蛇湯

2014.04.08 (Tue)
山歩きを趣味にしています。山登りじゃないので頂上を目指すわけではありません。
渓流を遡上しての釣り、野鳥観察、季節の山菜やキノコを採りに手近な低山を巡るんです。
それから温泉探しというのもあります。
地図を見ると温泉の記号があるのにそこいらに温泉郷や宿がない場合、
山の中に自然湧出する源泉が誰も利用せずに放置されていることがあります。
また、そのあたりを山行する人が、簡単な露天風呂を作っていたりする場合もあります。
そういうのを見つけるのが楽しみなんですが、
温泉が湧き出るような火山域は有毒ガスが出ている場合もあり注意が必要です。
そんな温泉探しの最中にあった出来事です。

5月の連休にある山地に入りました。その麓の温泉宿に泊まったとき、
一緒になった年輩の地元の方に、わりと最近、
道が土砂崩れで閉鎖されたために放置された一軒宿の話を聞きました。
老夫婦と息子で経営していたのが、建物が解体されることもなくそのままうち捨てられているが、
裏手にある露天風呂は源泉かけ流しなので今でも入れるかもしれないという情報です。
これはいいと思い、さっそくいってみることにしました。
地図で道を確認すると、車も通れていた道路は土砂崩れで不通のままでしたが、
沢伝いに入っていけそうな感じがしました。
翌日は晴れで、9時過ぎに出発しましたが往復5時間と見積もっていました。

沢を登っていくと、道中にいくつかあった滝もたいした障害ではなく気持ちのよい行程でした。
途中藪こぎする場所もあったんですが、
熊よけの鈴の音を響かせながらいくと、2時間ばかりで宿が見えてきました。
うっすらと硫黄の臭いがしてきました。
廃墟となってそんなに時間がたっていないらしく、荒らされてもおらず、
建物の壁はつる草にかなり浸食されていましたが、
外観は営業中といってもおかしくないくらいでした。
玄関のガラス戸は汚れてもおらず、がらんとした中の様子が見てとれましたが、
もし人の姿が見えたりしたら怖いだろうなと、そのときちらっと思いました。

このあたりは冬場も降雪量が多くないため、期待しながら裏のほうにまわると、
竹囲いの中に湯気の上がる石作りの露天風呂が見えてきました。
斜面を降りて近づくと、枯葉もほとんど落ちていない乳白色の湯があふれていました。
お湯に手を入れてみるとピリッと熱く感じましたが、入れないことはなさそうです。
せっかく来たのだから入浴して帰ろうと思いました。
どうせこのあたりに人がいるはずもなく、裸になるのにためらいはありませんでした。
脱いだ服を丸めて脱衣所の棚に置き、一歩お湯に入ると足の裏がぬるっとしました。
ああ、掃除をしないから温泉成分が溜まってるんだなと思いましたが、
お湯が白いのであまり気になりませんでした。

熱いのは好きなほうなので一気に身を沈めると、行程の疲れもとれ極楽気分でした。
ただ竹柵のため周囲の景観が見えないのが残念でした。
湯につかりながら上を見上げると、竹柵の上にはり出している楓の葉が
数枚だけチラチラと小刻みに揺れているのを見つけました。
あれ、変だなと思いました。
それは風はあるんでしょうが、あたりの葉はほとんど動いておらずそこだけ揺れてるんです。
誰かが糸をつけて竹柵の後ろで引っぱっているような感じです。
しかしそんなことをする意味はありません。風の通り道になっているというわけでもないようです。
前に山の友人に聞いた話を思い出しました。

山の中で風のせいではなく、一部分だけ木の葉や枝、つるなどが揺れている場合は、
そこは麓の街から天へと上る霊の通り道になっているというものです。
少し気味が悪くなりましたが、揺れている葉のバックはぬけるような5月の青空です。
山にはたくさんある不可思議の一つ、と考えることにしました。
風呂の底も石造りのはずですが、お湯の中を歩くとヌルヌル、ニチヤッという感触がしました。
源泉は大きめの木の樋を伝って豊富に掛け流されており、
こんないい温泉が再開されずに打ち捨てられているのはもったいないと思いました。
施設に少し手を加えて山の秘湯として宣伝すれば十分商売になるという気がしたのです。
樋の下までいきお湯を手に汲もうとしましたが、熱すぎてダメでした。50度近くあったでしょう。

あわてて手を引っ込めたとき、
樋の奥にサッカーボールのようなもの引っかかっているのに気がつきました。
何だろう、と思ってお湯から身を乗り出して確認すると、ぞっと鳥肌が立ちました。
蛇です。何匹ともしれない蛇が絡まりあい、玉になって死んでいるものでした。
硫黄とはまた違う生臭い臭いが鼻をつきました。
「うわ、なんだこれ!」おぞましさに思わず叫んでしまいました。
そのとき、ちょうど太陽が雲に入り、日が陰りました。
すると白色に見えていたお湯が一瞬で透明に変わりました。
いくら光線の加減が変化したとしても、そんなことがあるはずはないのに。
風呂の中にはたくさんの蛇が沈んでいました。

半ば白骨化したもの、色が抜け白くなったもの、枝が折れたように体がポキリと曲がっているもの、
皮がむけて身がはじけているもの・・・
数十匹の蛇の死骸がお湯の中に見えたのです。
源泉の樋をさっきの蛇玉が転がり、しぶきを上げて足元に落ちてきました。
「うわわわっ!!」跳びはねるようにしてお湯から上がりました。
蛇玉はバラバラの死骸に分かれてゆらゆら沈んでいきました。
さきほどまでの気持ちよさは完全に吹っ飛んでしまい、嫌悪感で気が狂いそうになりました。
「あーっ、あっ!」叫びながら服をひっつかみ、草で皮膚が切れるのもかまわず風呂から離れました。
そのとき耳元で「ふふふっ」という笑い声が聞こえた気がしました。
男か女かもわかりませんでした。なんとか服を着て荷物をひっつかみ、一目散に逃げて帰りましたよ。
・・・まあ、こんな話です。


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