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2014.02.23 (Sun)
コンビニでバイトしてるんだ。週4日で8時から午前2時までのシフト。
そこへはチャリで通ってるんだけど、とにかく急いでアパートに帰る。
でないと次の日の大学の講義に間に合わなくなるから。
1時限目の授業はとらないようにしてあるんだが、それでも1回あるし睡眠不足は避けたい。
部屋に入ってからは風呂に入って寝るだけで、飯も食わないことが多い。

その日も帰り道をチャリで走ってた。
できるだけ近道をしてるんで住宅地の中を突っ切っていくんだが、
夜中なんで人通りもないし、信号もほとんどない。
いつも、やや大きめの児童公園のようなところにチャリを乗り入れて、
向こうの道までショートカットする。もちろん自転車で入るのは禁止だが、ばれるはずもない。
防犯のための街灯が園内にもあってけっこう明るい。
草地の上を立ち乗りして走ってると、右手の繁みの陰からフラッと人影が現れた。
ぶつかりそうになって全力でブレーキをかけ、足を着いた。

ブカブカのオーバーを着た背の低い男だった。
髪が長くて額をおおっている上に、映画のクルーゾ警部のような帽子をかぶってたんで
顔はよくわからなかったが、のぞいている髪が白髪交じりだったからおっさんだと思った。
手に紙袋を引きずってたからホームレスかもしれない。
しかしこのあたりはほとんどいないとこなんだけどな。
ぶつかりそうになったのをなんとか避けて「おい、危ねえぞ」と声を荒げたが、
おっさんは意に介さない様子で、紙袋から長い縄のようなのを取り出して
俺の目の前に突き出し「これ買ってくれよ」と言った。

俺は虚をつかれた感じで一瞬ひるんだが、見ると1m半ばかりの小汚い縄だ。
「こりゃ酔っぱらいか」と、無視していこうとしたら、
「買ってくれよ!」とおっさんが大声を出した。
気にせずペダルに足をかけたら、おっさんは「買ってくれよ、ヤマダタケイチ君!」
とさらに怒鳴った。「ありゃ」と思ったよ。
山田は俺の名字だし、タケイチというのは父方のじいさんの名で武一と書く。
不思議に思って「なんでじいちゃんの名を知ってるんだ」と聞いてみた。
おっさんは「昔世話になったんだよ。その恩返しだ。買ってくれ」
と縄を両手に持って俺のほうに突き出してよこす。

ためしにと思い「いくら?」と尋ねた。
すると「1円、1円でいいんだ。・・・金がないならあんたの靴下の片方でもいい」
わけがわからない。じいさんの知り合いなのかもしれないがつき合ってられない。
こぎ出そうとしたら、後ろからチャリの荷台をつかまれた。
「待て、これを買わないとたいへんなことになるぞ。騙されたと思って買え!」
小さな体のどこにと思うような力だった。
とにかく早く帰りたかったんで「わかったから離してくれ。買うから」
そう言って財布を出した。それでもまだおっさんはチャリを引っぱったままだ。

「でもよう、1円ならただでくれたっていいだろ」こう言うと、
「いや、何でもいいから代償をもらうのがきまりなんだ」
おっさんは片手で一円玉を握りしめ、それでもまだチャリを離さず、
「縄をバッグにしまえ、見ているとこでやれ」こう言った。
俺が不承不承バッグに入れると、やっとつかんでいた手を離し、
「これで仕事が終わった。借りが返せる」と、心底ほっとしたように言った。
じいさんのことをもっと質問しようかとも思ったが、早く帰りたかったんでやめた。
チャリで走り出すと「それ絶対に途中で捨てたりするなよ!!」
と後ろでがなってる声が聞こえた。

それにしても変なおっさんだったな。じいさんはもう15年前に死んでるのになあ、
とか考えながらアパートに着いた。
部屋に入ると、散らかってるのが気になったんで片付けた。
ゆっくり風呂に入って体を隅々まで洗った。
それから新しいジャージに着替えて部屋の中を見回した。
備え付けのクローゼットの戸を開けてみた。
戸の上端は2m以上の高さがあって大丈夫そうに思えた。
クローゼットから2本しかないネクタイを引っぱり出し、束ねてそこに掛け引っぱってみた。
なんとなく頼りない。切れるかもしれないと思った。

そのとき、さっき縄を買ったことを思い出した。
バッグから出してみると、白い布をねじってあってあちこちに字のようなのが見えていた。
ネクタイよりは丈夫そうに思えた。
全体を大きく輪にして両端を結びつけ、クローゼットの戸に引っ掛けた。
踏み台は必要なさそうだった。両手で縄を持って、ジャンプする形であごをかけた。
ギリギリと強い力がのど仏にかかって、気が遠くなりかけたとき、
耳元で「バカモン!!」という大声が響いた。
子どもの頃に聞いたことのあるじいさんの声だと思った。
縄がブツンと切れ、俺は床に尻もちを着いた。

・・・まあこんなことだったんスよ。
いや、いや、自殺なんてする気はこれっぽっちもなかったんです。
ところが部屋に入った途端に「ああこれから死ぬんだよな」って思ったんです。
不思議ですよねえ。悩みなんて特になかったんスけど・・・。
死神に魅入られたってのはこういうことを言うんスかね。
ああ、縄はまだ持ってます。切れたのを広げてみたらでっかい日の丸の国旗で、
たくさん寄せ書きがありました。
太平洋戦争のときのじゃないスかね。じいさんは戦争にいったみたいスから。
今は実家の神棚にあるはずです。ホームレスみたいな男ですか?
何度もあの公園を通ったけど、あれから一度も会ってないスね。
よくわからないんスけど、何かの災いからじいさんに助けられたんだと思ってますよ。


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