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駅自販機の話

2020.06.09 (Tue)
※ ナンセンス話です。

あ、僕、山本って言います。駅自販機の補充の仕事をしてるんです。
正社員じゃなくバイトで、飲料販売の会社に雇われてます。
これ、あまりご存知のない方が多いんですが、飲料の自販機には
2種類あって、一つは飲料メーカー直営のもの。赤い色をしてて目立つ、
コカコーラの自販機、ダイドーさん、キリンビバレッジさんのものとか。
もう一つが、僕が働いてるような飲料販売会社のもの。はい、
自社で開発した自販機に、さまざまなメーカーの飲料を入れるんです。
入れる商品は季節によって違うんですが、お客様のアンケートを
もとに決められてます。で、最初は街中にある自販機を
担当してたんですけど、2年目から駅の自販機担当になったんです。
僕が受け持ったのは近接した私鉄の駅2つで、合わせて6台の

うちの自販機があります。こう言うと楽だと思われるかもしれませんが、
けっこう大変なんですよ。ほら、街中の自販機なら前の道路に
車をつけて補充できるけど、駅構内じゃそんなわけにいかないですよね。
商品を積んだ台車を押して通用口から入って補充するんです。
ですから何回も往復しなくちゃなんない。それと、駅の自販機って
商品がすごく売れて、街頭にあるのとは比較になりません。
基本毎日補充しますし、時期によっては1日2回のときもあります。
もちろん一人でやるわけじゃなくて、山田さんという50代の
ベテランの人と2人組でした。もう何十年もこの仕事してて、
駅のことなら何でも知ってるんです。
それでね、山田さんからはいろいろと怖い話を聞かされたんです。

自販機って、商品取り出し口にフラップがついてるのと、
そうじゃないのがありますよね。フラップはトラブルの原因に
なることが多いんです。連続して商品を購入して詰まったとか、
子どもが手をはさんだとか。ですから、ついてないもののほうが
多いんですけど、駅のホームは違います。何でフラップつきなのか
わかりますか。これね、山田さんの話だと、ホームで飛び込み自殺が
あったとき、取り出し口に肉片なんかが飛び込むのを防ぐため
なんだそうです。いやあ、本当にそういうことがあるかは
わかりません。駅担当になって2年になりますけど、
そういうケースに遭遇したことはないです。
あとね、自販機の正面を線路側に向けない。柱の陰とか、線路に

側面が向くようにして置く。これも同じ理由での破損を防ぐためです。
あ、すみません、本題と関係ない話が長くなってしまって。
補充する時間は朝夕のラッシュを避けます。ふだんは夜間、
終電前後の時間帯にやることが多いですね。お客さんがまばら
ですから。1日2回の場合は、午後の2時ころにも。
でね、2週間前のことです。会社に出ると山田さんが休み
だったんです。家で頭が痛くなって救急車で病院に運ばれたって
連絡が来てるということでした。心配でしたが、仕事があるんで
見舞いに行くこともできない。会社のほうでは、山田さんの代わりに
入ったばかりの若い子を一人つけてくれました。もちろん僕と同じ
バイトで十代の茶髪の子、名前は木村って言いました。髪はまあ、

帽子かぶればわかないですけど。僕が運転して駅に向かいました。
夜の8時過ぎで、すでに帰宅ラッシュが終わってる時間です。
業者専用の入口から入り、警備員さんにあいさつしてホームに
入ります。台車ですから階段は使いません。それで、その駅の
2台目の自販機で商品を補充、金銭を回収して周囲を掃除します。
で、3台目に向かう途中です。急にホームの明かりが消えたんです。
「え?!」照明だけじゃなく、表示板とかも全部。
けど、それは数秒のことで、すぐに明るくなりました。駅は独自の
発電システムを持ってて、停電はまずありえないんですが。
木村が「今、一瞬暗くなりましたよね」と言い、
「あ、そうだったな」と答えました。ここで不思議だったのは、

まばらにいる乗客が特に何も反応してなかったことです。
まあでも、時間が短かったせいだろうと思いました。でね、先に立って
台車を押してた木村が、3台目の自販機の前ですっとんきょうな
声を上げたんです。「えーっ! えっ、何だこりゃ??」
「こら、大きな声を出すな」と注意はしたものの、僕も自販機の
前に行って絶句しました。機械自体はうちの会社のものなんですが、
中に入ってる飲料がまったく違ってたんです。というか、
どこでも見たことがないものでした。どれも同じ500mlの缶で
全体が真っ黒。それに白い字で人の名前が入ってる。
はい、名前と・・・「佐藤睦夫 享年47」みたいな感じで、
これってその人が死んだ歳ってことですよね。

「何だこれは・・・」2人で呆然としてると、また構内が
真っ暗になったんです。今度は10秒・・・20秒たっても明るく
ならない。「どうなってるんスか」木村が不安そうな声を出し、
「わからん、回復するまで動くな」そうは言いましたけど、
僕もすごく動揺してたんです。もう10秒くらいしてパッと
電気がつきましたが、いつもよりも暗く、青みがかった照明です。
「えっ、えっ?」また木村が声を出し、その理由はすぐにわかりました。
さっきまで、まばらながら10数人はいたはずの乗客が誰も
いなくなってたんです。そんなはずないですよね。避難したとしても
あんな真っ暗な中でできないですよ。自販機は前と同じで、
不気味な、名前入りの墓石のような缶がずらっと並んだ状態。

目で駅員を探しました。けど、いつもいるはずのホーム係の姿も
見えない。人っ子一人いないんです。「どうすればいいんですか」
木村がおびえた声を出したんで、「とにかく台車はここに置いて、
 階段を使って改札のほうに出てみよう」・・・けど、階段なんて
なかったんです。ただ、水に浮かぶ島みたいに一本のホームだけがある。
また台車の前に戻ってきました。そのとき構内放送のアナウンスが
入ったんです。「まもなく、○番線に自殺列車がまいります。
 黄色い線の外に出て飛び込む準備をしてください」・・・!?!?
ゴーッという音がして電車が入ってきましたが、前照灯は青、
車体は真っ黒でした。ありえない、何から何まで。木村が、
「どうしたらいいんですか、飛び込めばいいんですか」

そう叫んだので「バカ言うな!」怒鳴りました。その電車は窓も
真っ暗で、中の様子はまるでわかりません。「早く飛び込んでください!」
アナウンスが金切り声を上げ、木村が頭を抱えてしゃがみ込んだとき、
自販機から声がしたんです。山田さんの声だと思いました。
「自販機に金を入れろ、名前が書いてない缶のボタンを押せ」
そうしましたよ。財布出して硬貨を入れ、一番下の列のただの真っ黒い
缶のボタンを押す。そのとき黒い電車がゆっくりとホームに停まったんです。
ガゴン、取り出し口に落ちる音がして、取り出すとそれは見慣れた
お茶のペットボトルでした。照明はもとに戻ってて、乗客もいました。
ホームに入ってる電車もいつもと同じ・・・木村が、
「あれ、山本さん、ノド乾いてたんスか」とぼけたことを言いました。

はい、僕が見たものをまったく見てなかったんです。黒い缶も、
黒い電車も、自分が恐がってたことさえ知らないって言う。
それだと、全部僕の幻覚ってことになりますよね。納得がいかなかったけど、
そう考えるしかありませんでした。仕事を手早く済ませ、会社に戻ったんです。
3日後、会社から病院を聞いて山田さんの見舞いに行きました。
幸いたいしたことはなく、血栓からくる軽い脳梗塞だったのを
カテーテル治療で散らしたということだったんです。
はい、駅での話はしませんでした。山田さんのほうから何も言って
こなかったんで、自販機から山田さんの声がしたことも本人は
知らないんだと思います。まあこんな話なんです。あれから、
おかしなことは一度もありません。ないんですが・・・





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