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『ハムレット』と幽霊

2020.06.28 (Sun)
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アフリカの部族

今回はこういうお題でいきます。『ハムレット』はもちろん、
イギリスの劇作家、ウィリアム・シェイクスピアによる悲劇の一つで、
「生きるべきか死ぬべきか・・・」というセリフで有名ですね。
ところで、これにしても『ロミオとジュリエット』なんかもそうですが、
現代の日本ではどのくらい読まれているものなんでしょう。

自分は家に文学全集があって、高校の頃に読んだんですが、
退屈だった記憶しかないですね。戯曲なので、劇として見れば
面白いのかもしれませんが、残念ながらその経験はありません。
あるいは、シェイクスピアの書くセリフは詩的・音楽的だ
とされる評もあるので、英語の原文で読み味わわないと

醍醐味は伝わらないのかもしれないですね。筋としては、
王子ハムレットが父王の死を留学先で聞いて帰国すると、
叔父のクローディアスが母と結婚して新王になっていた。
呆然とするハムレットは、死んだ父の亡霊に会い事件の真相を知る。

ウイリアム・シェイクスピア
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これに宰相および、その息子と娘がからんだりしますが、
最終的にはハムレットは父の復讐を果たすものの、
主人公を含めてほぼすべての登場人物が死んでしまいます。
悲劇として徹底してるという感じです。

さて、作品をめぐる一つ目のエピソードですが、これはなかなか
興味深いもので、ローラ・ボハナンというアメリカ人の文化人類学者が
登場します。まず話の前段で、彼女はイギリス人の友人に、
「アメリカ人にはシェイクスピアは理解できないだろう」とからかわれ、

「物語の骨格には全人類に普遍的な要素が入っているから、
理解できないことはない」と反論します。彼女は友人から
ハムレットの本を贈られ、実地調査のために西アフリカに渡ります。
そこで、ある部族の中に入って過ごし、彼らから話を聞いたお礼として、
ハムレットを現地語に直して読み聞かせてやります。

煉獄(inferno)のイメージ
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ところが、父王の幽霊が登場する場面になると、
「それは不可能だ」という野次が現地人から次々と起こりました。
彼らの部族では、肉体を離れた霊だけがこの世に現れて行動する
というのは、ありえないことと考えられていたんです。
死者の言葉が呪術師の口を借りて出てくることは可能でしたが、
霊が独自に行動することはできないとされていたんですね。

結局、この他にもいろいろな齟齬があり、彼女は上記の自身の
言葉のようには、アフリカ人に物語を理解させることは
できなかったんです。出来すぎの感もありますが、
なかなか貴重なエピソードです。こういうある地域や部族に
特有の死生観、霊の概念というのは、ネットの発達による

ローラ・ボハナン
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情報社会の到来で、どんどん失われたり融合したりしてきています。
例えば、日本製の、いわゆるジャパニーズ・ホラー映画なんかも、
現代アメリカ人の霊魂観、幽霊観に影響を与えているようです。
(アメリカでは、例えば『呪怨』のように、幽霊が生きた人間に祟る
という考えは一般的ではなかった)

さてさて、2つ目のエピソードはハムレットの成立事情に
関することで、シェイクスピア自身も、父王の亡霊を物語に
登場させることに悩んでいました。これはキリスト教的な事情に
よるものです。カトリックの教義では、人間は死後、神の裁き
によって天国、地獄、煉獄のどれかに行くことになります。

基本的に、勝手にさまよい歩いている幽霊というのは存在しません。
このあたりはアフリカの部族と似たような理解なんですね。
そこで、父王の亡霊を物語の展開上どうしても登場させたかった
シェイクスピアは、悩んだあげく、父王は煉獄にいるということにしました。

ハムレットの前に現れる父王の亡霊
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煉獄というのは、「神の恵みと神との親しい交わりとを保ったまま
死んで、永遠の救いは保証されているものの、
天国の喜びにあずかるために必要な聖性を得るため、
浄化の苦しみを受ける人々の状態」まあこんな感じのものです。

そのままでは天国に入れないので、毎日火に焼かれ、苦しみを
受けることで魂が浄化され、天国に入れるようになるわけです。
つまり煉獄の苦しみは、地獄のように永劫に続くものではないんですね。
ここで、シェイクスピアはアクロバチックなことを考えつきました。
父王の亡霊は煉獄の獄舎につながれているものの、

責め苦は昼だけであり、夜間は開放されるということにしたんです。
その間に幽霊として宮殿に戻ってきて、我が子ハムレットに
訴えかける。そして一番鶏が鳴くとともに帰っていくわけです。
この部分は英文学者による研究もありますので、
興味を持たれた方は検索してみてください。

イギリスの幽霊屋敷
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ハムレットは1600年から1602年頃に書かれたとされますが、
この時期は、ヘンリー8世によるカトリック世界からの英国教会の
独立より50年ほど後のことです。ヘンリー8世がローマ法王に
破門されたのは、カトリックで禁じられている離婚問題のためで、
彼は6人の妻と結婚し、そのうち2人を冤罪をでっちあげて

処刑しています。これ以降、イギリスではカトリックの力は
弱まりました。ちなみに処刑場所であったロンドン塔には、
2番めの王妃アン・ブーリンの首なしの霊が出るとも言われますね。
このあたりの宗教文化的な混乱は、シェイクスピアが
ハムレットの父王の亡霊を作品に登場させることができた

要因の一つとしてあげることもできそうですし、
イギリス人が幽霊や幽霊屋敷に寛容なのも、あるいはそういった
影響かもしれません。このように、幽霊を一つの切り口として
世界の文化をのぞくと、いろいろ面白いものが見えてくるんですね。
では、今回はこのへんで。

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