握る

2014.04.07 (Mon)
もう10年近く前のことになるな。大学のときにオカルト研究会に入ってたんだ。
こう聞くと、どうせ飲み会めあてのいいかげんなサークルだと思うかもしれないが・・・
たしかに飲み会は多かったが、けっこう真面目に活動してたんだよ。
女めあてだったらもっとこじゃれたとこに入るし、子どもの頃からのオカルト好きが集ってた。
それに当時、会のブログを立ち上げてたから、
その記事を書くために定期的に何かやらなくちゃならないってのもあった。
活動は、心霊スポットといわれるところ・・・廃墟や湖、トンネルなんかに行って一晩過ごし、
写真や動画を撮ってくるというのが一番多かった。
この話もそんな中での出来事。

ブログの記事は毎週更新で、学年ごとに当番が決まってた。1年、2年、3年の順だな。
で、そのときは俺ら2年生の番だったんだ。
週初めに集まって行く場所の候補を探したんだが、
大学は関東だったけど、有名どころはあらかた行ってしまってたんだ。
それに何とかトンネルとかは、はじめはたしかに怖かったが、
だんだん慣れてきてどこも変わりばえがしないように思えてきた。マンネリになってたんだな。
ネットであれこれ探していると、三島ってやつが知り合いから情報を仕入れてきて、
それは千葉の海岸沿いにある民家ってことだった。
家の中のものが昭和40年代のままでほとんど残っていて、仏間には仏壇や写真額なんかもそのまま。
ケース入りの日本人形なんかもあってかなり怖いということだった。

何よりも、有名になってないから入ったやつもわずかしかいなくて、
スプレー缶の落書きみたいなのはまったくないということだった。
時間もなかったんで迷わずそこに決めた。行くのは木曜の夜、大学から車で1時間半といったとこだ。
当日になって、参加したのは俺を入れて4人、全部2年生だった。
山田というやつが自分の中古キューブを運転し、三島が後部座席ですでにノリノリになって
ナレーションを入れながらビデオを撮っている。もう一人は鈴木というやつ。
道はナビに住所を入れてその指示にしたがった。
高速をしばらく走り、ほとんど車通りのない海沿いの県道に出て20分もすると、
ナビが「目的地周辺」と言った。
時間は11時を少しまわったところ。カーブの先の左手に「〇〇食堂」と書いた看板が見えた。
右手の道路の外は防砂の松林が続いていた。

「民家って言ったけど、食堂なんだな」車を駐車場らしき跡に停めて山田が言った。
各自が懐中電灯とカメラなんかを持って車から降りると、かすかに波の音が聞こえてきた。
「ああでも食堂は表側だけで、二階の住宅部分が怖いって話だぜ」と鈴木。
県道の街灯の光が届くため、駐車場はそんなに暗くはなかった。
食堂部分のガラス戸が大きく割れていて、破片に注意してそっから中に入った。
むろん所有者に届けなんか出してないんで不法侵入だ。
当時はあまりそんなことは意識してなかったんだ。
「けっこう広いな」「食堂というより、ドライブインって感じだな」
「何かいわれとかあるんか」俺がこう聞くと、三島がビデオを回しながらナレーション口調で、
「ここが30年ほど前から廃墟であることは室内のカレンダーで確認されています。
食堂が立ちいかなくなったたため、経営者夫妻が首を吊ったという話がありますが、
確証はとれていません」こう答えた。

厚くほこりが積もったテーブルと散乱したイスが散らばる店内をあちこち懐中電灯で照らしたが、
落書きのようなものは一つもなく、古くてレアなスポットなのは間違いないようだ。
ビデオを撮る三島が先に立ち、俺らが足もとを照らしてやる形でキッチンの奥に進むと、
住居に続くらしいドアがあった。
「鍵はかかってないはずだ」そう言って三島がノブを回すと、ギッと音を立てて奥に開いた。
入ってすぐに4人で「うっ」と言った。すごいカビ臭さだったからだ。木の階段があった。
「二階が住居なんだ」「板が割れてるぞ、そこ気をつけろ」山田がその部分を照らしながら言った。
階段を上ると、トイレの前に出た。俺がドアを開け、三島がビデオを向けたが何の変哲もないトイレ。
クモの巣がびっしりだ。大のほうの個室の戸も開けてみたが水洗の和式便器。水は出なかった。
「あんまり怖くねえな」ぼそっと山田が言った。

「あの店のまるまる二階が住居ならけっこうな広さだろ」「上全部ってわけじゃないようだ」
トイレの隣が浴室で、水回りはなぜか怖い雰囲気がするもんだが、
中を見たがここも変わった様子はなし。
脱衣所にほこりだらけになったバスタオルがかかっているのが気味が悪かった。
コップに入ってそのままになってる歯ブラシなんかも。浴槽に水は残ってなかった。
トイレ、浴室前の短い廊下を抜けるとダイニングキッチンらしい木の床で、
砂の上を歩くようなザシザシした音がする。
「いいか、ここで言っておくけど物は絶対持ち出すなよ」山田が言った。
「何リーダー気取ってんだ、持ち出さねえよ。オカルト的にそれは祟られるポイントだからな」
「昔住んでいた人に敬意を持つんだ。物を壊したりもするなよ」こんなことを言い合っていると、
カウゥーンというような音が奥のほうから聞こえた。
「・・・聞こえたか今の」「音したよな」「鐘の音じゃないか、仏壇にあるやつ」
「俺もそれを連想した」「俺も」

とはいえ、まだ本気で怖がってるやつはいない。
これまでの廃墟探索の経験から、人がいない場所でもいろんな音がすることを知っていた。
しめ切ったところを開けた気圧の関係、ネズミなどの動物、その他!?が立てる音だ。
「・・・いいか絶対一人だけで逃げるなよ。逃げる場合は全員いっしょだ」山田が言い、
「だからお前がリーダーじゃないんだよ」またつっ込まれた。
そうは言ったものの全員が同じことを考えてた。
マンガだと、こういう心霊スポットで気が狂ったり死んだりするのは、
たいがい一人で取り残されたやつだ。
グボッ・・・足もとで大きな音がした。
「うわ、危ねえ!」鈴木が叫んだ。「これ床、腐ってるぞ。俺、今踏みぬいちまった」
「でかい声出すな」「ここは一軒家でだれにも聞こえねえよ」
たしかに床のあちこちで板がふわふわする部分があって、そうとう脆くなっているようだ。
キッチンには長テーブルとイスがきちんとセットされ、
流しには調理用具、戸棚には食器がそのまま残ってた。

3人が懐中電灯の光を集中させたところを三島がビデオで撮り、
クモの巣だらけシャッターカーテンをくぐると居間らしかった。
ソファ、昔のでかいステレオ、テレビ・・・
「いやこのテレビ見ろよ、古いなー、これってもう骨董的な価値だよな。レコードとかも」
「さわるなよ」「軍手してるから大丈夫」「そういうことじゃねえよ」
壁にカレンダーがかかっていて、日付を確認すると昭和48年。
ひととおりビデオと写真を撮って、居間の右手のドアを開けるとベッドがあり、寝室らしかった。
「うっえー。カビ臭せえ」ベッドの上はシャベルで砂をまいたようなほこり。
「おい、あれ撮れよ」山田が指さしたのはタンスの上のケースに入った日本人形。
懐中電灯の光が数方向からあたって、表情がくるくる変わって見えた。
「すげえよ、これすげえ映像が撮れてるぞきっと」三島がつぶやくように言った。
押し入れも開けて確認したが、布団が積まれているだけ。タンスなどの中はいつも見ない。
「たぶんこの奥が仏間で、それで最後だと思う」情報を知ってる三島が言った。

いったん居間に出て、寝室のと並んだもう一つのドアを開けると、そこは8畳くらいの部屋で、
右の壁全体に巨大な仏壇があった。一般家庭で見かけるやつの倍はある。
「何これ、でけえな」「でけえ」「ふつうの仏壇じゃないよな、宗教関係じゃないか」
「これ・・・閉まってるからいいけど、扉が開いてたら怖いだろな」
「絶対開けるなよ、本気で呪われるぞ」
「畳の部屋がないのは、下の店への防音を考えてのことかな・・・」
仏壇の上はすぐ欄間で、そこに遺影らしい写真が5枚あった。
「これ・・・ちょっと乗り気しないな」そう言いながら三島がビデオを向けた。
そのとき三島の体がぐらっと揺れた。「あっとと・・」三島の手からビデオカメラが落ちた。
カメラは床でバウンドして、仏壇の下の木魚と鐘の間の線香などを入れるスペースに入り込んだ。
「ああ手が滑った。しょうがねえな」俺らが懐中電灯で照らし、
三島がかがんでそこに右手を突っ込んだ。

「あれ、ないぞ。ここ深いな・・・」と言ってた三島が、突然絶叫した。
俺らは半歩後ろに下がってしまった。頭の中で本能が「逃げろ!」と警告してるようだった。
「うわ、うわ!誰かが俺の手を押さえてる。うわあ!!」
三島が体を左右に振って手を抜こうとしたがダメだ。
「ああ、助けて・・引っぱってくれ。頼む、早く」三島の声が半泣きになった。
鈴木が伸ばした三島のもう一方の手を引っぱり、そのまま二人でどっと反対方向に倒れ込んだ。
ガンという音。「痛ってえ」鈴木の声。
「逃げろ!」山田が叫び、山田、俺、三島と鈴木の順にきた道を通り、
転がるように階段を降りた。店の中をつっ切ってキューブのある場所まで走りに走った。
全員が息を切らし、体を折ったりしゃがみこんだりした。
「俺の手を何かが上から押さえたんだ、すげえ力で」三島が言った。
見ると三島の右手の軍手が脱げていた。

「・・・手袋してきてよかったな。なかったら逃げられなかったかもしれない」
鈴木が「壁に頭を打った、コブになってる」こうこぼしながら側頭部を押さえていた。
「ビデオカメラどうする?明日回収にいくか」わりと冷静に山田が言ったが、誰も答えなかった。
「・・・あれ?」三島が間の抜けた声を出した。「どした?」
「うんいや、あれ、俺の手開かないよ」三島がつき出した右手はグーの形に握られたままだった。
「力入れすぎて固まったんじゃないか」「・・・指が動かな・・・あ、あ動いてきた」
俺らの見ている前で、三島が肩の高さあたりでゆっくり指を開き出した。
腕全体ががくがく震えていた。
指を開ききった・・・とき、上に向けた手のひらからボッとタバコの煙を濃くしたようなものが出て、
俺らの間をするすると漂った。
「あ!」俺らは跳び上がるようにして車に乗り込み、山田があわてふためいて発進させた。

こっからは後日談になる。
ビデオは怖くて回収できず、1年に行かせようかとも思ったがあきらめた。
デジカメの写真は俺のも鈴木のもすべてまともに写っているものはなかった。
みな画像に白い膜がかかったようになってたんだ。結局その回のブログの更新はしなかった。
三島はほどなくしてサークルをやめ、残り3人もあまり熱心ではなくなって、
ありきたりのスポットでお茶を濁していたが、就職活動が始まる頃にはやめた。
その後、卒業して3年目に三島の訃報を聞いた。
睡眠中の突然死で、心臓麻痺ということだったが、
あのときのことと関係があるかどうかはわからない。
俺は今の会社に就職して結婚し、男の子が生まれたが五体満足とはいかなかった。
右手の指が癒着して手のひらにくっついたままだったんだ。事前診断でわからなかった。
医者の話では手術しても正常にはならないだろうということだった。
これも、あのときのことと関係があるかどうかはわからない。

*この話は自分にしては珍しいストレートな廃墟探索物です。
 今後書いてみたいと思う人は、まず最初に訪れる廃墟の間取図を作ってから
 始めると書きやすいし、現実感も高まると思います。


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コメント
今日も怖い話しありがとうございます。
パソコンに向かって調べものしていると精神的に憑かれて
来るので、ここの話しは一服の清涼剤です。
オカルトもの大好きです。
天地有情 | 2014.04.09 21:39 | 編集
コメントありがとうございます
なるべく毎日書けるよう努力します
bigbossman | 2014.04.09 23:07 | 編集
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