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ミーちゃん

2014.02.25 (Tue)
この住宅地に越してきてもう半年近くになります。
できるだけ早く地域になじもうと、
3歳の息子ともども行事には積極的に参加してきましたので、
今では友だちと呼べる親しいお母さん方も何人かできました。
その一人に、絵本の読み聞かせ会に誘われました。
なんでも日曜日の夕刻に、公民館にプロの劇団員の人がボランティアで来てくださり、
1時間ばかり2~4歳児を対象に紙芝居の読み聞かせをしてくれるということでした。
これはよい企画だと思い参加してみることにしました。

会は6時からでした。時間少し前に行ってみると、会場の公民館の図書スペースには
世話役のお母さん方と劇団員の人たちが集まって準備をしているところでした。
お誘いを受けたお母さんも娘さんを連れてもうみえていました。
劇団の人たちは若い人が多かったのですが年輩の方もおり、全部で8名でした。
この地域よりもっと大きな市を本拠地としているのだそうですが、
ここでやった公演で多数のお客さんがきてくれたので、
そのお礼をかねてのボランティアということだそうです。

他に知り合いのお母さんも何人かみえましたので、
立話などしていると開始時間になりました。
図書スペースの黒板を前にかなり大きな木製の紙芝居枠が組み立てられ、
その後ろに役者さんたちが入って台本を読むという本格的な形です。
お母さん方は十数人おられ、みな子どもをひざの上に抱いてその前に並んで座りました。
始まって、とても驚きました。
やはり役者さんだけあって声の張りがまったく違うのです。
しかも登場人物ごとに違う人が演じてくださるので、
幼児にも話がわかりやすいと思いました。

紙芝居の絵のほうは市販品を使っているようでしたが、
ふだんはあまり落ち着きがなく、じっとしていることの苦手な息子でも
すぐに興味を引きつけられ、身を乗り出すようにして見入っていました。
プログラムは5分ほどの短い話をいくつも並べた形で、
男の子向けのダンプとショベルカーが出てくるものや、女の子向けのお菓子屋さんのお話、
昔話を現代風に書き直したものなど、内容が多彩で子どもたちを飽きさせませんでした。
子ども向けのお話のため、感情移入して読む部分はそう多くなかったのですが、
子どもたちの夢中になっている様子から劇団の実力がわかるような気がしました。

休憩を途中途中で入れながらプログラムは進み、最後の話になりました。
始まる前に、ひげをたくわえた年輩の劇団員の方が出てこられて、
この紙芝居はオリジナルで、絵も劇団の美術担当者が描いたということを説明されました。
たしかに既成のものとは違って、色が厚く塗られ立体感がありました。
しかし内容は難しくはなく、家の中で幼児が5人でかくれんぼをするというお話でした。
ターちゃんという男の子が鬼になり、残り4人の子を次々と見つけていきます。
メノンちゃんは空のバスタブの中で、キーちゃんは2階の押入で、
フミンちゃんはベッドの下で見つかりました。残りはミーちゃんという女の子だけです。
おそらく最後の絵がめくられたとき、急に会場の図書スペースが暗くなりました。

最初は演出かとも思いましたが、劇団の方もあわてている様子です。
暗いのにおびえて叫んだり、泣き出す子が出てきました。
パタタタッという足音も聞こえ、親の手を離れて走り回っている子もいるようでした。
・・・30秒ほどして電気がつき、世話役の方の一人が
「すみません、ブレーカーが落ちたようです」と説明されました。
この出来事で、最後の話はあいまいなまま終わってしまいましたが、
そこはさすがにプロの劇団員で、
子どもたちが参加できる簡単な体操をしてくれ、よい雰囲気で会は終わりました。
ただ、息子は電気が消えたときから口をぽかんと開けていて、
体操もやらず固まっていました。暗くなったショックが残っているのだろうかと思いました。

家に戻ると7時をまわっていて主人も帰ってきていました。
今日この会に行くことを話していたので気をきかせて弁当を買ってきてくれていました。
それを温めようとキッチンに入ると、息子がついてきました。
お弁当をレンジに入れようとしたら「ダメだよ!」と大声で叫びました。
「どうしてダメなの?」と聞くと、
「ミーちゃんはレンジの中にかくれてるんだから、チンすると死んじゃう」と言うのです。
「まさかこの中にいくら小さい女の子でも入らないでしょ」と言うと、
「最後の絵に描いてあったもん。レンジの中からミーちゃんが外を見てた」と涙声で叫びます。
そういえばちらっと見えた最後の絵は台所の場面のようでしたが・・・
「でも、そうだとしてもお話の中の家のレンジで、うちのとは違うでしょ」
「ダメったらダメ!!」

声をききつけて主人がやってきたので、ざっと事情を説明すると、
「変な話だなあ」と笑いながら、息子を抱き上げてレンジの中を見せていました。
手を取って中をさわらせたりもしたので、息子も不承不承納得したようでした。
スープだけこしらえて温めたお弁当を食べましたが、
息子はせっかく買ってきた子ども用のをだいぶ残しました。
その夜のことです。ぼそぼそとした話声で目が覚めました。
うちは私と主人がそれぞれ別のベッドで、息子は同じ部屋のベビーベッドで寝ているのですが、
声はそちらから聞こえてきますした。薄明かりの中で見ると、
ベビーベッドの上に息子が膝立ちになっていて、足元に黒い塊がありました。
息子はその頭をなでて何かをささややいているようでした。

「ごめんね、痛い?ごめんね、ごめんね」耳をすますと息子のこんな声が聞こえました。
そっとベッドから抜け出てベビーベッドの横に立ちました。
息子が気配に気づいてこちらを向き「ママ、ミーちゃんを病院に連れてって!」と言いました。
ベビーベッドの上の塊が、ゆっくりと起き上がりました。。
顔・・・なのでしょうか。黒い厚紙をクシャクシャに丸めたようなものがそこにありました。
その一部がぱっくりと開き「アウア」と声を出しました。両方の目にあたる部分も開き、
そこからだらだらと液体がこぼれ出しました。私は絶叫しました。
・・・私が錯乱している声を聞いて主人が起き、明かりをつけました。
ベビーベッドには何もおらず、息子もきちんと布団をかけて眠っていました。

すべて夢だったのでしょうか・・・
この夜以来、私は精神が不安定になりしばらく病院に通いました。
電子レンジが使えなくなりました。
息子は、以前よりおとなしくなったような気はしますが、
それほど大きな変化は感じられませんでした。
息子が「ミーちゃん」という言葉を口にすることはなく、
1ヶ月ほど後、私のほうから「紙芝居のミーちゃんって覚えてる?」
とおそるおそる聞いてみました。
息子は何かを思い出すように目をしばたかせながら、
「ママのせいで死んじゃったよ」とぽつんと答えました。


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