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除(湿)霊

2014.02.14 (Fri)
大学2年のとき。親からの仕送りが事情により減ってしまったんで、
今後のことを考えてアパートを一段安いところに引っ越すことにした。
不動産屋を回って決めたのが今の部屋で、かなりのボロだしトイレは共同だがしかたがない。
引っ越しも業者には頼まず、同じ学部の友人らに手伝ってもらった。どうせ荷物はたいしてない。
その友人の中に、いわゆる霊感があるというやつが一人いた。
名前は山田としておく。

その山田が、新しい部屋に入るなり犬のように鼻をクンクンいわせ始めた。
「どうした、何やってるんだ」と聞くと、
「うーん」と唸って、鼻をヒクつかせながら押入れを開け、下の段にもぐり込んだ。
そして何やらゴソゴソやっていたが、「ハッケーン」と言って紙のようなのを持って出てきて、
「ほら、こんなのあったぞ」と見せてよこした。
古くなった神社の御札だった。
山田は「やっぱりな。引っ越しそうそうこんなこと言っちゃなんだが、ここ出るぞ」と、
すごく嬉しそうな顔で言った。「出るって、何が」とさらに聞くと、
「幽霊に決まってるだろ、すげえビンビン感じる。だが心配するな俺が除霊してやる」

それから3日後の土曜日、昼過ぎに山田が一人で大きな荷物を持ってやってきた。
「お前、何か金縛りとかあわなかったか」と聞いてきたんで、
「いや、今のところ特にそんなことはないが、ジメジメして陰気な部屋だと感じる」
「まだ今のところ霊も様子を見ている段階だろうな。これからじわじわやるつもりなんだろう。
くる途中一つ手前の通りのソバ屋に入って聞いてきたが、この部屋自殺者が出てるらしいぞ」
「おいおい、おどかすなよ」
「まあ心配するな、除霊してやる。準備してきたんだ」
山田はバッグから小型の除湿機と、煙の出る殺虫剤、広口のガラス瓶を取り出した。

それらを部屋の中央に置くと「さて支度するか」と言って、俺を部屋の外に連れ出した。
ポケットから神社の御札をごそっと取り出し、
ドアのすき間に、廊下側から目張りするように何枚も貼った。
それからアパートの外に出て裏に回り、部屋の窓の外側から、さっきと同じように御札を貼りつけた。
「御札代は実費でもらうからな」
また部屋に戻ったときに「どうして外から御札を貼ったんだよ、普通逆だろ」と聞くと、
「霊が苦しくなって外に逃げ出さないようにするためだ」と言う。
「霊が逃げ出してくれたらそれでいいじゃないか」
「バカだな。逃げ出してもまた戻ってくるだろ」

それから部屋の中央に除湿機を置いて電源を入れると、
やや離れたところに殺虫剤をセットし、煙の出るタブを引き抜いた。
「出るぞ」と山田が言い、急いで外に出てドアを閉めた。
中は除湿機が稼働した状態で殺虫剤が焚かれている。
それからゲーセンに行って2時間くらい時間をつぶし、また戻ってきた。
「ここからが、一番むずかしいんだ。俺が声をかけるまで外で待っててくれ」
そう言って山田は一人で部屋に入っていった。
待っていると、中でお経のようなものを唱えてる声がしばらく聞こえ、
「もういいぞ」という声がしたんで中に入った。
中は殺虫剤臭かったが、除湿機の近くで山田は得意そうに瓶をかかげていた。

瓶には御札がベタベタに貼られていた。「封印したぞ、見ろや」
瓶の中には黄ばんだ液体が半分ほど入っていたが、山田が振り動かすたびに、
液体がぞわっと黒い塊に変化した。
黒い塊は磁石にくっつけた砂鉄のように不定形で、かすかに動いていた。
しばらくそのままだったが、じょじょに濁った液体に戻っていった。
「俺が感じたところによれば、これはフィリピン人の女のようだ。
日本人の男に恨みを持ってる」
「それどうするんだよ」と聞くと、
「じつはこういうの高く買ってくれるとこがあるんだよ。だが・・・石崎に使おうと思う」
唐突に出てきた石崎というのは、学部の助教授で俺も山田も講座の単位を落とされて
当時頭にきていたやつだ。女の学生に手を出すってことで評判も悪かった。

「どうすんだよ」「もうすぐ新入生歓迎会があるだろ。
そんときに石崎もくるだろうから酒に混ぜて飲ませてみる」
・・・新入生歓迎会のときに山田は言ったことを実行し、それから2ヶ月くらいして
石崎助教授は当時全盛期だったフィリピンパブの女に引っかかり、
共同研究費を使い込みして社会的に抹殺された。
俺はといえば、残りの大学生活をその部屋で何事もなく過ごした。
山田とは卒業以来会っていないが、
普通の就職はぜず、知る人ぞ知るという霊能者となり
国政選挙などの裏舞台で活躍しているという話だ。

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