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遠足

2014.04.29 (Tue)
小学校4年の遠足のときのことです。
小学4年生が歩いていくので、そんなに遠いとこへくわけじゃありません。
学校から子どもの足で2時間くらいにある地元の低い山に登るんです。
そこは車でいける道があるんですが、生徒は木の板を埋めた登山道を登ります。
てっぺんにある公園で昼食をとり、その後少し自由時間があるくらいで、
歩くのがメインの、文字どおりの遠足でした。
その日はすごくいい天気で、4年生の3クラス100人ちょっとが2列に並んで
山をめざして歩いていったんです。
公園でクラスごとに弁当を食べ、40分ほど遊ぶ時間がありました。

広場はかなりの面積が芝生になっていて、
自分たちの学校の他にもいくつか団体がきていました。
僕は同じクラスのN君と行動をともにしていました。
どっちかというと自分は、大勢で遊ぶより親しい友だちと少人数で何かしていたいタイプで、
それはN君も同じだったんじゃないかと思います。
2人ともゲームとかはほとんどしないで、虫や魚を採ったり飼ったりするのが好きだったんです。
だからボール遊びをしているクラスの仲間から外れて、
何か面白いことがないかと広場を回るジョギングコースの外の木立を歩いてたら、
さして大きくはないお堂があったんです。
鳥居もなにもなくただ建物だけがあって、その下が細かい砂地になっているようでした。

「あの砂のとこ、アリジゴクがいそうだな」
N君がそう言って高床の下にもぐって行きました。僕も後を追って入ろうとしたら、
お堂の裏戸が開いて、白ワイシャツを着た背の高いおじいさんが出て、階段を降りてきました。
おじいさんが僕のほうをジロッと見たので、動きが止まりました。
おじいさんは「これでもね、いちおう、神社だから、お参りしないで、遊んじゃ、だめだよ」と、
ぜいぜいした音の入ったとぎれがちの声で言いました。
そして大きく腰をかがめ、N君の後を追ってお堂の下に入っていきました。
そのとき広場のほうで笛が鳴るのが聞こえました。
学年主任の先生が首からかけてるやつで、これが鳴ったら集合の合図でした。

「あっ、戻らなくちゃいけない」と思いましたが、N君もおじいさんも出てきません。
どうしようか迷いました。そしたらおじいさんが床下から顔を出して、
「今の子、・・・君の、友だちは、向こうから、走って、出て行ったぞ」と言いました。
「変だな」とすぐに思いました。
広場へ戻るには僕から見えるところを通っていかなくちゃならないからです。
でも子どもだったので、神社にいる大人の人が嘘をつくはずがないとも思いました。
それで笛の合図をしているほうに走りだしたんですが、後ろを振り返ったとき、
お堂の床下の光と影が境目になっているとこに、
半ズボンをはいた子供の足がこちらに向かって伸びているように見えたんです。

息せき切って広場に戻ってみると、みんながクラスごとに整列して、
先生方が輪になってなにやら話をしていました。N君の姿はありませんでした。
列の前にいたやつに「まだ時間じゃないよな。どうしたの」と聞いたら、
「Nが蜂に刺されたらしいよ」と言いました。
驚いて「えっ、いつ?」と聞いたら、今度は列の横の女子が「10分くらい前」と答えました。
10分っていったらまだ、N君があのお堂に入る前なのに・・・
女子は続けて「わたし見ちゃった。N君の目の上がこぶみたいに腫れて、
転げまわって苦しんでたの。口から黄色いものをボタボタ垂らしてて怖くなっちゃった」
だれか別の生徒のことを言ってるのかとも思いましたが、
点呼をしたとき、N君以外のクラスのメンバーはそろってました。

救急車の音が聞こえて、数分後、去って行く音に変わりました。
他のクラスの担任の男の先生が舗装道路のほうから走ってきて、
「今、◯◯病院に搬送しました」と先生方の輪に入って報告しました。
学年部長の先生が前に出てきて、
N君がケガをしたために遠足はここまでにして帰ります、と説明しました。
僕はことの経緯にぜんぜん納得できませんでしたが、N君のことは心配でした。
ただ、蜂に刺されたというN君なのか、お堂の下で見えたN君らしい足のほうなのか、
どちらを心配していたのか自分でもよくわかりませんでした。
小学校まで歩き、校庭で簡単な式を行ってから解散しました。
家の近くまで来たとき、塀の陰から広場のお堂で見たおじいさんが不意に出てきました。

ギクッとして足を止めました。
おじいさんの背はさっき階段で見たよりはるかに高く感じられました。
おじいさんは空を見上げていて、僕のほうは向きませんでした。
そのままの状態で「あれね、もらって、おくことに、したよ」こう言いました。
そして長い痩せた体を2つに折って咳き込み始めたんです。
そのすきに側から飛び離れ、家に向かってかけ出しました。
ふり返りませんでした・・・何かとても嫌なものを見そうな気がして。
・・・N君は数日後学校に出てきました。顔が変わってると思いました。
蜂に刺されたのは左目の上で、かすかに腫れは残ってましたが、
目鼻立ちは変わらないものの顔が平面的になり、背も少し高くなったような気がしました。
それだけじゃなく人間全体の印象がガラリと変わってたんです。
ただ、クラスのみんなはあまりそう思ってないみたいでした。

N君は遊び方も以前とは違って、ゲームやテレビ番組の話題しかしなくなりました。
僕とはまったく話が合わなくなり、いっしょに虫取りに行くことなんかもなくなったんです。
最後にN君と遊んだのが5年生のときでした。
その頃はクラスも違い、行動を共にすることはまったくなかったんですが、
うちの母親が昔から遊んでたのを覚えていて、親を通じて僕の誕生会に呼んだんです。
N君はぶすっとした感じでやってきましたが、話はゲームのことばかりでした。
誕生会が終わって何人かは帰り、何人かは残って僕の部屋でいっしょに過ごしました。
N君は帰ると言ったんで見送りに出ました。N君は玄関にある水槽を見ていましたが、
僕の他に誰もいないのを確認すると、おもむろに手を突っ込んで金魚を一匹つかみ出しました。
バタバタする金魚を右手で強く握り、ボタボタと赤い汁を垂らしながら、平たい顔で、
「お前も一回、蜂に刺されてみろよ」ボツリと言うと、金魚をつぶしながら帰っていったんです。


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