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2度

2014.04.21 (Mon)
雑誌の編集をしていました。会社は神保町の雑居ビル内の4階でした。
6階建ての大きな窓が特徴のビルといえば、わかる方もいるのではないかと思います。
1月ほど前、溜まった仕事を片付けるため9時過ぎまで一人で残業していました。
それまでとくに怖いと感じたことはなかったです。
窓の外は明るい街だし、
ビル内の他の会社にはまだ残っている人大勢いる時間だったからです。
ひとくぎりがついて、さて帰ろうと思って立ち上がったとき、
「あっ」と息を飲みました。窓の外を頭を下にして女の人が落ちていったのです。
まだ若い人で、白っぽい服装をしていたと思いますが細部まではよくわかりませんでした。

「たいへん!飛び降り自殺?」と思い、固まってしまいました。
すると・・・2秒くらい間隔があったでしょうか。
動けないでいる私の目の前をまた人が落ちていきました。
前の人と同じ顔と服装・・・落ち方もいっしょでした。
そのとき私の口から「いやです」という言葉が出たのです。
すっかり頭が混乱してしまいました。双子の人が次々に飛び降りたのだろうか?
何で突然に「いやです」と言ってしまったのか?足は震えていましたが体は動いたので、
とりあえず会社に仮錠をしてエレベーターに乗りました。

外はさぞや大騒ぎになってると思いましたが、
会社の前の通りは何事もなかったように車が走っています。
人が落ちたような痕跡はどこにもなかったのです。
狐につままれた、というのはこんな気分のことを言うのでしょうか。
・・・何時間もパソコンに向かっていたので、
脳が誤作動を起こして幻覚を見たのかもしれません。
帰ったらすぐに寝てしまおう、と思いました。
それでも納得がいかなかったので、会社を出る間際に管理人室に寄りました。
顔見知りの初老の警備員さんしかいませんでしたので、
それとなくこのビルの自殺者について尋ねてみたのです。

「うーん、私もここ5年くらいしかいないからはっきりしたことは言えないけど、
 かなり前、まだ屋上が立入禁止でないころに飛び降りがあったって噂は聞いたことがある。
 女の人だったって話になってるけど、本当火かどうかはわからないね」
こんな返答でした。釈然としないままマンションに帰り、発泡酒を何本か飲んで寝ました。
そして夢を見ました。夢の中で私はついさきほどのように会社にいます。
窓の外を女の人が落ちてきました。何もかもそっくりな状況でしたが、
女の人の落ちる速度がスローモーションのようにゆっくりなところが違っていました。
女の人の顔がはっきり見え、目が合ってしまいました。
目には恐怖の色はなく、強い憎しみが感じられました。

女の人は私を睨みつけながらだんだん下がってきました。
そして口が横に開き前歯が見えました。私に何かを言おうとしているのだという気がしました。
そこで夢は唐突に途切れ、目覚ましが鳴っているのが聞こえました。
8時間以上寝たはずなのに全身に疲れが残っていました。
会社では女の人が落ちるのを2度連続で見ているのに、
夢の中では一度だけだったことがなんとなく釈然としませんでした。
出勤前、鏡を前にして夢の中の女のように唇を横に開いて見ましたが、
このときは私に何を伝えたかったのかわかりませんでした。
・・・もっと前からそうだったのかもしれませんが、
この日を境にして、はっきりと心身の調子が悪くなりました。

ちょっとしたミスが連続し、それを挽回しようと遅くまで残業してさらに体調を悪化させました。
編集会議で居眠りをしたり、自分で打った原稿を保存ミスで消してしまったり、
以前には考えられないような失態をそれからもくり返しました。
周囲から「疲れてるんじゃない?最近おかしいよ」と何度も言われました。
ご好意で、安い稿料で書いてくださっている作家の方の機嫌をそこねてしまったときには、
他の編集者の前で編集局長に大声で怒鳴られてしまいました。
そのときには涙が出ました。そして、もう会社を辞めようと思ったんです。
明日一番に辞めると申し出ようと心を決め、残って仕事を整理しました。
せめて後任に迷惑をかけないようにしようと考えたんです。
自分の机で・・・パソコンを前にしてうとうとしてしまいました。

夢を見ました。会社にいて女が窓の外を落ちていく夢・・・この間の夢の続きのようです。
ゆっくりゆっくり落ちてくる女は、私の顔を見つめながら口を開きます。
その口の形がこの間とは違っていました。
横にではなく、縦に小さく開いた口の形が記憶に残りました。
・・・やはり私に何かを伝えたがっている・・・
ガクンと頭が下がり、額をキーボードにぶつけて目が覚めました。
反射的に窓の外を見ましたが、うすぼんやりと明るく向かいのビルが見えるだけでした。
トイレに立ち、洗面所の鏡に向かって女の2つの口の形を何度もくり返してみました。
そして女が何を言っていたのか唐突にわかったんです。

「し・・・ね・・・」
「いやだ!」私は大声で叫びました。
そのとき鏡の端にちらっと、ドアを出ていこうとする白い影が見えたような気がしました。
「いやだ!いやだ、いやだ、いやだ・・・」子どものように叫びながら、
私は洗面台に突っ伏し、長い間泣き続けていたんです。
・・・これでお話を終わります。



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