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橋桁の話

2020.06.24 (Wed)
あ、どうもこんばんわ。自分、増田と言いまして、塾の講師を
してます。これから話すのは、僕が小学校4年のときのことだから、
今からちょうど15年前になります。うちの実家は、
父親が県の団体職員で転勤が多かったんです。といっても、
4年か5年に一度だったし、県職員だから県内だけでした。
ですから、僕が小中学校のとき2回転校してます。
それで小学校4年のときですね、海に近いところの、人口10万人
くらいの市に移りました。それが初めての転校だったんで、
学校になじむまで時間がかかりましたよ。あと、通学距離も
長かったです。前の学校は、朝は集団登校だったんですが、
そこはそんなことはやってなくて、一人で通学してました。

でね、途中、橋を通るんです。大きな橋じゃなく、50mくらいかな。
どこにでもあるような橋で、下を流れる川の幅は20mくらい
だったろうと思います。名前は横森橋って言いました。
そこらへんの地名が横森だからです。そんなに交通量の多いとこじゃ
なかったけど、朝夕はそれなりに車通りはありました。
川の水はいつも濁ってて深さはわからなかったです。
学校への行き帰りは橋の歩道を通るんですが、欄干の隙間から下の川を
見ることが多かったんです。でも、魚が泳いでるのは一度も
見かけませんでした。で、そのうちに気がついたことがあったんです。
橋桁のことです。川の中に入ってる橋桁は2本でしたが、そのうちの
学校に近いほうにだけ、たくさんゴミが引っかかってる。

こう言うと、川の流れのせいだろうと思われるでしょうが、
僕が見たかぎりでは違いがあるとは思えなかったんです。それなのに、
片方だけたくさんのゴミが取りまいてる。ゴミは木の枝とか
草のかたまり、ビニール袋など様々でした。でね、その中に、
ときどき動物の死体が浮いてたりしたんです。犬、猫、あとは
たぶん鯉だと思うけど、大きな魚とか。汚いし気持ち悪いんだけど、
なんとなく気になって、学校の帰りは毎日見てたと思います。
で、新しい学校にもやっと慣れてきた1ヶ月後くらいのとき、
下校時に橋を通ったら、その橋桁の上の歩道から、下を見てる子が
いたんです。その顔に見覚えがあって、僕と同じ4年生の、
別のクラスの男子だと思いました。でね、その横に行って

立ち止まったんです。後で聞いたんですけど、その子、名前は
山本って言いました。「何見てるの」と聞くと、やっと僕のことに
気がついたみたいで、「ああ、あの橋桁だよ。死んだ亀がいる」
見ると確かに、腹を上にしたかなり大きな亀が、橋桁のまわりを
浮き沈みしながら、ゆっくりと回ってたんです。まあ、川の
水流がぶつかるわけだから、回るのは不思議はないんだけど、
山本くんは、「今、引き込まれるから見てろ」って言いました。
意味がわからなかったんですが、黙って見ていると、
流れに乗って浮き上がったときに、グンという感じで沈んで
いったんです。それっきり浮いてはきませんでした。
まるで何かが下にいて、引きずり込んだようにも見えたんですね。

その後、山本くんと連れ立って帰ったんですが、話をすると、
家が近くだということがわかりました。数百mくらいの距離。
それとあの橋桁の話も聞いたんです。なんでも山本くんが小2のとき、
まだ小学校前の幼児の遺体が、その橋桁付近で発見され、
けっこうな騒ぎになったそうなんです。「どうやら川の上流で
 親とキャンプに来てるときに流されたみたいだけど、
 さっき見たあの亀と同じように橋桁のまわりを回ってたらしいよ。
 俺、あの橋桁のとこの水の中には何かいるんじゃないかと
 思うんだ」こんな話をしました。「何かって、魚とか?」
「違うと思う。うまく言えないけど、もっと怖いもの」
「怖いもの・・・」 「明日、帰りいっしょに帰ろう。

 ちょっと実験してみせるから」それで、授業が終わってから
待ち合わせ、いっしょに橋まで来たんです。相変わらず川は濁ってて、
橋桁は片方だけゴミだらけ。山本くんはランドセルを下ろすと、
中から食パンを取り出しました。その日給食に出たやつです。
で、「俺、パン嫌いだからちょうどよかった」そう言って、
1枚を半分にちぎって川に落としたんです。けど、それは
橋桁の根元からは離れたところで、そのまま見えなくなりました。
「難しいな」山本くんは少し位置を変え、もう半分を落とすと、
今度は橋桁のコンクリにあたってゴミの中に落ち、いっしょに
回ってましたが、グッと沈み、それからポーンと跳ね上がったんです。
はい、水面の上1mくらいまで。でも、そんなことありえないですよね。

「ほらな、あそこにいるやつ、パンじゃ気に入らないんだ。
 たぶんだけど、肉じゃないとダメなんだよ」でも、こう聞いても
半信半疑でした。さすがに小4くらいになれば、河童とか
そういうものはマンガの中だけだってわかりますよね。
それから、山本くんとは親友になって毎日いっしょに遊んだし、
家どうしも知り合いになったんです。で、その年度が終わり、2人で、
5年生は同じクラスになれればいいなって話をしてたんですが・・・
春休み中に集中豪雨があったんです。まる2日くらい激しい雨が続き、
いつも通る橋の川もすごく水位が上がりました。避難勧告とかは
出なかったけど、僕らの学校は臨時休校になったんです。
その休みの日、山本くんが行方不明になったんです。

両親はずっと家にいると思ってたのが、夕食に下りてこない。
2階の部屋には誰もいない。外は大雨。夜の8時を過ぎても戻らず、
警察に連絡したんです。うちにも電話がかかってきました。
それで・・・雨がやんで2日後、山本くんが水死体で見つかったんです。
こう言うと、あの橋桁のとこだと思うでしょうが、そうじゃなく、
自宅近くの側溝の中です。ふだんなら10cmも水が溜まってない
ような中に、うつ伏せになって足だけが見えた・・・
はい、葬式には行きました。あんなに泣いたのは生まれて初めて
だったと思います。でね、その翌日の学校帰り、橋の上から
橋桁を見下ろしてました。相変わらずゴミが渦巻いてて、ああ、
山本くんとここで最初に知り合ったんだよな、そう考えてたとき、

「ボク、どうしたんだい」と後ろから声をかけられました。ふり向くと、
ミニバイクに乗ったお坊さんが、笑顔で路肩に停まってたんです。
「川を見てたんです」そう言うと、「ふうん」そう言って、バイクの
スタンドを立てて歩道に上がってきました。それから川を見下ろし、
少し考えるような様子で「ああ、この下の橋桁、悪いものがいるかなあ」
そう言ったんです。びっくりしました。山本くんが言ってたのと
同じだったから。それで、そのお坊さんにこれまであったことを
話したんです。お坊さんは真剣な様子で聞いてましたが、
「ああ、小さい子どもが流されて見つかったのは覚えてる。
 ここだったのか」そう言い、バイクに戻って荷台から何か印刷された
紙束を出してきました。「うちのお寺のパンフレットだよ、

 お経の説明なんかも書いてある。ちよっとゴミを増やすことになるけど」
と、そのうちの一枚をくしゃくしゃに丸め、まだ水位の高い橋桁のゴミの
上に落としたんです。そしたら、落ちた周囲のゴミがかなり広く割れて
水面が見えたんです。数秒して、何かが浮き上がってきました。
四角いものでした。1辺が1mくらいある半透明で、乳白色のゼリー
みたいな。それが半分近く水面から出てぶるぶると震え、ぐるんと
回転してまた沈みました。「あれ、何ですか?」僕が聞くとお坊さんは、
「わからない、けど、さっき言ったように悪いものだ。生き物の死を
 呼ぶもの」それから僕の頭をなで、「友だち、山本くんだったか、
 残念だったな。あれはうちのお寺でしっかり供養するから、もう
 かかわっちゃいけない。家に帰りなさい」そう言われたんです。

キャプチャ
 



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