FC2ブログ

懐剣

2014.04.02 (Wed)
実家で一人暮らしをしていた親父が脳卒中で倒れ病院で亡くなった。
他に兄弟はいないし、実家とは離れたところに仕事を得ていたので、
これを機会に家を売ってしまおうと考えた。まずその前に遺産の整理をした。
貯金などはたいしたことはなかったが、親父は生前、骨董集めを趣味にしており、
いくつもある和室のあちこちに飾ってあった壷や掛け軸、布袋像などを、
家に出入りしていたという骨董屋に売ったらけっこうな額になった。
そのかわりというか電化製品などはどれも耐用年数を過ぎていて、
粗大ゴミとして業者に引き取ってもらわねばならなかった。

そのまま不動産屋に頼んで実家の買い手を探してもらっていたら、
先日、見つかったという連絡がきた。
売ってしまう前に、念のためもう一度と思って実家にいき家探しをしていたら、
台所の床下に野菜貯蔵庫のようなのが見つかり、中から小さめの茶箱が出てきた。
ひどいホコリだらけで、入れてからかなりの時間がたっているもののようだった。
十字にかけられた紐を外そうとしたらぷつりと切れてしまった。
蓋を開けると中には布でくるまれた小物がごちゃごちゃに重ねられていた。
さわってみると皿のような感触のものもあり、親父が秘蔵していた骨董なのかもしれないと思った。

それで前に来てもらった骨董屋を呼んで、鑑定と買い取りを依頼した。
骨董屋も商売になると味をしめたらしく、すぐにやってきて目の前で調べ始めた。
最初に茶筒ほどの大きさのものの布をほどくと、木彫の猿の像が出てきた。
俺には民芸品以上には見えなかったが、骨董屋は「これは・・・」と言ってしばらく黙り込んだ。
それから「ちょっと詳しく見させていただきますが、時間は2時間以上かかるかもしれません」と言った。
その日はどうせこちらに泊まるつもりだったので「お願いします」と答え、
見ていてもしょうがないので、
家具もなにもなくなった隣の間に寝転がって持ってきた文庫本を読んでいた。

小一時間くらいして骨董屋のいる部屋から「あーっ、だめだ!」という大声がしたので、
何事かと襖を開けて見にいったら、何やら鞘入りの短刀のようなものを両手にもったまま
骨董屋が固まっていた。手がわなわなと震え、顔を見るとはらはらと涙を流していた。
「・・・40年ですよ、40年、この商売を始めてから。これまでね、ずいぶん危ない目にも遭ってきた。
でもね、いつも間一髪で回避してきたんですよ。・・・自分の勘には自信があったんだ。
それなのに開けちゃった。これのね、刃を見ちゃったんですよ」涙はとめどなくあふれ出た。
「いや、いいんですよ。息子も独立したし、ひ孫の顔も見た。
ええ、いつ死んだってかまわないようなもんです。
ただね、悔しいんですよ。老いぼれてここまで目が曇ったかと思うと」

何が起きたかもわからず「それは脇差しですか」と俺は聞いた。
「いや懐剣です。ほら、時代劇で武家の奥方なんかが自害するときに用いるあれです」
「それがどうしました?」
「これは中の刃を見ちゃいけないものだったんです。私の寿命はここに尽きましたよ」
何を大げさなと思ったが、骨董屋は続けて、
「とにかく仮の封印だけはします。和紙の準備がないので、失礼・・・」
そう言うと障子に歩み寄って大きく破き、その紙でこよりを作って懐剣とやらの鍔の部分に巻きつけた。
「もうね私はお終いです。これらは買い取りはできません。
お父様は何か・・・生前、一風変わった骨董の使い方をしておられたようで」

そう言われてみれば、親父は若い頃の一時期、定職につかず拝み屋のようなことを
やっていたという話を聞いたことがある。
茶箱の中の品はその頃に使っていたものなのかもしてない。
「これらは当方が売ったものではないし、みなよくない品です。
その中でもこの懐剣はいけません。・・・ぜったいに鞘から出してはいけません。
置いていきますから、懐剣は夜中にこっそりどこかの有名な神社の境内にでも埋めてください。
その他のはおそらく川に流すだけで十分でしょうが」こう言い残し、肩を落とし悄然と帰っていった。
この様子を見て俺は心の中で嗤っていた。骨董の祟りなんてものがあるはずはない。
どうせ安く買い叩くための芝居だろう。

こっちを気味悪がらせておいて、あとで恩着せがましく二束三文で持っていくに違いない。
懐剣も開けて中を見てしまおうかと思ったが、万が一のことを考えてやめておいた。
別の骨董屋に見せればいいだけのことだ。
その日は敷地に置いてあった車で車中泊し、翌日の朝のニュースを車のテレビで見て愕然とした。
家族6人が惨死しているのが発見されたという内容だったが、
孫娘を含む5人を包丁で殺害し、最後に首を吊って自死した疑いが持たれていたのは
間違いなくあの骨董屋の老人だった・・・
それにしても、懐剣の刃を見るとどんなことが起きるのだろう。
いったい何が見えたのだろうか・・・


関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/327-07050894
トラックバック
コメント
本当のような作り話。
本当と思わせる、今回のは感心しました。
どこかにネタ元あるのでしょうか?
天地有情 | 2014.04.03 22:46 | 編集
コメントありがとうございます
この話は自分ではかなり大げさだと思いナンセンス話のほうに分類したのですが
ご感想は参考になります
ネタ元はもちろんありませんが、あえて言えば
自分がこれまで読んだ本や見た映画の内容が混然と入り混じったところから
出てくるのだと思います
bigbossman | 2014.04.04 00:21 | 編集
話しの終わりの方、懐剣の刃紋に宿る妖気に操られたに
違いないとか、よくサスペンスドラマの謎解きのような
終わり方は、如何なものでしょうか。
天地有情 | 2014.04.04 10:36 | 編集
コメントありがとうございます
うーん自分の話に出てくる謎は何パターンかあって
なんとなくオカルト的にどうしてそうなったかが推測できるもの
かなりオカルトに詳しい人でないと推測できないが、いちおう答えはあるもの
謎は謎のままで、答えはおそらく作者を含めて誰も推測できないもの
などがあります
bigbossman | 2014.04.04 16:26 | 編集
今回は、「なんとなくオカルト的にどうしてそうなったかが推測できるもの」のようですね。
また、参上します。
天地有情 | 2014.04.04 23:31 | 編集
コメントありがとうございます
話を書く目的が「怖さ」の追求なので、手法はいろいろ試してみているところです
オカルト話はなかなか一般的な起承転結には収まりにくいですね
いつでもおいでください
bigbossman | 2014.04.04 23:58 | 編集
管理者にだけ表示を許可する