奇術合宿

2014.04.19 (Sat)
大学のときのことです。奇術同好会というのに入ってました。
マジック、手品をやるサークルです。残念なことに自分らの世代は
男ばかりでしたけど。けっこう真面目に活動してたんですよ。
年に4回くらい県民会館の小ホールを借りて発表会をやってました。
見にくるのは身内がほとんどでしたけどね。
4月には新入生歓迎をかねて合宿をしていました。

貸し切りバスで2泊3日、山の温泉地に行くんです。
泊まるのは旅館とペンションを折衷したようなところで、
先輩の代から十年近く利用してました。
付近にはテニスコートもあって、上級生は遊びに行くようなもんだったけど、
新入生はけっこう厳しかったと思いますよ。朝は6時起床で山道を走らせたりもしたんです。
奇術に体力が必要なんか?ってここでみんな疑問を持つんですw

午前中は新入生に徹底的にクローズアップ・マジックを仕込むんです。
奇術には大きく分けて2通りあって、
術者が観客と離れた場所で演じるのがステージ・マジック。
これは人間浮揚とか大掛かりな仕掛けが必要なものが多く、
学生には金銭的な面で難しいんですね。それに対して、
クローズアップは術者が観客のすぐ近くで演じるんで、大仕掛けとは別の意味で
不思議さが際立つんです。

もちろん種のあるものが多いんですが、手先の器用さも必要です。
それと観客の心理操作。新入生のほとんどは奇術素人でしたから、
ここで先輩のスゴさを見せつけておこうという魂胆もありました。
それで2日目の夜には新入生も入れて小一時間ばかり、
ダイニングルームでショーをやらせてもらうんです。
俺らの他のお客さんは毎年5、6人ってとこでした。

で、その夜もショーを開かせてもらいました。新入生も覚えたてのを必死に演じてましたし、
3年の先輩にはプロと遜色ないような腕前の人もいました。
それなりに拍手をもらって満足し、あとは温泉に入って大宴会という次第です。
といっても広間を借り切るような金はないんで、
広めの一部屋に集まって持ち込みの酒を飲むだけでしたが。
時間は9時前くらいだったですか。風呂上がりで寝そべったりして、
新入生が宴会の準備をしていると、ドアがノックされました。

開けてみると、60歳くらいですか・・・
品のいい白髪の男の人が三つ揃いスーツを着て立ってました。
「さっきの手品を見て感銘を受けた。自分も一つだけ手品ができるから、
皆さんに見てもらいたい」そんな内容のことを言いました。
さっきのショーでその人の姿を見た記憶はなかったんで、変だなとは思いました。
先輩たちは酒を目の前にして「なんだよ、かったるいなー」という感じで、
歓迎していない様子がありありでしたが、せっかく訪ねてきてもらったんだし、
そんなに時間もかからないだろうから見せてもらうことになりました。

おそらくたいしたもんではないだろうと、馬鹿にしてた仲間が多かったと思いますが、
自分としては、もしか知らないネタなのかもしれないと、少し期待していた面もあったんです。
その紳士はわれわれから1mほど離れたところに座り、
だれかのバッグを借りたいと言いました。
中が空の大き目のバッグ・・・その人自身は何も道具を持っていないようでしたが、
三つ揃いスーツというのが曲者で、
マジシャンは中にいろんな仕掛けをしているもんなんです。
バッグは別の部屋の新入生のを中身を空けて持ってこさせました。

それから「写真を撮らないでくれ」とも言いました。
「写真に写ると子供たちが悲しむから・・・」と続いたんですが、
これは俺らのだれも何のことかわからなかったと思います、そのときには。
その紳士のリクエストで・・・部屋の明かりを落として小さな常夜灯だけにしました。
これはがっかりでした。薄暗い中ならいくらでも不思議は演出できるからです。
先輩たちもそう思ったようでした。
部屋の一方に集まった俺らから1mばかり離れ、
空のバッグを前にその人は床に座り、
「では始めます・・・子供たち出ておいで」と声のトーンを落としてささやきました。

へたっていたバッグが急にふくらみ、もぞもぞ中で何かが動いているように見えました。
バッグは長さ60cmくらい、高さも30cmといったとこだったと記憶してますが、
突然、中から5歳くらいのおかっぱの女の子が顔を出しました。
息を飲む音がし「嘘だろ」「ありえねえ」というつぶやきが聞こえました。
女の子のうつむいた顔は、黄色い明りを映してくっきり影が出ていましたが、
少しずつ顔をあげ「・・・わたしは山で死んだの」と子供の声ではっきりと言いました。
バフッという音とともに、バッグからもう一つ、
同じくらいの年ごろの女の子の顔が出ました。

髪を頭の両側にリボンで束ねた別の女の子です。
その子はびっくりしたような顔であたりを見回し、
しばらく間をおいて「わたしも山で死んだの」と言ったんです。
ザザッと新入生たちが壁のほうに後じさったようでした。
「これ・・・マジックじゃねえ、ありえねえよ」という先輩の声。
二つの女の子の頭はバッグの上でゆらゆら揺れていましたが・・・その横からもう一つ、
もっと幼い3歳ほどに見える頭が上を向いてゆっくり出てきました。

その子は目をつぶったまま「・・・おかあさん」と言ったんです。
「あー、あーっ」という仲間の叫び声がし、デジカメのフラッシュが光りました。
「写真はダメですよ」という紳士の声。同時に部屋の照明が完全に消えました。
「なんなんだよこれ」「うわーっ」パニックじみた叫び声が重なり、
数秒して明るくなりました。だれかが入り口まで行ってスイッチを押したようでした。
見ると床の上には空のバッグだけが残され、紳士の姿はどこにも見えません。

「今のがマジックかぁ?心霊だろ!」 「そうだ写真撮ったやつ画像出してみろ」
「ダメだ、カメラが動かねえ。これ完全に壊れちまった」
すべてのボタンやレバーが動かなくなっていて、ありえない故障だということでした。
バッグの持ち主が中を確かめると、何も入ってはおらず、
そのかわりぬるぬるする透明な液体がべっとりと染み込んでいました。
気味悪がってこのバッグは捨てられ、
新入生は紙袋に荷物を詰め込んで帰ったはずです。

「最後に消えたのもマジックなんか!」「絶対不可能だ!俺たちは幽霊を見たんだ」
しばらくそれぞれが勝手なことを叫び合いましたが、
その後は全員が毒にあたったように元気がなくなり、
ほとんどの仲間は少し酒を飲んだだけで寝てしまいました。
先輩の中にはオーナーのところに行って紳士について尋ねてきた人もいましたが、
そういう人は宿泊していないという返答だったそうです。

翌朝8時過ぎに帰りのバスに乗りました。山道を抜けるまで2時間くらいかかるんですが、
バスの中では昨夜の出来事について話す人はいませんでした。
見てはいけないもの、言ってはならないことと、だれもがそのときにはわかっていたんです。
バスの座席でうとうとしていましたが、
後ろの席の同輩が俺の肩をつつき「おい、あれ!」と窓の外を指さしました。
木立の切れ目に池が見え、その前に草地がありました。
昨日の紳士と3人の女の子が並んで立ってバスに向かって手を振っていました。
・・・女の子たちにはみな頭がありませんでした。


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コメント
どもー真樹海といいます。
奇術合宿、コワ面白かったですよ。
がんばって続けてください^^
真樹海 | 2014.04.19 20:39 | 編集
コメントありがとうございます
この話はどっちかというと創作っぽいものではありますが
こういうのも書きます
頑張ります
bigbossman | 2014.04.19 21:04 | 編集
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