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時の糸の話

2020.09.12 (Sat)
アーカイブ401

子ども時分の話だよ。中1から中2にかけての頃だったな。
よく裏山で遊んでたんだ。山ってほどの高さじゃないか。
20mほど盛り上がった岡に木が生えてるようなとこで、
上ると木に囲まれて人目を避けることができたんで、あまりよくない
遊びをしたっけ。ところで、ケサランパサランってのを知ってるか?
家で少し調べてきたんだが、辞典に載ってるのは白いタンポポの
綿毛みたいなので、ふわふわ空中を飛んであるくとあった。それから、
箱に入れて空気穴を開け、白粉を少量与えてやると飼うことができ、
他人に知られないように飼っていれば、その家は金持ちになるとかも
書いてたな。俺の住んでた場所でも、このケサランパサランという名の
ものはあって、辞典の内容とだいたい似ているが、
少しだけ違うのが綿毛というより、細い糸みたいなものだったことだ。

そうだなあ、蜘蛛の巣の糸、あれよりは少しだけ太いくらいで、
色は白だけど、指にからめてよく見ると、透明だったな。
長いやつで40cmくらい。いや、蜘蛛が糸で空を飛ぶとかは
知らないな。糸だけで、蜘蛛がついてるのは見たことない。
で、これが飛ぶのが秋から冬にかけての頃だった。
さっき話した裏山の草が枯れ始めた頃から出てくる。
時間帯は夕暮れが多かったと思うが、
これは俺が放課後にそこへ行くことが多かったからかもしれない。
ああ、一度だけ指に巻きつけたまま家に戻って婆さんに見せたことがあって、
そのときにケサランパサランという名前を教えられたんだ。
俺だけじゃなく、多くの子どもが見てるんだから、本当にあったもんなんだよ。

でな、中1の冬だったはず。ちょっと恥ずかしい話だが、
友だちからエロ本をもらって、裏山に隠しに行ったんだよ。
裏山の林の中には、腐りかけた木のベンチが2つあって、
その横に鉄製の四角いゴミ箱があったんだ。上が吸殻入れになってるやつ。
市とかが設置したんだろうが、ゴミの回収や清掃をされてる様子は
なかったな。だからこれ幸いと、中のゴミを斜面の薮に捨てて、
中にエロ本を隠してたんだ。今みたいにネットなんてなかった頃だよ。
もらったやつの他に、自分で自動販売機から買ったやつ、
ゴミ捨て場から持ってきたやつとか、10冊ちかくあったんじゃないかな。
あ、そこの地方は雪はほとんど降らないんだよ。積もることなんて絶対ない。
ゴミ箱は頑丈で重かったけど、そん中に入れてると雨もあたらないんだ。

でね、隠しおえて降りようとしたとき、ケサランパサランが飛んできたんだ。
前にも見たことは何度もあったが、そんときはすごい量で、
横から吹きつけるように、白い糸が何本も何本も飛んできたんだ。
いつもはふわーっとしてるんだが、そんときは矢のような速さで、
俺のヤッケを着た体にあたって音を立てた。
怖いとは感じなかったね、むしろどっから飛んでくるか
確かめたいと思った。それで糸の来る方向に走っていくと、
平地から斜面になるぎりぎりのとこの土が3mほど下に落ち込んでて、
そっからケサランパサランが吹き上がってたんだよ。
膝をついて下を覗き込んでみた。そしたらくぼんだ地面に、
直径20cmくらいの丸い穴が開いてて、中から糸をはき出してたんだ。

でね、そこに降りてみようとしたんだよ。いったん反対側を向いて足から。
そしたらふり返ったところに女の人がいたんだ。
黄色がかった白の、見たこともない着物を着た人で髪が長かった。
若かったよ。子どもの目で見てのことだけど、当時の印象としては
10代後半から20代始めくらい。すごくきれいな人だった。
その人がすぐ目の前にいたんだよ。人の気配なんてぜんぜん
しなかったのに。女の人は赤い唇を開いて何か言った。
それが奇妙な、お経のような言葉で、ここでくり返すことはできない。
だけどどういうわけか意味はわかったんだ。「あそこの穴の中には
 怖ろしい蜘蛛がいる。外に出ていきたいんだけどできないから、
 ああやって糸を飛ばして人を誘ってる。早くうちへ帰りなさい」

こんな内容だったんだ。それでなくても、ヤバイ目的で来てるんだし、
若くても中学生から見れば大人の女の人だから、降りるのは
やめて帰ろうとしたんだよ。女の人は俺が戻ろうとするのを見て、
にっこりと笑って、自分がそこのくぼみに飛び下りたんだ。
突然のことに「えっ!」と驚いた。
でね、下を覗き込むと、そこに女の人の姿はなかった。
ケサランパサランが吹き出るのも止まってて、
穴に黒いものが引っ込んでいったように見えた。
うーん、毛むくじゃらの犬のしっぽ・・・大きさはそのくらいだけど、
何に例えたらいいか、煙突掃除のブラシみたいな感じとでも言えば近いかなあ。
女の人の姿が消えたのと、その気味悪い黒いもんを見たせいで
急に怖くなってね。走って家に帰ったんだよ。

それから1週間ほどたって、その間裏山には行ってなかったんだ。
夕方から冬の嵐になってね。雪は降らないかわりに風が強くて家がガタガタ
鳴った。屋根が飛ばされるんじゃないかって親が心配してたくらいだ。でね、
停電したときのために昔使ってた薪ストーブとろうそくとかを居間に用意して、
俺は自分の部屋にいたんだよ。そろそろ寝ようかと思ってた夜の10時過ぎ頃、
パッと部屋の電気が消えた。「停電だ」と思ってカーテンを開けて窓の外を
見ようとした。ほら、停電って、町のブロックごとに消えたりすることが
多いだろ。だから他の家がどうなってるか見ようとしたんだ。
そしたら屋根の上に大きな蜘蛛が伏せてたんだ。大きさは、
胴体だけで1mはあった。それに毛が生えた手足は2mもあったんじゃないか。
その顔がすぐ窓の外にあって、にぶく光る目がたくさん見えたんだ。
外の街灯はついてて、その光で見えたんだと思う。

「うわー」って叫んで下に駆け降りた。
親はまだ起きてて、ロウソクをつけたとこだった。
「蜘蛛だよ、でかい蜘蛛が屋根の上にいる!」って父親に言ったが、
「蜘蛛がどした」って馬鹿にしたような声が返ってきた。ただの蜘蛛だと
思ったんだろう。まあ今から考えれば無理のない話だけどな。
だから「3mもある蜘蛛が屋根の上にいる」って叫んだ。
そんとき電気がついたんだ。父親はますます馬鹿にした顔をして、
「そんなのいるわけがないだろう」って感じだったから、
手を引っぱって俺の部屋まで連れていった。2階も電気がついててね。
カーテンが開けたままの窓の外、屋根の上には何もいなかったんだよ。
けどな、窓のガラス一面に白い糸がびっしり張りついてた。ケサランパサランだよ。

「うわ、なんだこれ」父親がそう言って、窓を少しだけ開けて、絡みついた
糸を手でつかんで部屋の中に入れた。そしたら、カツンと乾いた音がして、
床に何か落ちたんだよ。ケサランパサランがまとわりついた、2cmらいの
青い筒だった。ストローを輪切りにしたような感じだったが、滑らかで固かった。
・・・後で学校に持ってって、社会の先生に聞いたんだよ。
そしたら、「管玉」ってものだろうって言われた。
古代ガラスでできた首飾りの一部じゃないかって。
それで、その夜は怖かったんで下で親といっしょに寝ることにしたが、
夜中の2時過ぎかな。外で「ズザーン」って大音響がしたんだよ。
あのあらしの中でも近所中に響くほどの音。
雨も激しかったんで、外に見にいったりはしなかった。

翌日になってわかったことだが、裏山が崩れてたんだよ。雨で地盤が
緩んだらしい。でね、崩れたところの内部が古墳の石室になってたんだ。
大学から調査の人が来て、いろんなことがわかった。
石棺の蓋が割れてたが、中に人骨が残ってて、これは時間がかかったが、
葬られてたのは若い女性だろうってことだった。
俺の部屋に落ちた管玉、あれと同じもんが棺の中に大量に入ってたんだ。
石室は古墳時代、だいたい6世紀くらいじゃないかって話だったな。
遺跡は保存されることになって、棺も人骨も県の博物館に運ばれた。
今もそこにあるはずだよ。それ以来ケサランパサランは飛ばなくなったし、
巨大蜘蛛も見ていない。え? 隠してたエロ本はどうなったかって?
なんだよあんたら、それから見にいってねえよ。

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