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沢田真里さん(仮名)の話

2020.07.09 (Thu)
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小学校5年生のときのこと。毎朝、集団登校で学校に通っていた。
たしか7人のグループだったと思う。6年生の先輩の男子が先頭で、
低学年、中学年をはさんで5年生の自分が最後尾。
小学校へは住宅地から交通量の多い国道を渡っていかなくちゃならないから、
ちゃんと信号を守って横断歩道を渡る集団登校は安心だ、と親たちは言っていた。
1・2年生のチビたちも朝はおとなしいもので、とくに困ったこともない。
ただ毎日同じ道を通っていく。
それは当たり前のことだが、その時期はかなり微妙だった。
なぜかというと沢田真理さんの家の前を通らなくちゃならないから。

家から1分の小公園前で7時半に待ち合わせ、
人数を確認して一列に並んで学校に向かう。
込み入った住宅地の角を2回曲がると、沢田真理さんの家のある通りに出る。
列の最後に角を曲がった自分はそこで目をふせる。
目を足元に落として、前を歩く2年生女子のズックの後ろだけ見るようにする。
そうしないと沢田真理さんの姿が目に入ってしまうからだ。
でも、見ないようにしようと思ってもどうしても気になって見てしまう。
するとやっぱり、その朝も小さな平屋のトタン塀の家の門の前に沢田真理さんはいる。
高校の制服で、片足を上げ、顔を斜め上に向けて今にも駆け出そうとする姿で。

沢田真理さんの家と自分の家は遠い親戚だ。だから名前を知っているし、
小さい頃にはよく遊んでもらった。その頃の真理さんは男の子のように
きかん気な人だった。だけど真理さんが中2の頃からそういうことはなくなった。
両親が離婚し、真理さんは父親といっしょに住むことになって
家事をこなさなくてはならなくなったからだ。
もっともその前から、真理さんは中学校のバレー部に入って有望選手だったから、
遅く帰ることが多かった。その当時はわからなかったけど、
離婚というより、母親が一方的に男をつくって家を出て行ったということだ。
そのため真理さんは部活をやめた。

沢田さんの家の前に近づいてきているのがわかる。やっぱりそっちを横目で見てしまう。
真理さんはいつもと同じ格好で立っている。顔にはあせった表情が浮かんでいる。
家を遅く出てしまって、バスに乗り遅れるのを心配しているのだろう。
真理さんの家の戸口は門からすぐだ。戸口の上の方には「忌中」の札が貼られている。
真理さんは1ヶ月前の朝、国道のバス停にいるところを、
突っ込んできた大型ダンプに轢かれて亡くなった。即死だったという。
ダンプの運転手は疲労をまぎらわせるため、焼酎のウーロン茶割りを
飲みながら運転していたらしい。母親がそんなことを話しているのを聞いた。
自分は小学生だし葬式には行かなかったが、
次の日の朝には真理さんが家の前にいることに気がついた。

真理さんはぜんぜん動かない。彫像というか、映画のストップモーションのように
ピタリと止まってそこにいる。おそらく一日中いるんだろうと思う。
なぜ事故現場のバス停ではなく、自分の家の前にいるかはわからない。
真理さんを見るのが嫌だったんで、小学校の帰りは別の道を通るようにしてたから、
ホントに一日中いるのかはわからないが。真理さんの髪は
風が強い日でも揺れてなびかないし、雨の日でも制服は濡れない。
表情はいつも同じ。そして真理さんの姿は自分にしか見えない。
だからそこを通る人は、真理さんの体と重なって通り抜けていく。
最初に見たときはとても驚いたが、これは霊なのだろうとすぐに思った。
怖いのと悲しいのとが入り混じったどっちともつかない気持ちだった。
家では、学校から帰ると真理さんのために仏壇の前に座ってお祈りした。
家族は驚いていたが、理由は言わなかった。

初七日の日に、四十九日の法要も合わせて行ったということで、
翌日には真理さんの姿はだいぶ薄くなっていた。そしてその後は、
少しずつ少しずつ輪郭がぼやけて向こうの景色が透けて見えるようになってきた。
こうやって天国かどこか、この世とは別の世界に移っていくんだろうと思っていた。
事故から40日を過ぎると、真理さんの家の忌中の札が外された。
真理さんの父親が実家のある田舎に戻るため、家が売りに出されるということだった。
もう住むものがいなくなった家の前で、真理さんはそれでも駆け出そうとしていた。
その頃には薄く、薄くなって表情もわからない陽炎のようになっていた。
四十九日の朝には自分に見えるのは、
真理さんが持っているバッグの金属部分と上に向けた顔の一部だけだった。
その頃には、すっかり怖いという気持ちはなくなっていた。

帰り道、明日の朝には消えてしまってるんじゃないかと思って、
真理さんの家の前を通った。夕方4時に近い時間だったが、
真理さんの姿はなくなっていた。ああ行ってしまったんだと思った。
家に帰って部屋で泣いたよ。真理さんが実際に亡くなった知らせを
聞いたときは泣かなかったのに。
霊が見えるという体験をしたのはこれまででこのときだけ、あとは一切ない。
だから子どもが見る幻覚だったのかもしれない。
ただ、この体験であの世というのはあると思ってる。
近いような遠いようなそんなところじゃないかな。
・・・オチもなにもない話でもうしわけないね。

っっd





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