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「ぶーどーちゃん」

2014.03.17 (Mon)
12年暮らした夫と離婚しました。
離婚というか向こうが女つくって出ていったんだけど・・・
子どもがいなかったから慰謝料もわずかなものだし、
早晩生活に困るだろうと思って働くことにしました。
とは言っても私は高卒で何の資格もないし、
せいぜい掃除のパートくらいしかできないだろうな、と思ってたんです。

それでもダメ元と思って親戚に相談したら、
小学生のとき以来ずっと会ってなかった少し年上のイトコの耳に入ったらしく、
仕事を手伝わないかと声をかけてくれたんです。
そのイトコはネットで怪しげな商売をしていて評判が悪く、
他の親戚ともあまりつき合いがなかったんですが、
話を聞いてみたらびっくりするような給料でした。
ネットのサイトで、呪いグッズのようなものを販売しているということでした。

迷いましたがやってみることにし、次の週から事務所に通うことになりました。
事務所は雑居ビルの6畳くらいの部屋です。
ネットで販売しているのは「わらにんにんちゃん」という藁人形を模したものと、
「ぶーどーちゃん」というブードゥー教の人形に似たものです。
どっちも布製ですが、ゆるキャラのような可愛らしさがあって、
どこまで本気の商売なのかわかりませんでした。
背中にチャックがついていて、呪いをかける相手の爪や髪の毛を入れることが
できるようになっていました。そうしてから釘で打ったり、針を刺したりするんです。

これをいくらで販売すると思いますか?
人形一体に呪いのやり方を書いた薄いパンフをつけて1万5千円なんです。
高いと思うでしょう。原価は100円くらいですから、そういう意味では高いです。
でも、これによって憎い相手が死んだり不幸になってくれれば安いもんじゃないですか?
それにこの商売は良心的で、なんと返品、返金ありなんです。しかも無期限で。
つまり呪いが成就しなかった場合はお金を返します、ってことです。
すごいでしょ。

だから仕事を初めてまず驚いたのは、その返金作業にかなりの時間をとられることです。
そうですね、返品率は9割を超えてるかもしれません。
新たな注文で人形を送るのと、
返品を受けてお金を返すのとほとんど同じくらいという感じでした。
だからけっこう忙しかったんですよ。あと、送り返されてきた人形が怖かったです。
釘で打たれてボロボロになってるくらいはまだましなほうで、
中には朱書きで「怨」とか書かれてたり、血がついたりしてるのもあったんです。
人形のチャックの中には、髪の毛や使用済コンドームなどが入れっぱなしになってる
のも多かったです。

それで、これら返品された人形は捨てちゃならないんです。
すべて箱に入れてとっていました。
イトコは趣味の悪い金のブレスレットをガチャガチャさせながら、
こんなことを言ってました。
「この返品された人形たちがこの商売のキモなんだよ。
最初に売れないのは困るが、返品率は100%でもかまわない、
というかむしろそのほうがいい」
これがどういう意味なのかわからなかったんです。最初のうちは。

人形が箱の中にだんだん貯まっていくにつれて、
事務所の雰囲気がはっきりと悪くなっていくのがわかりました。
蛍光灯をつけてても暗い感じがするし、
窓の外の電線にカラスがとまって鳴いているのを見ることが多くなりました。
しかもカラスは必ず事務所のほうを覗っているんです。
あとこれは気のせいかもしれませんが、肩が凝るようになり、
パソコンも故障がちになってきたんです。

そのことをイトコに言うと、少し顔をしかめながらも否定はせず、
「そうかもしれんなあ。こりゃなんかの対策を考えんとあんたの体に障りがあるのかも。
わかった。それはこの次考えることにして、人形をいったん煮るから見にくるかい?」
こう聞いてきました。
「煮る、って何ですか?」
「それは見ればわかるよ」
こんなやりとりがあって、処理の現場を見学させてもらうことになったんです。

その夜、イトコが人形をバッグに詰めて車で向かったのは、
街の外れにある廃寺のようなところでした。
ボロボロの衣を着て髪を伸ばした僧侶のような人がいました。
イトコが手を上げてあいさつすると、僧侶は雑草だらけの中庭に大鍋を準備し、
チャックの中のものもそのままの人形を入れ、一斗缶の焚火で煮はじめたんです。
しばらくすると、鍋の中から「にくいい」「死ね、死ねえ」
というか細い声が聞こえ出しました。
僧侶が鍋をヘラのようなのでかき回しながら何やら呪文を唱え始めました。

「見るか?」とイトコが言って鍋を指さしたので、
中を覗いて、思わず「ウソっ!」と言ってしまいました。
ぐらぐら煮え立ったお湯の中で「ぶーどーちゃん」と
「わらにんにんちゃん」がとび跳ねていました。
底に沈んでいるのも、ぐねぐね絡まり合うようにうごめいていました。
「にくいい」「なんで捨てた」「死んでしまえ」・・・
人形の小さい口が動いてこれらの語を発していたのです。
「人形が呪った本人の言葉を覚えてきてるんだよ」イトコはこともなげに言いました。

「この後、人形たちは共食いを始めるが、それは見ないほうがいいだろう。
とてもおぞましいもんだから」イトコは私をうながして本堂に連れていきました。
庭では僧侶の声が遅くまで響いていました。
翌朝、早く起きて鍋を見にいくと、底のほうに赤黒い血泥のようなものが溜まっていました。
僧侶は地面にへたり込んで眠りこけていました。
イトコは「これだよ、これ。グラムあたり金より高く売れるんだぜ。
ほしいやつはいくらでもいる」にまにましながらそう言ったんです。

そこでイトコはふと思いついたように「あんた、別れたダンナを憎んでるかい?」
と聞いてきました。「・・・ええ、当然」と答えると、
「おお、怖い顔」とおどけたように言い、
「まだダンナと暮らしてたアパートに住んでるんだよな。じゃダンナの髪の毛一本くらい
見つかるだろ。明日探してみなよ」と言いました。
その日は仕事がなかったので送られて帰り、アパートの寝室のじゅうたんをはがしてみると、
私のではない短い髪の毛が何本か見つかりました。

次の日、イトコが帰り際に事務所にやってきて「ほらこれ使ってみな。後悔はなしだぜ」
そう言って一体の「ぶーどーちゃん」を渡してよこしたんです。
それは一見新品のように見えましたが、色が赤黒く変化していました。
あの鍋に溜まった血泥で染めたんだろうと思いました。
アパートに帰って、串焼き用の金串を取り出しました。
部屋の電気を消し、ロウソクに火をともし、人形に髪の毛を入れて呪言を唱え、
念を込めて一気に串を突き刺しました。心臓、額、股間などに何度も何度も。
少しの迷いもなかったです。

最初に刺したとき、「ぐおおおおおおっ」といううめき声が聞こえたんです。。
夫の声だと思いました。そしてパアッと霧のようなものが飛び散って顔にかかりました。
手でぬぐうと、血より少しオレンジがかった液体がべっとりとついていました。
これで話を終わります。
・・・え、夫はどうなったかって・・・そうですね、それは気になるでしょうね。
でも、ここでは言わないでおきます。すみません。


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