クロユリは・・・

2014.02.22 (Sat)
大企業といえる会社でOLをやっています。
前社長の退任にともなって社内での派閥争いが表面化し、
大きく人事が移動しました。私のような末端もそのあおりを受けて、
経理から、新年度から新しく設けられた
調査センターというところに配属が変わりました。
センターの室長は昨年度まで購買部長として、
前社長派でバリバリやっていた方で、実質的な格下げ人事です。
どんな仕事をすればいいのかわからないまま、新年度が始まりました。

センターは社員5人で構成され、元小会議室だった部屋に
机を運び込んでスタートしました。どうやら業務内容は、
社内からの様々な要望に応じて調査し報告するというもののようでした。
室長は出世コースから外れ、さぞやガックリきているだろうと思いましたが、
新年度顔合わせの飲み会のあいさつを聞くかぎりでは、
そう落ち込んだ様子もなく、酔うにつれ「臥薪嘗胆」などという言葉も飛び出し、
まだまだ巻き返しに意欲を持っておられるようでした。
当初は各部署からの業務依頼は何もなく、
連絡網を作ったり、お茶くみ程度しかすることがないので気楽なものでした。

4月の第3週のことです。
その日の午後、外部のフラワーリースの会社から女の人が来て、
机の仕切りとして使っているロッカーの上に、
かなり大きなドライフラワーの花かごを置いていきました。
黒い服を着た長身の陰気な人でした。
窓のない室内が殺風景なので室長が気を利かしたのかと思いましたが、
そうではなく総務課から依頼されたもののようでした。
花かごをみて、室長が「俺らに立ち枯れろってことかよ」と、
つぶやくのが聞こえました。かなり気分を害したようでした。

じつは私は学生時代に趣味でドライフラワー教室に通っていたことが
あるのですが、その花かごはとてもよくできていて、
さすがにプロの仕事だなと感心させられました。
素材として使っているのは、バラ、カーネーション、
カスミソウなどのありふれたものですが、
中にクロユリの花が混じっていたので、少し驚きました。

ユリの花は水分が多く、ドライフラワーには向かないのです。
シリカゲルという乾燥剤を大量に使えばできないことはないのですが、
たいへん高価になるうえにあまりきれいではないため、
ふつう用いられることはありません。
その数本のクロユリはすべて室長のほうを向いていました。

それから数日して室長の様子がおかしくなりました。
ほとんど仕事らしい仕事もないのに、
ちょっとしたことで部下を怒鳴りつけるのです。
センターの部員は私以外は20代後半から30代前半の男性社員で、
もちろん派閥人事のことも知っていましたから、みな素直に頭を下げていました。

室長がこれまで溜めていた憤懣が噴き出しているのだと考えたのです。
頭を低くしてやり過ごそうと思っていたのでしょう。
ところがそれだけではなく、デスクに座ったまま、
手を上に上げ鋭く振り下ろす動作を繰り返すようになりました。
それを日に何度もやります。しかもだんだん間隔が短くなってきていました。

私が一度、おそるおそる「どうしましたか」と聞いてみたら、
「ハチがいる」と怒鳴られました。真っ黒い大きな蜂が数匹、
室長の顔の近くだけを飛び回っているというのです。
しかしそんなものはいません。他の部員も私に口添えしてくれましたが、
「お前らにこのブンブンいう音が聞こえないのか」と湯飲みを投げつけられました。
こうなってしまうと、もうさわらぬ神にたたりなしです。

必要以外に室長に話しかける人はいなくなり、
センターは重苦しい雰囲気になりました。
私は室長に呼ばれ、蝿叩きと殺虫剤のスプレー缶を買ってこさせられました。
室長はデスクの上に、まるで爆弾のようにスプレー缶を並べ、
血走った目をして蝿叩きを握りしめていました。

翌日、昼休みに室長をのぞく部員が声をかけあって外部に出て、
室長のことについて話し合いました。
どうみてもおかしくなられているのは間違いなく、
みなで上部に相談しようということに話がまとまりました。
会社に戻ると、室長が花かごに顔を埋めてドライフラワーを
ムシャムシャ食べていました。私たちが帰ってきたことに気づいたのでしょう、
顔を上げて「この中からハチが出てくる。いくらでも出てくる。
 もう出てこられないようにしてやる」そう言ってニヤッと笑いました。

一番年配の部員が「室長、やめてください」と引き離そうとしましたら、
ちょっと腰に手をかけただけで室長は床に尻もちをつき、
激昂するかとおもいきや、子供のように泣き出しました。
そして泣きながら、壁に立てかけてあった予備のパイプ椅子をつかむと
とぼとぼした足取りで部屋を出て行きました。・・・その後、
室長は非常階段の窓をパイプ椅子で叩き割り、そこから飛び降りました。
8階でしたのでもちろん即死です。会社内は大騒ぎになりました。
すったもんだがあり、どうやら調査センターは廃止になるようでした。

数日後、室内の片付けをしていると、前にきたフラワーリース会社の女の人が
無残な姿になった花かごをとりにきました。前と同じ黒い服でした。
私が「手伝いましょうか」と声をかけると、
「軽いから大丈夫です」と無表情に答えました。
「クロユリのドライフラワーって珍しいですね」と言うと、
しばらく黙っていましたが「クロユリの花言葉って知ってますか?」
と逆に質問されました。「さあ・・・恋でしょうか」
「それは歌で有名ですが・・・もう一つあるんです」そう言って帰っていきました。

*クロユリの花言葉のもう一つは「呪い」ですよね。
自分は大学卒業後1年だけ商社に勤めましたが、
その後ずっと自由業なので会社を舞台にした話を書くのは苦手です。




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| 2016.08.07 08:15 | 編集
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