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図書室の本2

2014.04.04 (Fri)
私が小学校のとき、図書室に「井田文庫」というコーナーがありました。
なんでも地元の資産家の方が寄贈されたものだということで、
分厚い児童文学全集が何種類もそろっていましたが、
利用する生徒は多くありませんでした。最近出た話題の本がないこと、
図書室内で閲覧するだけで貸し出しを行っていないこと
などもその理由の一つでしょうが、一番には、
この文庫の中に呪われた本があるという噂が生徒の間に広まっていたことが
大きかったと思います。でも実際は、
井田文庫が寄贈されるずっと前から、その小学校で生徒が事故に遭ったり、
亡くなったりしたという事実はなかったはずです。

私はこの井田文庫が好きでした。
みんなに敬遠され、手に取ってみる人もいない本たちが、
なんだか自分に似ていると思ったからです。
私は前の年度の終わりにこの小学校に転校してきました。
両親が離婚し、父方の実家に引き取られたためです。
そのショックが尾を引いて、自分から心を閉ざしてしまい、
担任の先生がみんなに溶け込めるようあれこれ配慮してくれたにもかかわらず、
どうしても新しい環境になじむことができませんでした。
始めはもの珍しさせいもあって、
声をかけてくれたクラスメートからもすっかり孤立してしまって、
昼休みや放課後は図書館の井田文庫の前で過ごすことが多くなっていました。

図書室の最奥で、大きな本棚の陰になった井田文庫の前にイスを出し、
手首が疲れるのも意に介さず、重い文学全集の一冊を読んでいるときが、
最も心が休まったものでした。これは家に帰るのが嫌だったせいもあります。
祖父母は親切でしたが、自分の部屋もない新しい住まいは、
居心地のいいところではありませんでした。
ある日の放課後のこと、そのときも井田文庫の前にいて、
全集の中の一冊を手に取りました。「小公女」の本だったと思います。
セーラという主人公の少女が、運命の激変に耐えて
心清らかに生きる姿を描いたものでした。
偶然に開いたと思ったページに、ピンク色の付箋がはさまっていました。
その分そのページが開かれやすくなっていたのです。後でわかったのですが、
本の中で主人公のセーラがいじめをうけている部分でした。

付箋には「あなたの好きな子、嫌いな子を教えて?」と書かれていて、
その文の後に矢印があり、書き込みができるくらいの空白が残っていました。
少し変に思いましたが、たまたまシャーペンを持っていたので、
そこに「好きな子も嫌いな子もいない。友だちはだれもいない」と書いて元に戻しました。
その後に初めから小公女の話を読みはじめ、
夢中になるにつれて付箋のことは忘れてしまいました。
翌日の放課後、続きを読もうと井田文庫の前で本を手に取ったら、
付箋より大きなメモに定規をあてて切ったような紙がこぼれて落ちました。
そこには「沢地家の通用門のロザリオを外してくれたら、
 あなたと友だちになれる」と書かれていて、
付箋のことを思い出しましたが、そのメモの言葉の意味はわかりませんでした。

昨日私が帰った後、誰かがこの本から付箋を抜き取って読み、
かわりにメモをはさんでいったのでしょうか。
この内容が気になってしかたがありませんでした。
なんだかこのとおりにしなくてはいけないことのような気がしたのです。
そこで家に帰ってから、祖母に「沢地家」について尋ねてみたのです。
祖母は少し眉をひそめながらこう教えてくれました。
「沢地家というのは、駅の裏にある大きなお屋敷で、
 今はだれも住んでいる人はいない」それで次の日は図書館にいかず、
よくわからない道でしたが駅裏のほうへと回ってみました。
たいして時間もかからず沢地家は見つかりました。
それは広大なお屋敷で、表側は高い石塀がとりまいていました。

「通用門」というのは裏口のことかもしれないと考え、
家のまわりに沿った道を進んでいくと、
石壁は低い鉄柵に変わり、道も舗装されていない草地に変わりました。
鉄柵ごしにお屋敷の裏側が見えました。
大きな建物に、病院のような感じの窓がいくつも並んでいました。
草地を少しいくと鉄柵に小さな鉄の門がついており
、大きな錠前がかけられてありました。
門そのものは大人なら乗り越えられそうな高さでしたが、
鉄柵の先は鋭くとがって上を向いていました。よくさがすと、
錠前のずっと下、地面に近いあたりにネックレスのようなものがからまっていて、
それには小さな銀色の十字架がついていました。

「これがロザリオというものだろうか・・・」なんとなくそんな気がしたので、
外そうとしてみました。何重にもこんがらかって柵にからみついていたので、
苦労しました。10分以上の時間をかけてなんとかほどくと、
柵の中の建物のほうから「ありがとう」、
という女の子の声が聞こえたような気がしました。
でも建物はうっと離れていて、声が届くとは思えませんでした。
そちらを見上げると、三階のはじの窓に動くものがありました。
その小さな影はぼろきれをまとった人のように見えましたが、
全体が赤黒い色に染まっていました。・・・これは、
建物に夕日があたっていたためにそう見えたのかもしれませんが。
なぜだか急に怖くなってきて、ロザリオを地面に置いて走って家に帰りました。
その夜のことです。

父は長距離トラックの運転手をしていてめったに家には帰りません。
祖父母の家はせまく自分の部屋がないだけではなくて、
祖父母と一緒に9時過ぎにはもう寝なくてはなりませんでした。
他の子のように遅くまでテレビ番組を見たり、メールのやりとりをしたり、
音楽を聴いたりといったことは何一つできなかったのです。
一度寝入って、めったにないのですがトイレに行きたくなって目が覚めました。
祖父母を起こさないようにそっと起き、離れた場所にあるトイレへと向かいました。
その帰り、廊下を戻っていると窓の外がぼうっと赤く光りました。
「見てはいけないものがいる」と本能的に思いましたが、
そちらから目が離せませんでした。

私と同じ歳くらいの女の子が草の中に立っていました。
ボロボロの毛布のような布をまとい、
その布は赤い光の中で不気味なまだらになっていました。
女の子の顔は見たはずですが・・・思い出せないのです。
このあたりのことを思い出そうとすると、割れるように頭が痛くなりました。
20歳を過ぎた今でも、この話をしていると後頭部がズキズキするんです。
女の子の声が直接頭の中に響いてきました。
「出してくれてありがとう。あなたは私に似ている。私はあなた、あなたは私。
いっしょになって小公女の本を読みましょう」こんな内容だったと思います。
・・・気がつくと廊下に倒れていて、朝の光が差していました。

幸い暖かくなってきた季節だったので風邪などはひいていませんでしたが、
固い木の床に寝ていたため体のあちこちが痛みました。
祖父母はまだ起き出してはいませんでした。昨晩の記憶は残っていました。
朝の光の中、外に出て女の子がいた場所にいってみると、
そこには何かが焦げた燃えカスのような黒いものが散らばっていました。
「私はあなた、あなたは私」という言葉が歌のような調子で頭の中をめぐりました。
何かが私の中に入ってきたのだということがわかりました。
・・・この後もさまざまなことがあったのですが、
長くなってしまいますのでいったん終わりにしたいと思います。

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