FC2ブログ

落とし穴の話

2020.06.18 (Thu)
あ、ども、こんばんは。俺、道村といって、都内の大学の6回生です。
いや、大学に6年もいるって言うと変に思うかもしれないスが、
苦学生なんスよ。親からの学費は期待できないんで、バイト
ばっかしの生活で。それでも、いつも金なくてピーピーなんスけど。
でね、これ、2週間ばかり前に起きたことなんス。
俺の身の上にってわけじゃなく、ダチの話だけど。
どうにもね、解釈がつかないんス。でほら、ここはそういう
ヘンテコな話をすれば、いろいろ説明してくれるし、おまけに金も
もらえるって聞いてやってきたんス。順を追って話していくけど、
俺、あんまり説明するの得意じゃないんで、そこんとこよろしく。
まずね、大学の後輩に進藤ってやつがいるんス。

そいつはアパートの2階の部屋に住んでるんスが、これが今どき
ありえないようなボロアパートで。住所とかは言わなくてもいいスよね。
まあ家賃が3万って言えば想像つくと思うス。一間で、日に焼けて
黒くなった畳、キッチンにはゴキブリが出放題で、便所は共同、
風呂はなし。そのアパート、1、2階合わせて12部屋あるんスけど、
今住んでるのは進藤と、あともう一人だけ。中年のアル中のおっさんで
生活保護らしいス。進藤は2階の角部屋で、そのおっさんは
反対側の角部屋。顔を合わせることはまずないって言ってました。
どうもそのおっさん、小便をバケツかなんかに溜めてるみたいで、
便所にもほとんど来ないらしいス。あとね、1階には半年前まで
ずらっとガイジンが住んでたらしいけど、なんか犯罪に

関わってたみたいで、あるとき一斉にいなくなったって。
その進藤も、バイトするために生きてるようなやつで、部屋では寝るだけ、
飯は外食だから、あんなとこでもやってけるんでしょうね。
でね、その進藤に久々に大学で会ったら、妙なことを言い出したんス。
「道村さん、幽霊っていると思うスか」って。もちろん、
「そんなもんはいねえよ!」って即答したっス。ねえ、この世に
幽霊なんているわえないっしょ。そんなんは甘えですよ、甘え。
世の中はシビアなんだから。金が月にいくら入ってきて、生活費が
いくらかかるか。収入のほうが多ければ何とか生きていける。
霊なんて不確実なものが介在する余地はどこにもないんスよ。あ、
言い忘れてたけど、俺、大学の専攻は数学の統計なんス。

あ、スンマセン、なかなか話が進まないスね。事情聞いてやるから
その代わりって学食で飯をおごらせたんス。そしたら、「毎晩、2時過ぎ
 になるとアパートのまわりを歩き回るやつがいる」って。
「そりゃ通行人だろ」と応じて、あれと思ったんス。
俺、進藤のアパートには何度か行ってるんスが、高い板塀に
囲まれてるんス。ペラペラの黒い板なんだけど、2mくらいの高さで
アパートを一周ぐるっと。何であんなもの作ったのかわかんないけど、
あれだと1階の窓から日が差さないス。あ、でも、何か犯罪やるには
都合がいいのかも。「塀の内側なんか」 「そうです」
「うーん、その、今お前の他にもう一人住んでるっていうアル中の
 おっさんじゃないのか」 「いや、おっさんはあんなに速く歩けないス」

「速く?」 「はい、俺のアパート、塀と建物の間が1m半くらい
 あるんスけど、そこ、雑草が生えないよう、細かい砂利が敷いてあるんス。
 だから通ればジャリジャリいう。その音が速いんス。おっさんは外出るとき
 杖ついてヨタヨタしてるから」 「ふーん、まとめると、夜中の2時過ぎに
 アパートの塀の内を早足で通るやつがいるってことか」
「はい、決まってだいたい3周くらいします」 「意味わからねえな、
 けど生きた人間だろ、間違いなく。あ、そうだ、お前んとこの窓から
 下見えるじゃないか。懐中電灯とかで照らしてみればいいだけだろ」
「それ、やってみたっス。ジャリジャリする音が部屋の窓の下に来たとき、
 借りてきた大型懐中電灯で」 「したら?」 「誰もいなかったんス。
 そんときだけ音が止まって、10分くらいして電灯消して引っ込んだら
 
 またジャリジャリって。何度かやったんス」 「うーん、じゃあ狸とかか」
「いや、まさか。でね、一昨日、夕方に板使って砂利をきれいにならした
 んス。誰か通ればわかるように。そしたら、やっぱ夜中にジャリジャリいって、
 朝見たら乱れてたんスよ」 「・・・外に出て追いかけてみたんか」
「さすがにそれは怖くて」こういう話になったんス。で、俺もね、
興味持って、その日の夜進藤の部屋に泊まり込んでみたんス。廊下を通ると
抜けて落ちそうなボロアパート。便所は臭くて、もちろん部屋にはエアコンなんて
ついてないス。やつの部屋で酒飲んでダベってると2時になり、そしたら、
たしかにジャリジャリって音が聞こえる。そんな時間だし、外は車通りは
なかったス。「ほんとだ、音するな」んで、ちょうど窓の真下にきたとき、
ガラッと開けて「誰だコラ」って怒鳴ってみたス。返事はなし。

ジャリジャリジャリジャリ。それで、「おい、進藤、外出るぞ。玄関から出て、
 お前右に回れ、俺は反対に行く」やってみたんス。外だと、部屋よりも
ジャリジャリ音が大きく聞こえて移動してる。「コラ、誰だあ」叫びながら
塀の内を回ってくと、裏手のところで進藤と鉢合わせしたんスよ。
人一人しか通れない幅なんで、取り逃がすことはないんス。
「えー、不思議だ」 「やっぱ幽霊スか」 「違う!!」それでどうしたか
っていうと、進藤の部屋の窓の下に落とし穴掘ることにしたんス。
俺、もう引退したけど少林寺拳法部に入ってて、そこの後輩何人か呼んできて。
いや、そのアパート、大家は滅多に顔出さないみたいだし、高い塀があるんで
作業は問題なかったス。5cmくらいの砂利の層をはがして、むき出しになった
土をどんどんスコップで掘る。土は柔らかくて掘るのは難儀じゃなかったけど、

せまいんで土運び出すのが大変だったス。穴は人の身長くらい。
上にブルーシートを切ったのをかけ、杭で四隅を固定して、上からパラパラ
砂利をかける。多少周囲からは低くなったけど、夜ならまずわからない
落とし穴ができたんス。で、俺の他にもう一人、栄田っていう後輩も
泊まらせて、計3人で夜中を待ったんス。進藤は懐中電灯とカメラを
持って部屋に待機、落とし穴に何者かが落ちたら上から照らして写真を撮る。
俺と栄田は、前にやったみたいにそいつを前後からはさみうちにする。
完璧な計画っスよね。んで2時になって、ジャリジャリジャリ。
今回は音を立てないよう栄田とそっと玄関を出て、反対方向に走りました。
ジャリジャリ、ジャリジャリ、ズザザザザザ。最後のは落とし穴に
落ちた音だと思ったス。穴が凹んでるように見えたけど、

暗くてはっきりしない。「照らせ!」と上に叫ぶと、暗くしてた部屋から
パッと明かりがついたス。向こうから栄田が走ってくる。2人で両側から
穴の縁に立ち、上からの明かりで見たものは・・・何だったと思うスか。
穴の中にしゃがんで土にもたれ込んでる進藤だったんス。目をつぶってました。
え、じゃあ上から照らしてるやつは誰だ?? と見上げると、
「うわあああ~」と大きな声を上げて進藤が足から飛び降りてきたんス。
で、ぴったりと穴に落ち、中でへたり込んでたもう一人のやつと
重なったんス。「????」わけわかんないスよ。とにかく気を失ってる
進藤を引っ張り上げましたが、正気に戻らないんで救急車呼びました。
でね、病院であれこれ処置されて、やっと目を開けたんスが、
両足を捻挫してたんス。それ以外に大きなケガはなし。

医者は、俺らが暴行したんじゃないかって疑ったみたいスが、進藤本人が、
自分で穴に落ちたのを助けてもらったって言ったんで、
なんとか大事にはならなかったス。そんときは歩けなかったんで、
3日入院したけど、捻挫は比較的早く治ったんス。
まあ、こういう話なんスよ。ねえ、幽霊じゃないとは思うけど、
進藤が2人に分かれて、また一つになったのはどうしてなのか。
本人は、落とし穴が完成して、その後のことは覚えてないって言うんス。
それとね、やつが部屋に戻ったら、やっぱまた2時過ぎに
ジャリジャリ誰かが通るって・・・ いやいや、もうコリゴリっスよ。
だから、知り合い中に広くカンパを募って、進藤を引っ越させようって
考えてるんス。ここの人たちなら、これ、どういうことかわかるっスか?

キャプチャ

 


関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/2552-a19c3949
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する