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消失点の話

2020.07.09 (Thu)
※ ナンセンス話です。

こんばんは。僕、島田ともうしまして、東北のほうの県の
ある市の市役所で勤務してます。建設部に採用されて7年目です。
それで、去年からですね、同じ建築部の中の別の課から、
防雪対策室というところに回りまして。道路除排雪計画を立てたり、
防雪施設の整備、除雪業者との折衝が主な仕事なんですが、
最近は、高齢者の方の雪かき援助なんかもやってます。はい、
過疎化が進んで、雪で困ってる家庭がとても多いんです。
で、人から仕事を聞かれて、防雪対策室ですって答えると、
「ああ、じゃあ夏場はヒマそうだね」って羨ましがられることが
多いんですよね。ですけど、時間があれば他の部署の
手伝いをしますし、けっしてヒマなわけじゃないんですよ。

それと、うちの市では、管内にある消失点の管理も対策室の仕事に
なってるんです。え、消失点って何かって? はい、これから
その話をしていくんですが、僕自身、この仕事につくまで、
そういうものがあるとは知りませんでした。何というか、
一般の市民には情報が伝えられてないんですね。ええ、情報公開の
対象外になってるんです。・・・日本全国で、年間の行方不明者が
どれくらいいるかご存知ですか。平成29年度の場合、
8万4850人でした。これはあくまで警察に届けが出された
人数ですから、一人暮らしで通報する家族がいない場合など、
実数はもっと多いはずです。で、このうち、
お年寄りの認知症にかかわる行方不明が1万5761人。

そこまで多いという印象ではないですよね。やはり一番は若い人の
家出です。でね、全行方不明者の95%近くが発見されてます。
日本の警察は優秀なんですね。これがアメリカだと、見つからない率が
ものすごく高いんです。あ、スミマセン、消失点防護施設の話でした。
各自治体に、これが設置されるようになったのは平成10年前後からです。
その頃から、監視カメラが街のあちこちに設置されるように
なったでしょう。で、行方不明者が出るとその映像を見て
足取りを追う。そのうちにね、どうも人間が消失してしまうスポットが
街の中にあるんじゃないかってわかってきまして。はい、すぐ前の
カメラで確認された人が、次にあるカメラには写ってない。
これ、一本道での話なんです。政府で内々に調査が始まりまして、

人がなぜか消えてしまう点の存在が判明した。その対策は
試行錯誤の連続だったようです。専門家対策会議がひそかに設けられ、
国民には伏せておくことも決まりました。専門家の中には、
神道、仏教、キリスト教の宗教者もいたということです。
でね、ここからは僕も詳細はわからないんですが、消失点を
保護するための施設を置くことが決まったんです。外見は電力会社の
小ぶりな変電施設に見えます。けど、電線やコイル類はすべてダミーで、
電力は施設内の照明くらいにしか使われてません。
よくそんなの、秘密裏に街中につくれたなと思われるでしょうが、
消失点って、ある場所がだいたい決まってるんです。まず多いのが
4つ辻の手前。交差点に入る前の道路脇ってことです。

それと、橋に入る手前の場所。そういうとこは土地も国、県、市の
所有になってるので、保護施設を置くのはそれほど難しくはないんです。
はい、僕らの市には2ヶ所あって、どちらも橋の近くです。
みなさん、見たことないですか。川の土手の斜面をならして、
コンクリの4m四方くらいの四角い建物が建ってるのを。大きなコイルが
立ち並び、全体を鉄柵で囲ってる場所。で、僕らのとこでは、年に2回、
管理保全作業を行ってました。やるのは深夜です。市役所側からは
防雪対策室長と課員4名。それと、地元で一番大きい神社から
宮司さんと禰宜さんが来られます。神道が最も効果的みたいなんです。
作業車を近くに停め、僕らは活性炭入りの防臭マスクをつけますが、
神職の方はそのままです。それから、課員が冷凍ボックスを

車から出します。4人で持ちますが、そこまで重いわけではありません。
室長が先頭に立ち、柵内に入って施設の頑丈な鉄扉の2重ロックを
解除します。最初に入るのは宮司さんで、このときからすでに
祝詞を唱えてますね。そして禰宜さん、われわれ・・・
中はすごい臭いで、肉が溶けた腐敗臭です。僕らはマスクしてますから
なんとかしのげますが、神職の方はよく平気だといつも思います。
中はすべてコンクリ打ちっぱなしで、機械もテーブル類もありません。
天井に照明が一つ。周囲の壁には、枯れた杉の葉を束ねて人型に
組んだもの、そうですね、大きさは30cmくらいの。それが数十個、
フックに吊るされてるんです。これらも後で取り替えるんですが、
それより正面の壁。巨大な雄鹿の頭がドロドロに溶けてあるんです。

臭いのもとはそれです。体はなく、頭だけ。ほら、外国映画で
ハンターの人が剥製を飾ってる、あんな感じですけど、剥製ではなく
立派に枝分かれした角の鹿の頭を切ったもの。目玉なんかはすでに
流れ落ちて、垂れた腐敗液が乾いて毛皮はガサガサです。保護施設は
密閉されてるので、ウジなどが涌いてないのが救いですね。
それを取り外し、冷凍ボックスの、切ったばかりの頭とすげ替える。
新しい頭も血抜きされています。作業時間はそれほどかかりませんが、
なんとも気味が悪いですよ。まあ、深夜ですし、危険手当も含めて
けっこうな手当は出るんですけど。で、宮司さんが20分ほど
祝詞を唱え、祓えをして終わりです。これを2ヶ所で行います。
こんな職務があるんですよ。ほら、最初のほうで、

うちの市は高齢者が多いって言いましたよね。ですから、捜索願いも
ちょくちょく出るんですが、交通事故や水死した方はいても、
消失点関係の行方不明は出てないんです。その周囲には、
たくさん監視カメラが設置されてますしね。え? 消失点とは何か、
僕に聞かれてもわかりません。どうして鹿の頭を供えるのかも。
おそらく室長も知らないんじゃないかと思います。
・・・ここからは僕自身の話になります。最近、彼女ができたんです。
僕はもうすぐ30歳なんですが、なかなか女性と縁がなくて。
これは、僕の職場と、趣味が登山というせいもあるかもしれません。
山ガールなんて言葉もありますけど、ハードな山登りをやってる
若い子なんてほとんどいないですから。今の彼女とも、

婚活の合コンで知り合ったんです。それから順調にデートを重ねまして、
10日ばかり前、日曜日にハイキングに誘ったんです。彼女は山はまったく
知らないので、県内の一般的なハイキングコースです。初心者でも
簡単に歩ける。で、早朝に車で出発してコースに入り、彼女がつくって
くれたお弁当を食べました。いい天気で、天候が変わる気配もなく、
ちょっと遊び心を出しちゃったんです。下りは別ルートをとろうって。
その道も同じ登山口に下りるのはいっしょですが、やや急勾配で
スリルがあるんです。いやでも、転ぶようなことはないと思いました。
彼女はキャーキャー言いながら駆け下り、楽しんでる様子でした。
地図にそのルートはないので、他のハイカーは見ませんでしたね。
でね、ルートの半ばまできたとき、横のヤブの中に保護施設があったんです。

他の市のものですが、僕らの市のとほとんどつくりはいっしょで、
こんなとこまで管理してるんだな、すごいなと思いました。
山の中ですからね、夜中に鹿の頭を取り替えるのはさぞ気味が悪いだろうと
考えて。柵に近づいたら腐敗臭がしたんです。え、臭いが漏れることは
ないのに。そう考えて正面に回ると、扉が半開きになってったんです。
事故だ!と思いました。通報装置がついてるはずですが、それが
働いてないのかも。中は真っ暗で見えませんでしたが、気配がしたんです。
何か大きなものが動き回ってるような。鉄柵には壊れた箇所はありません。
それで、すぐスマホでその地元の市に連絡しました。はい、
担当者に回って事態がわかったようで、後で、その日のうちに
なんとか対処したという連絡が来たんです。すごく感謝されましたよ。

キャプチャ



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