髪神社

2014.04.29 (Tue)
*これはナンセンス話です。内容に一部差別的な表現がありますw


これからお話するのは、とある神社についてのことです。
場所や名前は秘密にさせていただきます。
というのは、もしこの話を聞かれて、行こうと思われる方がいたら大変だからです。
・・・危険があるかもしれないんです。
もっとも神社自体、もう朽ち果ててしまっているかもしれませんが。
その神社の名前は、仮に髪神社としておきましょう。「カミ」はヘアーの髪です。

私は営林署に長年勤めて退職しましたが、まだ若い頃・・・30代前半のときの話です。
その頃にちょっとした悩み事がありまして・・・
いや、お恥ずかしいですが髪のことです。若ハゲだったんですよ。
前頭部の生え際ががだんだんに後退していくタイプです。
・・・今となってみれば、何でそんなことでくよくよしてたのかと思いますが、
当時は結婚もできないかと悩んだものです。

で、同じ署にもう一人ハゲの悩みを持つ同僚がおりまして、
その方の場合は頭髪全体が細く柔らかくなるという症状で、私とは違うんですが、
酒を飲んだときなんか、同じ悩みを持つ者同士でよく愚痴をこぼしていたもんです。
営林署の仕事というのは現場に泊りがけの出張があって、作業員と飲むことも多いんです。
あるとき・・・そういう現地作業員の一人から耳寄りな話を聞きまして、
なんでも地元のとある高山の中腹に「髪神社」というのがあるそうなんです。

元々は呪いの神社なんだそうです。
何らかの恨みを持った女性が、険しい山道を踏み越えて、切った自分の髪を奉納し、
それを願掛けとして男を呪うのだそうです。
だからその神社の境内には、あちこちに長い女の髪の毛が下がって薄気味悪く、
夕暮れ時をすぎると地元の人でも、だれも近寄るものはなかったと言います。
神職も常駐してはいませんでした。

さらにその後、神社の境内が血で穢れるという事件があって、
ますます人の寄りつかない場所になりました。もう荒れ放題だったんです。
ところがいつのころからか、猟師や炭焼きの間に、
髪神社に詣でると頭髪にてきめんの効果があるとの噂が広まった・・こういう話なんです。
その作業員に、あんたは行ったことがあるかと聞いたら、
何も返答せずに角刈りの頭をしごいてニヤッと笑いました。
もう50過ぎなのに髪は黒々とした剛毛でしたよ。

これはいいことを聞いたと思いまして、作業員から場所を教えてもらいました。
それで5月の連休に2人で行ってみたんです。
いや、それは山に慣れているわれわれでも眩暈のするような山奥でした。
ここに女人が登るなどとは、ちょっと考えられないようなところだったんです。
途中には鎖場になった難所もあり、
相当に強い恨みを持ってないとできることではなかったでしょう。

まあ、その昔はもっと開けた道があったのかもしれませんが、
私らが行ったときには猟師か修験者でもなければ通れないような行程になっていました。
予想よりはるかに時間がかかって、昼過ぎには着くはずだったのが、
神社の鳥居をくぐったときには、夕刻に近くなっていたんです。
・・・社殿はボロボロでしたよ。雨風にさらされ、まさに頽廃空虚の叢といった趣でした。
そして傾いた社殿の屋根からは、おそらく女の人の腰くらいまであるような、
髪の毛の束がいくつもぶら下がっていたんです。

髪の毛は近くの杉の木からも下がっていて、
数はかぞえませんでしたが実に凄惨な光景でした。
2人で賽銭を入れ、それだけじゃなく苦労して背負ってきた4合瓶2本の酒を供えて、
入念にお祈りしたんですよ。そうするうちに日が沈み始め、小雨も降ってきました。
それで私らは帰るのをあきらめ、境内の近くで野宿することにしました。
仕事柄そういうことには慣れてましたしね。
電池式の小さなランタンをつけ、鳥居の外に寝場所を確保しました。

焚火はしませんでした。広い場所がないうえに、万が一を考えたんです。
テントはありませんが簡易寝袋は持参してまして、
寒いというほどのことはありませんでした。
夜に入り、普通は山は暗闇でもさまざまな夜行獣の音がするもんですが、
かすかに木の葉がそよぐのみで、生き物は近くにいないかのようでした。
そういえば、昼間、ブヨやヤブカの類もほとんど見かけませんでした。
・・・固い地面は慣れてるし、幽霊なんて信じてはいませんでしたが、
なかなか寝つけなかったんです。

それは同僚も同じだったようで、ゴロゴロと何度も寝姿勢を変える気配がしていましたが、
とうとう起き出して手探り足探りでどこかへ行きました。
しばらくして戻ってきたとに、私は寝たまま「何だ小便か?」と聞きました。
同僚は物も言わずゴソゴソ寝袋にもぐったようでしたが、プンと酒のにおいがしました。
「あっ、お前お供えの酒飲んできただろ」そう言うと、
「悪い、悪い。どうにも寝つけなくてな」同僚は悪びれる様子もなく言いました。
私は「ちぇっ、まだご神前からお下げしてないものだぞ」そう言って横を向きました。

朝方・・・・です。髪がやってきました。夢ではないと思うのですが、自信はありません。
左右に分かれた長い髪だけが宙を飛んでやってきたんです、それもいくつも。
ランタンの黄色い光の中でそれらは輪を描いて私たちの周りを飛び回っていました。
薄目を開けて見ていたつもりです。
髪は同僚の頭の上2mほどのところに集まって一つになり、
ゆっくりと降りてきたその毛先が、寝袋の同僚の頭のあたりをしきりにこすっているのです。

10分ほどもそうしていたでしょうか。私のほうにも来るかと思ったのですが、
髪はそのまま真っすぐ浮上し、上方の闇に吸い込まれるように消えていきました。
その後、私は2度寝してしまったようで、先に目覚めた同僚に起こされました。
朝方のことを聞いてみましたが、何も見ていないという答えでしたので、
気味悪がらせることもないと思って、詳しい話はやめにしました。
日が十分に昇ってから山を下りました。

それから数日もたたないうちに、同僚の髪が濃くなってきました。
産毛のようであった頭頂部の髪が太くなり、こしが強くなって量も増えてきたんです。
それに対して、私のほうは抜け方がいっそうヒドくなったような気がしました。
ブラシをかけるとごぞっと抜け、ついには額が武士のさかやきのようになってしまいました。
もうこれはダメだと思って、残った部分を五厘刈りにしたんです。
それにしても同僚のほうだけにご利益があるなんて不公平だと思いました。

2ヶ月たつと同僚の髪はフサフサといえる状態になり、私のほうはミジメなものでした。
そして突然、同僚が失踪してしまいました。どうやら使い込みを指摘されたようです。
ですが、同僚は経理畑でもなく額はわずかなものでした。
けっこうナアナアのきく職場でしたので、弁済すれば大事にはならなかったはずなのに・・・
私のほうはと言えば・・・結婚することになりました。
親戚が持ってきた見合い話ではありましたが、とんとん拍子に決まったのです。

結婚式前に、いちおう髪神社に報告をしようと一人で山を登りました。
慣れていたせいか1回目よりは時間はかかららず、鳥居の前まできました。
・・・あの吊り下がっていた髪は一つもなくなっていて、不気味な気配は消え、
ただの山中の朽ちかけたお社という印象に変わっていたんです。
だれかが片づけたのだろうか・・・いぶかしがりながら鳥居をくぐって、
ふと横の木立を見ると、同僚がぶら下がっていました。
かなり高い枝に首を吊った下には、髪の毛が山となって積まれていました。



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