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大鳥居

2014.04.19 (Sat)
昔からやっちゃいけないって禁じられてることをやってしまって罰を受け、
不幸になる話ってあるよな。
これもそういう種類の話で、またかって思う人もいるだろうけど実際にあったことだよ。
俺が住んでた土地というのが山合いにある小さな盆地でね、人口は数百人ってとこだった。
今はダム湖の開発で移転させられて存在しない。
で、集落には一つだけ氏神神社があって、大鳥居が立ってたんだよ。
・・・大鳥居といえば奈良の大神神社なんかが有名だけど、
あんな立派な石造りのやつじゃない。
大木の皮をはいで赤く塗った乱暴なものだったけど、高さだけはあった。
集落の火の見櫓の倍以上。盆地の外れに立ってるんだが、集落のどっからもよく見えた。
当時は一面田んぼで、高い建物なんてなかったしな。

言い伝えがあったんだよ。月のない夜には大鳥居に神様の使いの鳥が下りるって。
いや・・その鳥自体が神様だったかもしれない。
あんまりたちのよくない神様なんだ。闇にまぎれて人を獲って食うという。
ところが大鳥居には呪がかけてあって、そっから下へは降りられない。
鳥は悔しがるがどうすることもできずに、月が出る頃には飛び立っていってしまう。
そんな話だったな。で、禁じ事っていうのは、
集落内ではその大鳥居の他に鳥居を作っちゃいけないってことだ。
大鳥居より低い鳥居を作ると、鳥が集落に居着いてしまう。
・・・まあ、おいそれと鳥居なんか作るやつなんていないと思うが、
江戸時代以前からずっと守られてきたことなんだ。
考えてみれば、集落内に他の神社が入ってこないように作られたもんなのかもしれない。

俺が小学校5年生のときだよ。
6年生の男子が秘密基地を作り始めた。
山にちょっと入ったとこに使われなくなった炭焼きの小屋があって、
そこに板切れを持ち込んで雨風が入らないようにして基地にした。
昔の子どもは農作業はもちろんだし、家の修復の手伝いなんかもさせられてたから、
今の子よりずっとそういう能力があったんだな。
基地といっても何をするわけでもなく、
日曜に集まって当時の漫画雑誌を読んだり、菓子を持ち込んで食ったりするだけなんだが、
この話を聞いたときはうらやましかった。けど5年生は入れてはくれない。
それで自分らでも作ろうってことになったんだ。

一から小屋を建てるってのはさすがに不可能で、
あちこちに半壊れの農作業小屋はあったけど、大人に見つかればすぐに、
「何やってんだ出てけ!」ってなるのは目に見えてたから、
できるだけ人目につかないとこがいい。5年の男子6人くらいで手分けしてあちこち探したら、
当時「焼場」っていってた火葬場の裏手の沢に、
よさそうな朽ちかけの小屋をつけてきたやつがいたんだ。
たしかにそのあたりは人はまず来ない。
だけど学校から離れていて不便だし、やっぱり気味が悪かったんだな。
とりあえず基地にするのは保留しといて他もあたったんだが、いいのはなかった。
それで次の日曜の午後に大工道具を持って集まり、みなで修復することになった。

板材をかついできたやつもいたが、
その小屋の周囲には割れ板や丸太なんかがごろごろ落ちてて、
大きな建物を解体した跡みたいな感じだった。
そういうのを拾って打ちつけて補強し、基地は完成したんだ。
・・・今となっては、これでやめとけばよかったと思うが、
あまってる丸太を見て「これで鳥居を作ろう」と言ったやつがいた。
「えーでもよ、鳥居は作っちゃなんねえって昔から言われてるだろ」
「人食い鳥なんて信じるのかよ」
「隣村から電線をつないでる鉄塔は大鳥居より高い。なんてことはねえよ」
こんなやりとりをして鳥居を作ることに決まってしまった。
これは、禁を破りたいっていうよりも、言い伝え自体だれも信じてなかったんだと思う。

丸太の先を杭上に鉈で削って2本入り口に立て、横木を縄で結わえつけて鳥居はできた。
・・・というか鳥居には見えなかったけどな。
南米とか東南アジアの原住民の家みたいな感じになったが、みな満足した。
小屋の中は湿気がひどくあちこち苔だらけで、じかには座れなった。
次のときにブルーシートを持ってきて敷こうということにして、持ってくるやつを決め、
帰ろうとしたときは夕方になってた。
林を抜けると西のほうに大鳥居が見えてくるんだが、
先頭を歩いてたやつがそのほうを指さして「おい、あれ!」と言った。
そっちを見てみな固まったよ。大鳥居の上に黒々とした鳥がとまってた。
カラスに似ているが頭の上がぶさぶさと毛羽立ってる。
何より異様なのが、その鳥は大鳥居の高さの十分の一くらいに見えたことだ。

大鳥居が20mほどだったはずだから、2mもある化物の鳥・・・
だけど見たのは一瞬で、まばたきして目を開くとそのときにはもう消えていた。
「おい、今の見たか」「・・・鳥いたよな」「お化けカラス」
「やっぱりあの鳥居まずかったんじゃないか」
「今から戻って引っこ抜くか」「見間違えだよ、たまたま大きく見えただけだ」
「この基地の話、6年生にするのはやめとこうぜ」
「そうだな。親はもちろん弟、妹にも言うなよ」
こんなやりとりをした。大人に話をしないのは前からそのつもりだったが、
学校で自慢できないのはちょっと残念だった。
・・・まだこのときには軽く考えていたんだな。

月のない夜、次の新月の日からそれは始まった。
その晩、集落の年寄が2人死んだ。どちらも高齢だったとはいえ、
前の晩までぴんぴんしてたのが朝になっても起きてこない。
納戸に見にいくと布団の中で目を剥いて死んでたんだ。
それだけじゃなく、夜半にある人が用事で外に出ていたとき、
真っ暗な空を大きな羽ばたきの音をたてて飛んでいくものを見たっていう噂が広まった。
集落は騒然としていたよ。農作業の前に後に、あちこちで大人が集ってこの話をしてた。
俺らは・・・もちろん基地と鳥居の話はだれにもしなかった。
その日の学校の帰りに相談して、みなで鳥居を壊すことに決めたんだ。
壊すのは簡単だった。鳥居は足で蹴っただけですぐ倒れた。
縄を切ってしまえば、どこにでもある泥に埋もれたただの朽木でしかなかった。

・・・だけどそれで収まったわけじゃなかった。
翌日も2人、年寄と5歳の女の子。その次の日に幼児が1人。
そんな具合に人が死んでいく・・・
このあたりの集落じゃもう何年分もの死人がその数日で出たことになる。
怖ろしかったよ。それに・・・俺も鳥を見たんだ。
夜中に便所にいった。まだ家の外に便所があった時代でね。
たいした距離でもないが裏庭に出る。
このことが始まってから俺は外にいるときには大鳥居のほうを見る癖がついてた。
夜だと見えるわけではないんだが、ふっ上を見上げたんだよ。
そしたら隣の家の屋根にいたんだ。全身が見えたわけじゃないが、
茶碗ほどの大きな光る眼。羽を広げ飛び立つ音。

次の日、朝早く母親の叫びで目を覚ました。
親父が、まだ赤子の弟のわきで冷たくなってたんだ・・・
集落では、これは祟り以外に考えられないということに村役の相談が決まって、
大鳥居の神社で大規模なお祀りをすることになった。
強風の日だったが、続々死人が出てるんで決行した。
ところが篝火が風で神社に燃え移り、枯木を伝って集落にも広がり、
大鳥居周辺のほとんどの家が焼けた。・・・集落ではもう再建する力は残ってなかった。
ちょうどその頃、県からダム工事で集落ごと移転する話がきてたんで、
みなはそれにのって集落を離れた。
秘密基地と鳥居のことは最後まで大人にはばれなかったが、
親父が死んでそれからの暮らしは苦労の連続だったよ。
・・・人を獲る鳥がどうなったかはわからない。



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