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ケンちゃん2

2014.05.23 (Fri)
もう10年以上前、小学校のときの話だから、記憶違いがあるかもしれない。
細かいところは想像でおぎなってるから、実際とは違ってる部分もあると思う。
5年生の夏休み前だったけど、
担任の先生がPTAのバレーに参加してアキレス腱を切り入院して手術したんだ。
当時は女の先生の齢なんてよくわかんなかったけど、
卒業アルバムなんかの写真を見ると40歳前くらいだったと思う。
その先生は3ヶ月くらい休んで復帰してきたけど、
いつもトレパンでけっこう怒る先生だったような記憶がある。

で、担任が休んでいる間だけってことで、かわりの先生が来たんだ。
臨時講師ってことだな。名前は湊先生。
新しい先生も女の人で、すごく色が白かった。元の担任よりずっと若かったと思う。
そばに寄るとプーンといい匂いがして、話す調子もやわらかかった。
・・・そういう先生だと、生徒がいうことをきかないと思うだろうけど、
そうでもなかったんだな。
口調は優しいんだけど、その中にどうしても逆らえない、
有無を言わせないものがあった気がする。

授業のしかたのよしあしとか、その当時はもちろんだし今もよくはわかんないけど、
特に変わったことはしなかったと思う。
宿題をほとんど出さないんでクラスの子はよろこんでた。
ただ・・・学級活動の時間だけは少し変だった。
時間が始まると最初にみんなを立たせて、まず湊先生が
「この世界からイジメや差別をなくしましょう」と大声で言うんだ。
そして生徒がそれを復唱させられる。
このとき声が小さかったり、そろってなかったりするとやり直しになる。

でも、ほとんどの生徒は湊先生が気に入ってたから、みんな大きい声でやってたよ。
それが終わると「ケンちゃんにもお願いしましょう」って言う。
この、ケンちゃんというのは先生が持ってきたかなり大きいヌイグルミのことだ。
座った形の牛なんだけど1mくらいあった。
顔は・・・すごくリアルというわけでもないけど、可愛らしさはまったくなかった。
それが教室の後ろの生徒用ロッカーの上に置かれてるんだ。
先生はそのそばに寄っていって、生徒はみんな後ろを向く。
そしてこれも、声をそろえて「ケンちゃん、よろしくお願いします」って言うんだ。

すると先生が、ケンちゃんの頭の後ろを平手で支えて、
うんうんうなずくように頭を下げさせるんだ。
やっぱり異様だよな・・・何かの宗教だったのかもしれないって、今はそんな風にも思ってる。
先生が大事にしてるものだからって、ケンちゃんにイタズラする生徒はいなかったな。
で、夏休みも近くなったある日のこと。
6時間目が終わって家に帰る途中で、教室に調理実習の用具を忘れたことに気がついた。
・・・ふだんならそんなことは気にしないんだけど、
その前の晩に「お前は持ってったものは何でも学校に置いてくる」って母親に説教されてたんだ。
それで、まだ学校からそんなに離れてないから取りに戻ろうと思った。

5年生の教室は3階だったから、階段を上って教室のほうへ行くと、
前後の戸が閉まってって、声が聞こえてきた。湊先生だと思った。
「頭の中に見えるものを言いなさい、
よく頭の中を探して、引っかかっているものを出しなさい」
正確じゃないけど、こんな内容だったと思う。
冷たい金属みたいな声・・・そんな感じを今でも思い出せるよ。
後ろの戸の前まできて、いちおうノックしようとしたとき、今度は別の女の子の声がした。
「・・・燃えてます、熱くて苦しんでいる人が何人もいます」
苦しみながらしゃべってるように聞こえたんだ。

怒られてる子がいるんだろうかと思いながらノックすると、声はぴたりとやみ、
ややあって「どなたですか?」と湊先生の声がした。
「〇〇です。調理の道具を忘れたんで取りにきました」こう言うと、
「ああ、ちょっと待ってね。今、開けにいくから」
1分もたたずに湊先生が戸を開けてくれ、中に入ると、
教室の前のほうの机が寄せられていて、
三島というクラスの女子とケンちゃんが並ぶようにして床に座っていた。
ケンちゃんはいつも見るよりくたっとしてて、
近くに黄色いウレタンがいくつも積み上げられていた。

・・・その三島という女の子はアトピーがひどく、顔や手が赤く腫れてて、
あからさまにイジメられてたってわけじゃないけど、
なんとなく避けられがちで、友達のいない子だったんだ。家も貧しい地区にあったし。
赤い顔をさらに赤くしてぼうっとした感じでへたりこんでいた。
湊先生はロッカーから自分の調理用具の入ったコンビニ袋を出してくれ、
「これないと、お母さんに怒られるでしょうね」と言いながら手渡してくれた。
それから教室の外まで送ってくれたんだけど、別れ際に、
「ケンちゃんがさびしがっていたから、三島さんにお話ししてもらってたの。
 ケンちゃんは背中のチャックから中に入ることができるのよ」こう言ったんだ。
・・・このときは何のことかぜんぜんわからなかった。

夏休み前日、湊先生がこれで最後という学活の時間。
通知表を渡されてから、先生がお別れのお話をした。
「短い期間だけどみんなと一緒に過ごせてよかった」みたいなありきたりのものだったと思う。
その後、クラスのPTAで用意してくれた花束をクラス代表から受け取って、
湊先生は感激した様子だった。
「最後に、みんなでお願いをしましょう」先生はそう言って、
「この世界からイジメや差別がなくなりますように」大きな声を出した。
もう慣れているクラスの生徒たちが唱したとき、それに混じって、
「熱いいぃぃぃ」という悲鳴が聞こえた気がしてハッと思った。

ケンちゃんのほうからしたような気がしたんだ。
なんとなく気になって三島のほうを見ると、下を向き手で顔を覆っていた。
・・・これで話はだいたい終わり。
あとは知ってる人も多いと思うけど、
夏休み中に市で大火があって、ある集落の家が数十件焼けた。
三島の家もその中に入っていた。
親しいわけじゃないし、休み中ということもあって葬式には行っていない。
湊先生とはその後は会っていない。誰も連絡がつかないみたいだ。
・・・いまだにケンちゃんを連れてどこかの学校にいるんだろうか・・・

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コメント
いいですねケンちゃん
ケンちゃん1の方も読ませてもらいましたが、アイデアのひねり方がとても面白いです
短いお話ですが湊先生の存在感もしっかりありますね!
あ | 2014.05.23 17:16 | 編集
コメントありがとうございます
この話は、湊先生という人が件(くだん)の着グルミを持って
小学校を転々と渡り歩き
「差別やイジメをなくそう」という洗脳をして回ってるんですね
で、なぜかその地域では先生の転任後に大きな火災が起きるという・・・
bigbossman | 2014.05.23 23:01 | 編集
 前回とあわせて読むと、湊先生の行動原理はかなり歪んでいる気がします。「差別やいじめがなくなりますように(物理的に)」とか…。これが漫画なら「眼のハイライトがない美人」に描かれそうな、そんな印象です。

>齢をくう
 奪われた20年が3人分で60年。80代の老婆と、若い娘さん。つまりはそういうことなんですかね。ビジンサマの無機質なビジュアルは、日本の神話伝承においては少し珍しいかな? このまま『ジョジョ』のスタンドとして出てきそうw

>怖い話のアイテム
 個人的に好きな小道具は「髪の毛や爪などの身体の一部」ですね。生理的・心理的・呪術的な怖さ、なんでもござれです。骨や死体も悪くないんですが、「死」に直結しているのでニュアンスが異なる気がします。

>音楽と絵
 絵や音楽の嗜好(あと豊富な人生経験)からすると、作者さんはそれなりに落ち着いた年齢の方なのでしょうか。私自身もネットの住人としては古い方で、この世界にいるとどうも気だけは若いままになっていけませんw
| 2014.05.24 01:28 | 編集
コメントありがとうございます
「ケンちゃん」の話のキャラもなんか怖い人みたいですね
自分の話に共通する世界観として
この世には何らかの不可思議な能力を持った人々がいて
それを善用したり、悪用したりして暮らしているんじゃないか
ということがあります
話が増えるにしたがって、そういうキャラが増えてきて
今後どうしようかちょっと悩んでいます
bigbossman | 2014.05.24 23:44 | 編集
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