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結婚

2014.02.27 (Thu)
場所は言えない・・・と書くと嘘の話だからと思われるかもしれないが、
そうじゃなくてヤバイからなんだ。ヤバイ証拠は今俺が手に持ってる。
もうそこは関係ないのかもしれないけどな。
4ヶ月くらい前だよ。
日曜日に彼女と一緒に遊びに行った帰り、途中で一回電車を降りた。
ネットでちょっと話題になってるラーメン屋があって、行ってみようと思ったんだ。
ところが道がうろおぼえだったんで、どうやら間違った出口から出てしまったらしい。
その南口を出てすぐのところに灰皿のあるスペースがあって、
サラリーマンが何人か喫煙してた。

その前を右に曲がっていくと、道がせまくなって右横に駐輪場があって
人通りはなかった。
そんときすでに「あれ、間違ったかな」とは感じてたんだ。
ここで引き返しときゃなんでもなかったんだが・・・。
駐輪所を過ぎるとさらに道がせばまって、向こうに高架が見えた。
ただ高架の先は道が広がってるようだったんで、そこまでは行ってみることにした。
高架の側までくるとムッと嫌な臭いがした。ゴミに酢をかけたような臭いだと思った。

高速道路の高架は横に延びていて、下はまだ5時前なのに薄暗く、
コンクリで囲まれた花壇のようなのがずっと向こうまで続いてた。
だけどそこにはわずかに雑草が生えているだけで、
むき出しの土はの上は、ほとんどホームレスのダンボールハウスと
ブルーシートのテントに占領されていた。一番手前のダンボールハウスの前で、
もう10月なのに袖なしの派手なワンピースを着たオバハンが七輪で何かを焼いていた。
前の広くなってるように見えた道も、両脇に古ぼけた社宅みたいなのがあるだけで、
先のほうに赤と白の車止めが見えた。

「ちょっと、ここ嫌な感じ」彼女がそっと言ったんで、
「間違ったみたいだな、戻るか」と答え、引き返そうとしたら、
いきなり七輪のオバハンが走ってきて、彼女の腕をつかんだ。
「やー、やめてよ」と彼女が叫び、
「あんた何すんだよ、いきなり」と俺が押しのけようとしたが、
オバハンは彼女の腕にぶらさがるようにして離れない。
そんときにオバハンの顔を見たが、パーマをかけるときのようなのを被ってて、
顔全体がクリームを塗ったようにテカテカ光ってしかもしわだらけだった。
ツーンと嫌な臭いが鼻をついた。
オバハンは「ヨウイチちゃん、ヨウイチちゃん、お嫁さんがきたよ!」と金切り声で叫んだ。

すると人の背丈より高いダンボールハウスがドンと一回揺れて、
中からランニングを着た男が出てきた。
男と書いたが、人間じゃないかもしれない。それくらい異様だった。
俺も背は高いほうだが、男はさらに頭ひとつ分くらい高くて、
頭に髪がなく、ぱやぱやと産毛のようなのが生えてた。その頭自体がいびつにゆがんでて・・・
うまい例えが見つからないが、地層がずれてるように左右対称でないんだ。
なんでそこまでわかるかというと、その男は出てくるなりしゃがむと地面に両手をついて、
筋トレでやるカエル跳びみたいな形でこっちに近づいてきたからだ。

そのランニングから出てる腕やら肩がレスラー並みの筋肉をしてて、
これは逃げるしかないと思った。彼女の腕にしがみつているオバハンの後襟を持って、
思い切り引き倒した。彼女も横にのめりそうになったが、オバハンが離れたんで、
腕をつかんで引っぱった。
オバハンは倒れたままだったが「ヨウイチ」が近くまで迫ってきてた。
半泣きの彼女に「走れ!」といい、俺らは全力で走った。
駐輪場を過ぎて駅近くまでくると、帰宅のサラリーマンの姿が見えてきたんで、
後ろを振り返ってみた。一本道のずっと向こうにヨウイチとオバハンが並んで立ってた。
こっちに何か叫んでるようだった。

「もう最低!何あれ」と彼女が言い、
「ごめんごめん、まあ無事でよかったよ。北口のから出るんだったんだな」
と答えたものの、俺も同じく最低の気分だったんで、
ラーメン屋には行かずそのまま電車に乗り、彼女を家まで送って別れた。
・・・今にして思えば、このときに駅の交番に通報しとけばよかったんだ。
夜に、彼女に電話したが携帯の電源が入ってなかった。
嫌な思いをしたんで早く寝たのかもしれない。
次の日、大学の授業に彼女が出てこなかったからまた電話した。
しばらく呼び出し音が鳴って、最初はよくわからなかったが彼女の母親が出た。
出かけたが、携帯を持っていかなかったということだった。
珍しいことがあるもんだな、と思った。何があっても手離すことなんてないのに。

ところが午後10時過ぎになっても彼女は帰らず、友達のとこにもいないってことで、
彼女の母親から俺に連絡がきた。昨日あったことを話し、
「俺も心当たりを探してみます。もし明日の朝まで帰らなかったら、
捜索願をだしたほうがいいかも」と言って切った。
それからあちこち当たってみたんだが、見つからなかった。
それから1週間、行方不明のまま。
もちろん心配したし、俺のほうから捜索願を出した署にもいって高架下でのことも話した。
それだけじゃなく、俺も同じ研究室の仲間を5人誘って、あそこにいってみたんだ。

ところが、あのずっと奥まで続いてたブルーシートが全部きれいさっぱりなくなってた。
手前のダンボールハウスもなかった。ただ、地面をよく調べたら、
土の上に踏みならした跡があり、それでも踏み忘れた直角の角を見つけた。
ダンボールを立ててた跡じゃないかと思った。
あたりを見て回ったら、少し離れた空の側溝に丸く造った造花の花束のようなのが落ちてた。
泥はついてなかったが煮しめたように薄汚れてて、ゴミの中から拾ったような感じだった。
ついてきてくれたダチにも確かめたが、結婚式のブーケというやつじゃないかと言われた。
そのとき、あのオバハンが叫んだ「お嫁さんがきたよ!」という言葉を思い出して、
背筋がゾクッとする感じがしたんだ。

さらに1週間たって、俺のアパートに手紙がきた。
安アパートなんで、個別の郵便受けがないかわりに大家さんが部屋ごとに配ってくれるんだ。
その手紙は俺の名前しか書かれてなくて、切手も貼ってない。
誰かが持ってきて玄関の郵便受けに入れたんだろう。
安臭い茶封筒で、中を開けると「結婚しました。幸せになります」
と書かれたノートの切れっ端が入ってて、最後に彼女の名前が書いてあった。
筆跡は、いつも彼女が講義のときに書いてた丸っこい字そのものに見えた。
もちろんこれも警察に持っていったよ。そのときに担当の女性警官が話してくれたんだが、
彼女の家の近くの防犯カメラを複数調べても、どこにも彼女の姿はなかったということだった。
「カメラがあるのを知ってれば、写らないように通るのは簡単ですけど」とも言ってた。

そのあとは・・・彼女の行方はまったくつかめず、どこにも連絡はなかったが、
今日、また手紙がきたんだ。
前と同じようなノートが入ってて、一言だけ「赤ちゃんができました」と書いてあり、
彼女の署名・・・それだけじゃなく、封筒にはまだ何か入ってるようだったんで、
振ってみると、証明写真くらいの小さなカラー写真が出てきた。
かなり不鮮明だが、バックは河原のようなところで水が流れているのがわかった。
水は赤っぽい色をしてて、その前に彼女らしき人物と、かなり大きな半裸の男が写ってた。
彼女のほうは顔は小さくて見えず表情はわからない。
でかい男はヨウイチだった。大きく口を開け、くずれた顔全体で笑っていた。


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