるかは、どんな馬鹿だって
 わかる」 「まあな、でな、それだけじゃあねえんだ。
 そんとき弁当を持ってたのよ。味噌握り2つと塩鮭の切身を
 焼いたやつ。それが、異様な臭いがして、開けてみたらなんと、
 野ネズミの死骸が入ってたのよ。それもドロドロに腐り溶けたのが」
「うーん、もしかしてそれ、狐に化かされたっていうやつか」
「向こうの地元の人にもそう言われた。けどよ、狐が化かすなんて
 ほんとにあるのか?」 「いや、俺はねえよ。ああいうのは
 酒飲んでしくじりしたやつが、照れかくしに言うもんだろ」
ジイさんはその手の話はまるで信じてなかったそうだ。

で、二つ返事でいっしょにその山に登ることになり、5日後、
汽車に乗ってその村へと向かったんだ。知り合いが駅で待ってて、
翌早朝から山へ登ることになった。奥まった山あいにある
1000m級の山。名前はついてなかったそうだ。
で、秋口でまだ日は長い。5時頃から、前に入った獣道から
登り始めた。「なんだこれ、変哲もねえ山じゃねえか。で、
 石ってのはどのあたりにある」 「八合目付近がガレ場に
 なってて、そこらに一丈ほどの花崗岩がごろごろしてるって
 聞いた」 「まさか磐座じゃねえだろうな」 「いや、
 そんなことは言われてない」ジイさんの話では、古代人が
山の中にしつらえた磐座、これは触ると、確実に祟りがある

ってことだった。だから絶対手は出さねえ。狐に化かされる
なんてのとは違って、間違いなくあることらしい。
それで、知り合いが前になって細い獣道を進んでいくと、
ザッと雨が降ってきた。いや、天気は確かめてて、
その日は日がな晴れるはずだったんだ。実際、頭上には朝の
光が差してたから、天気雨ってやつだ。「やっぱ狐か?」
「濡れるほどのもんじゃない。気温も高い。行こうぜ」
ジイさんがそう言い、また草を分けて進んでくと、
しばらくして雨はやんだが、濡れた服が異様に臭かった。
まるで小便でもかけられたかのようだが、ま、そんなことで
ひるむジイさんではない。コツンとかぶってた笠に何かが当たった。

落ちたのを見るとまだ青い栗のイガだったんだと。イガは
パラパラと降ってきてあちこちに当たったが、まだその時期の
針は柔らかいし、2人とも長袖で手ぬぐいで頬かぶりした上に
笠をつけてる。痛いということもなかった。ジイさんが脇の木の
上を見ると灰色のものがわずかに見え隠れしてた。
猿、ニホンザルだったんだな。ジイさんは「畜生どもが、何
 イタズラをするか」 知り合いも「人間様をなめるなあ!」
そう叫んで、2人して木の幹をどんどんと蹴った。
頭上で「キーッ」という鳴き声がして、それが合図らしく、
猿どもは木を伝って逃げてったということだ。
「エテ公めが」 「お前、前に来たときに猿がいたか」

ジイさんが聞いたが、知り合いは「気がつかなかったな」という答え。
「でもなあ、猿がなんで俺らが登るジャマをする。山はここだけじゃなく
 ずっと続いてるのに」 「さあなあ」 2時間かけて五合目
あたりまで来た。ゆっくりに思えるだろうが、道はあって
ないようなもので、2人ともナタを抜いて枝を払いながら
進んでたからだな。さらに1時間登ると、植生が変わって道に
ゴロタ石が多くなった。ガレ場に入ったんだな。高い木がなくなり
見晴らしがよくなった。前方に岩の崖があり、大きな石が
たくさん転がってる。ジイさんは「うーん、たしかにいい石がある。
 こりゃ金になる山だぞ」と言い、知り合いが「だろ」と
相槌を打った。その途端、真っ暗になったんだそうだ。

「あ?」 「こりゃどうしたことだ?」まだ昼前だし、夜に
なるわけはねえ。それが自分の足元も見えないほどの真っ暗闇。
ただ、それが本物の夜でないことは、空に星も月も見えないことで
わかったそうだ。ジイさんが「タバコつけろ」と言い、
2人は当時のキセルタバコに火をつけ、その場で滅多矢鱈にふかして
周り中を煙だらけにした。あ、タバコの火は赤く見えたそうだよ。
そうして一服してる間に、だんだんに闇は溶けていき、
カンカン照りが戻ってきた。「こりゃあ、よほど俺らを先行かせたくない
 らしいな」やがて広くなったガレ場に出ると、なんと猿がたくさん
その場に土下座してたそうだ。その数は数十。頭を礫にすりつけて
平伏してる。知り合いが「こらこら猿ども、俺は山主にちゃんと

 金を払っておるから、ここで帰ったんじゃ大損になる。
 散れ、畜生どもが。次に来るときは鉄砲撃ちをつれてくるぞ」
そう言って石を投げつけると、猿たちはそのまま後ずさりして消えたという
ことだ。「ここ、なんかあるな」と2人で探すと、大きな岩に
人が かがんで入れるほどの穴が穿たれていて、ノミの痕が見えたので
人が掘ったものだ。中に入って少しいくと 「う!」、いつの時代とも
わからぬぼろぼろの甲冑が岩壁にもたれかけて置かれ、その前に
木の実やらたくさん供えた跡があったそうだ。「こりゃあ、猿どもの
 ご本尊か」知り合いがそう言って、兜の面の穴から中を覗き込むと、
白い骨が見えたと。おそらくは戦国時代とかのものなんだろう。
どういう理由か、その山中で甲冑姿のまま亡くなった武将がいた。

でな、そのときに鎧から声がしたそうだ。「〇〇、早く里へ帰れ。
 お前の女房が死んでおるぞ」〇〇というのはジイさんの知り合いの
名で、この声はジイさんもはっきりと聞いたそうだ。
それで気味が悪くなって、2人で逃げるように山を下りた。
結果から言うと、ジイさんの知り合いの女房は死んではいなかった。
けど、これはただごとではないと思い、ジイさんが知り合いを説得して、
その山のことはあきらめさせたんだと。ジイさんは戦前の
鉱山専門学校を出てて、学もあり、嘘を言うような人間じゃない。
だから、この話もほんとうにあったことだと思うぞ。
最近、ニホンザルは増えてるって聞くからな。その甲冑も、
不可思議な力に守られて、今もあるのかもしれんよ。

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