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呪禁の話

2020.09.20 (Sun)
あ、ども。じゃあ話してくよ。これな、俺がガキの頃に始まって、
今もまだ続いてることなんだ。しかも、最初はよかったが、
どうも事態は悪いほうに転がってるみたいなんだよ。
ここの人は、そういうことの専門家だって聞いたもんだから、
こうしてやってきた。話をするのにべつに礼金はいらねえから、
もし対処法があるのなら教えてくれよ。
始まりは小学校の5年のときだな。夏休み中でお盆だったはず。
一家で墓参りに行った。まあそれは毎年のことだったが、
その年だけ、父方の墓参りの後に、母方のほうにも行ったんだよ。
何年忌だか忘れたが、親戚一同が集まっての大法要があるってことで、
うちも呼ばれたんだ。父親はふつうの家の出身だが、

母親の実家の本家が、ある地方の旧家なんだよ。で、兄貴と俺も
連れていかれたわけ。いや、その法要が長かったことは覚えてる。
坊さんが十数人いてお経を唱えてな。3時間近くかかったんじゃないか。
その後、母親の本家の墓所に行った。そこだけ土台が一段高くなってて、
それは立派な墓だったよ。で、その前でも住職がひとしきり
お経を唱えてな。親戚一同数十人がその墓の前にいたんだが、
ほら、俺の家は別姓だろ。だから、列の一番うしろで小さくなってた。
俺はその頃から悪ガキだったから、また長くなるんだろうと思って
両親に気づかれないよう、こそっと抜け出したのよ。
でかい墓地でな、碁盤の目みたいに通路が切られてる。
そう遠くまで行くつもりじゃなかった。区画をぐるっとひと回り

して戻ろうと思っただけなんだ。20mくらい進んで、本家の墓所と
反対側のほうへ曲がった。1mばかりのコンクリの道で、
両側はずらっと墓。ところが、いくら進んでも横に折れる道が
なかった。まあ、突きあたりに墓地を囲んでる黒い塀が見えたんで、
そこまで行ったら引き返そうと思ったわけ。ところが、
いくら進んでも塀は近くならなかった。そうだなあ、500mは
歩いたと思うが、そろそろ戻らないとヤバいと考えて
来た道を引き返したのよ。一本道を進んできたわけだから、
それで元の場所へ出られるよな。それが、いくら行ってもただ
まっすぐ道が続いてるだけ。怒られる、そう思って走ったんだよ。
そしたら、両側はふつうの墓だったのが、だんだんボロっちいっていうか、

自然石の、低い苔むしたのになってきたんだ。そんなの来たときに
なかったのは間違いない。あせるし、怖くなってきた。
でな、引き返す前の倍くらいの距離を進んだと思う。
とうとう墓がなくなって、道も土に変わったんだ。前に塀も見えない。
その頃には全力で走ってたんで、息が切れて立ち止まった。
そしたら、ボロ小屋みたいなのがあったんだよ。廃材を打ちつけた
だけの真っ黒な小屋。もしかしたらそこに人がるんじゃないかと思って、
戸もない入り口から中をのぞき込んだ。そしたら、中はオレンジ色で、
突きあたりに炉みたいなのがあって、その火の色なんだ。
炉の前には白い着物を着た人がいた。頭がつるつるだったから坊さんだと
思った。年は若く見えたな。「あの、すいません」俺が声をかけると、

その人は驚いたように振り向き、「子どもか、どこから来られた」
柔らかい声で そう聞いてきたんで、事情を話したんだよ。事情っても、
まっすぐ進んでたはずなのに道がわからなくなったってだけだが。
そしたら、坊さんは少し考え込んでから「何年から来られた」って。
意味わからねえだろ。そう言うと、また少し考えて「西暦で」
それはわかったが、俺は「平成〇〇年」って答えたんだ。
坊さんは「ふむ」みたいに言い、俺の腕をとって炉の側に連れてくと、
そこにあった筆を茶碗につけて、俺の左腕の手首の内側に
何か書いたんだよ。筆をつけたのは墨じゃなく水みたいなもんで、
字に色はついてなかった。それから、「これですぐ戻れるから」って。
「どうも」と礼を言って、外に出て小屋と反対に走った。

そしたら、すぐ曲がり角があったんだよ。ほんの20mくらいで。
後ろをふり返った。でも、あの小屋はなくなってて、ずっと通路に
なってたんだ。曲がってすぐ、お経を読む声が聞こえてきた。
人の輪も見えた。本家の墓所のすぐだったんだ。それで、そうっと
近づいて後ろについたんだよ。両親の姿もあって、俺が抜け出したのは
気づいてないみたいだった。で、それが終わってからは、
寺の近くの料亭を借り切ってあって、そこで住職も呼んで宴会に
なったんだよ。俺の親父はその日のうちに車で帰る予定だったから
飲まなかった。でな、俺はさっき字を書かれた左腕が痒くて、
掻いてるうちにぼこっと腫れてきたんだ。母親がそれを見て、
店の人に言って虫刺されの薬をもらった。しばらくして腫れはひいたよ。

まあそんなことがあってな。夢みたいな話だと思うだろ。いや、俺も
ほんとうにあったことかわからなくなって、そのうちに忘れた。
思い出したのは、ええと3年後か。俺が中2のときだ。サッカーの
クラブチームに入ってたんだが、そこのチームはけっこう強くて、
土日は毎回のように練習試合や大会があった。で、3年が引退して、
俺が新チームのメンバーに選ばれた最初の試合の前日、
急に腕が痒くなったんだよ。ああ、あの字が書かれた場所だけ。
搔いてるうちに腫れてきて、前みたいに盛り上がってきた。
それが何かの字っていうか、記号みたいなんだ。
そうしてるうち、高熱が出てきたんで、親に病院に連れてかれた。
医者は腕を見て、虫刺されによるアレルギーだろうって言ったが、

虫に刺された記憶はないんだ。点滴をして熱は下がったが、
腫れはなかなかひかなかった。で、大事をとって入院ということになり、
俺は試合に出られなかったんだよ。入院中に腕をみた別の医者が、
「これ、字みたいだね。あ、梵字にそっくりだ」って言った。
ガキだったから梵字が何かも俺にはわからなかったけどな。
で、サッカーほうだが、事故があったんだ。会場へは現地集合で、
親の会で誰が車を出すか、順番が決まってたんだ。
その、俺が乗るはずだった車がもらい事故を起こして、
運転してた親と、乗ってたチームのメンバー1人が死んだんだよ。
いやあ、偶然というか、そのときは俺の腕のことと関係があるとは
まったく考えてなかったよ。2日入院して腫れはひいた。

それから、10年以上腕はなんともなかった。その間にいろんな
ことがあったんだ。親父が職場で倒れて、そのまま亡くなった。
俺が大学のときだが、それもあって俺は大学をやめたんだ。
といって仕事についたわけじゃなく、当時は演劇に興味があってな。
劇団員をやってたんだよ。もちろんそれで食ってはいけねえから
バイトしながら。でも、演劇のほうも物にはならず、
その劇団は解散し、それからはずっとフリーターという名の
プー太郎をやってた。そのうちにパチスロなんかにもはまって、
地下カジノで働くようになった。ある組がやってたやつだが、
そのあたりのことは詳しく話さなくてもいいよな。
けっこう真面目にっていうか、言われたとおりにやってたら、

組の仕事もぽつぽつ入ってくるようになった。カジノとは別の
取り立てとかだ。でな、俺はこのとおり体もでかいし、人不足だから、
盃をもらって正式に組員にならねえかって話になったんだよ。
これな、受けないわけにはいかないだろ。でほら、あんたらも
知ってると思うが、組の分裂騒ぎがあって、殺気立ってきたわけ。
で、一昨日、ずっと忘れてた左腕な。また痒くなって腫れてきた。
熱は出てないから医者にはまだ行ってない。それで、これ見てくれよ。
くっきり字が浮き出してるが、ガキの頃のとは違う感じがするんだよ。
今はネットで何でも見られるだろ。この腫れた形で調べてみたら、
やはり梵字で、「寂滅」っていうのにそっくりなんだ。寂滅って
死ぬことなんだろ。俺、どうすればいいのか教えてほしい。

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コメント
 タイトルの呪禁は「じゅごん」かな? 禍々しい字面に反して退魔よりの技だった気がします(漫画知識ですが)。そうなると、今回も難を逃れるヒントってことでしょうね。
 もっとも個人的には、語り手氏の行く末よりも庵にいた術者のお坊さんの方が気になりますが。「西暦で」がシュールで好きですw
| 2020.09.21 21:21 | 編集
コメントありがとうございます
呪禁は道教的な呪法で、魔を祓い、危害を避けるものです
ですから、お坊さんも仏教の人ではないのかもしれません
bigbossman | 2020.09.22 16:43 | 編集
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