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殺人遺伝子と悪の起源

2020.08.03 (Mon)
アーカイブ345

犯罪は生まれか育ちかという議論は何度も行われてきた。
凶悪犯罪の遺伝率は38%というこれまでの報告があり、
様々な精神疾患と同じくかなり高い。ゲノム解析が始まってからは、
犯罪者と相関する遺伝子が探索され、monoamin-oxidaseと呼ばれる
酵素をはじめとする遺伝子の多型が報告されている。

また、MRI検査が可能になってからは、犯罪者の脳構造を調べる研究が
盛んであるが、殺人犯と未遂犯も含めた大規模な研究が行われたことはなかった。
ところ最近、New Mexico大学のグループが、凶悪犯の中で実際に
殺人を犯してしまった犯罪者と、一線を超えなかった犯罪者を比べる
ユニークな研究論文をBrain Imaging and Behaviourに発表した。

(西川伸一氏 個人ブログ)

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今回は科学ニュースからこういうお題でいきます。うーん、これは難しい。
何で難しいかは、おいおい説明していきますが、
「悪とは何か、犯罪とは何か」ということが根底にあるからです。
浅学の自分の手には負えない可能性が高いので、本項が、
みなさんが考える叩き台となればいいかなと思っています。

まず、引用記事の概要を説明していきましょう。アメリカでは、
犯罪矯正プログラムの一環として、犯罪者の脳MRI画像の収集が行われており、
20人の殺人犯を含む800人を超す犯罪者の脳画像が集められている
ということです。これ自体は、研究が犯罪減少につながるのであれば、
自分は問題ないかなと考えます。

で、殺人を犯した者と、凶悪犯罪者でありながらギリギリのところで
一線を超えて殺人を犯さなかった者の脳画像を比較したところ、
殺人者のほうは、脳の極めて広い領域で灰白質の厚さが低下していることが
明らかになったということです。

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興味深いのは、殺人を犯さなかった凶悪犯と軽犯罪者を比べても
この差は見られなかったことで、つまり、脳の灰白質減少という状態は、
殺人という最後の一線を超えてしまうかどうかと
相関している可能性がきわめて高いわけです。

異常のある箇所は大脳皮質の広い範囲に見られ、感情に関わる領域、
自己制御に関わる領域、社会性に関わる領域が含まれ、
特にTheory of Mindと呼ばれる、相手の心を読む意図に関わる領域での
異常がはっきりしているようです。

さて、凶悪犯罪者の子どもが犯罪を犯す確率が高いことは、
さまざまな統計調査で明確に出ています。ですが、それが遺伝なのか
環境要因なのかは、最初に書いたように、じつのところ
よくわかっていません。これはきわめて難しい研究課題なんですね。

脳MRI画像
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まず、親が凶悪犯罪者である場合、その子どもは劣悪な環境で育った
ケースがほとんどでしょう。親に暴力をふるわれたり、
親が他者に暴力をふるうところを見て育ったり、そこまでいかなくても、
酒や麻薬が近くにあり、経済的に貧しかったり、十分な愛情を
与えられなかった家庭が多いというのは、想像に難くないですよね。

こういうケースがアメリカの心理学者から発表されています。
ジェフリーという男性が、生まれてすぐに養子に出されました。
(有名な連続殺人犯、ジェフリー・ダーマーとは別人)
養子先は中流のまず問題のない家庭でしたが、ジェフリーは感情の
制御ができず、すぐに癇癪を起こして養父母の手を焼かせました。

ジェフリーは10歳でアルコール中毒になり、11歳で強盗、
その後は、薬物中毒になり殺人を犯して収監されますが、
脱獄してさらに殺人を犯し、再逮捕されてしまいます。死刑囚として
過ごしていたアリゾナで、ジェフリーは同房の囚人から、「アーカンソーで
お前とよく似た詐欺師に会った」という奇妙な話を聞きます。

その人物はジェフリーの実の父親で、やはり薬物の常習者で犯罪を重ねており、
脱走歴もあったといいます。また、ジェフリーにとって祖父にあたる人物も、
同じように強盗事件を起こし、ジェフリーの父の目の前で射殺されていた
ことがわかったんです。ここから考えると、犯罪傾向は環境よりも遺伝が強い
可能性が高いようにも思えます。ですが、これはあくまで一例でしかありません。

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さて、ヒトゲノムの解析が進んで、目の色や肌の色にかかわる遺伝子などが
特定されてきています。では、「これがあったら将来高い確率で殺人を犯す」
そういう遺伝子ってあるんでしょうか。自分は、そういうはっきりしたものは
ないだろうと思います。そんな単純なものじゃないですよね。他人の感情を
どこまで読み取れるか、自分の感情をどのくらい制御できるのか等々、

それには様々な遺伝子がかかわっており、複雑にからみ合っているでしょう。
また、環境的要因も無視できないほど大きい。上記引用の研究にしても、
脳の灰白質減少が、純粋に遺伝的なものかどうかはわかっていません。
脳の異常は、幼少時からの成長の過程で後天的に起きた可能性も
否定できないんですね。続報を期待したいと思います。

さて、ここからの話は、もしかしたら気分を害される方もいるかもしれません。
殺人って「絶対悪」なんでしょうか? もちろん、世界のほとんどの国では、
殺人を犯したものは罰せられます。そういう意味では、
絶対悪と言っていいかもしれません。

クロマニョン人
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ですが、人類の進化の過程でもそうだったのか。例えば旧人や
旧石器時代の遺物をみれば、われわれ人類の祖先がひじょうに好戦的で、
殺し合いや「共食い」などを行ってきたことがわかります。
その時代にあって、食料を得るなどの目的で家族以外の
他者を殺すことが、はたして悪と考えられていたかは疑問があります。

というか、そもそもそんな大昔に悪の概念なんてあったんでしょうか。
その後、人間は集団社会生活を営み始め、宗教が発生して、
戒律という道徳が生まれ、文明が発達して法律ができ、
他者を殺すことは悪とされ、加害者は罰せられるようになります。ですが、
国どうしの戦争や宗教的な対立で敵を殺すことは除外されてきました。

ジャン・ジャック・ルソー
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ヨーロッパでは、理性の力で悪を遠ざけ、善を志向するなどという
哲学も生まれましたし、ジャン・ジャック・ルソーは、
「万人の万人に対する闘争」という自然状態を回避するために政府が
できたとする「社会契約説」を唱えました。

さてさて、われわれの遺伝子の中には、旧人やそれ以前の祖先の
時代に、厳しい環境で生きのびるために獲得したものも
含まれているはずですよね。では、もし、これが殺人遺伝子だという
部分が判明したとして、それを持っている人間には子どもをつくらせない、

あるいは、子どもが受精卵の時点で、遺伝子編集をしてその部分を
切り取ってしまうなどのことが、はたして許されるもんでしょうか。
その遺伝子群は、じつは思わぬ役割を果たしているのかもしれません。
みなさんはどう思われますか。では、今回はこのへんで。

関連記事 『ラマルクの子孫たち』




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