こをとろ2

2014.06.14 (Sat)
小学校4年生のときの話です。
その年の初めにクラス替えがあって、はじめは出席番号順に並んでいたんです。
私の姓は山本ですので女子の後ろから2番目で、女子の人数のほうが多かったので、
番号が最後の人と机を並べることになりました。
その子は「律」というこれまで一度も見たことのない名字で、
前年に合併になった山のほうの小規模校から来たんです。

だからクラスにあまり友達がいないみたいで、すぐに仲よくなれたんです。
その子は話す話題も普通でしたし、特別変わったところもなかったんですが、
いつも首からひもで、お守り袋のようなものを下げていました。
じゃまになるので普段は服の中に入れていましたが、
体育で着替えるときなどに目立つので、「それなに」と聞いてみました。

べつだん隠すようなものではなかったようで、
「集落に伝わってるお守り」と答えてくれました。
それ以上の詳しいことは彼女も知らないようでした。
さわらせてもらったら、細い木の枝が何本か入っているような感触でした。
・・・私たちの学校は町の中心部にあり、校庭はせまいのですが、
グランドのわきに中規模の児童公園があって彼女は放課後、よくそこで遊んでいました。

これは道草をくっているのではなく、彼女たちの集落の子は遠いので、
町のバスで送り迎えをされていたんです。
例えば4年生が5時間で、6年生が6時間というときなど、
その児童公園の遊具で年下の子らと時間をつぶして、バスがくるのを待っているのです。
雨の日などは、学校の図書室で時間を過ごしていたようです。

6月の風の強い日のことでした。その年から始まった児童会で私は飼育委員会に入り、
金魚の水替え当番で少し遅くなってしまいました。
帰り際にその公園の横を通ると、律さんやそれより下の子たちが遊んでいるのが見えました。
そういうことはこれまでにもあり、そのときは手を振って通り過ぎただけでしたが、
その日は見たことのない遊びをしていたので興味をひかれました。
手つなぎ鬼のような感じですが少し違っていました。

一人の子が両手を広げ、
その後ろに他の子たちが一列になり前の子の服をつかんで並んでいました。
その先頭の子の前に一人だけ子どもがいて、これがどうやら鬼のようでした。
鬼の子が大声で「子をとろ、子をとろ」と叫び、
手を広げた列の先頭の子が律さんで、「子どもは渡さん」と
やはり大声で叫んでいました。これまで一度も見たことがない遊びでした。

本当はいけないのですが、とても面白そうに見えたのでそっちに駆けていきました。
律さんと数人の4年生が一番学年が上のようだったので、混ぜてもらえると思ったんです。
私が走ってくるのを見て、律さんは「ちょっとタイム」と言って遊びをやめました。
「この遊びなに」と聞くと、「子とろ鬼っていうんだって」と律さん。
「前から知ってたの?」

「ううん、この間そこのベンチにいた知らないおばさんに教えてもらった。
 一人が鬼になって、列の最後の子どもにタッチしてとろうとするのを、
 先頭の親が手を広げて守るの。
 あと手を離して列から外れてしまった子も鬼はタッチしてもいい」
こう説明を聞いていたとき「バザッ」という大きな音が聞こえました。
音のしたほうを見ると、繁みの前にあるゴミ箱の袋・・・当時はまだ黒いゴミ袋でしたが、
それが外れかけていて、風に叩かれて鳴った音でした。

少しだけ遊んでいこうと思い、仲間に入れてくれるよう頼みました。
そして私が鬼になったんです。
少し恥ずかしかったけれど、大きな声で「子をとろ」と叫びながら
列の横に回りこもうとしましたが、これがなかなか難しかったんです。
親がジャマするのはいいとしても、
後ろの子どもたちが慣れていてうまく向きを変えるんです。
思わず夢中になってしまいました。

・・・大粒の雨が顔にあたりました。
まわりが急に暗くなり、砂ぼこりが舞い上がってきました。
どっと一気に雨が落ちてきて土砂降りになりました。
遠くのほうの空が不気味な褐色になり、
長い柱のようなものが、低い空にたれ込めた雲にまでのびていました。
「学校に入ろう!」だれかがそう叫び、
子どもたちの列はばらけ、みなちりじりになって走り出しました。

私も10秒ほどでずぶ濡れになり、校門めざして駆けだしましたが、
後ろでひときわ大きく「ザババッ」という音が聞こえ、思わず振り返りました。
ゴミ箱の後ろの繁みから、大きなものが飛び立ったように見えました。
「えっ」と思う間もなく。「バサッ、バサッ」という羽搏きが聞こえてきたんです。
それは私を追い越し、数m前を走っていた律さんの背中に飛び乗って押し倒しました。

大きな、6年生の身長よりも大きく見えるこげ茶色の鳥でした。
鳥は律さんに覆いかぶさりながら羽搏き、
足を止めた私にまで水しぶきがかかってきました。
うつ伏せに倒れていた律さんは激しくもがき、仰向けになりました。
そのとき鳥が頭を横にねじりました。
・・・人間の横顔だと思いました。ぼさぼさの髪の青ざめた大人の女の顔。

その鳥・・・女は律さんの胸に顔に口先をうずめましたが、
「グエエッ」と大きな声を上げ、律さんの体を離すと前方高くに飛び上がりました。
私は勇気を出して走り、律さんの腕を抱えて引き起こしました。
そのまま背中に手を回して学校まで駆けに駆けたんです。後ろは振り返りませんでした。
他の子らと、ずぶ濡れになって昇降口に立っていると、
職員室から先生方が出てきて、
「竜巻が近づいていると地域の方から連絡があった」と言いました。

私たちはタオルをもらい、外に面した窓のない廊下に誘導されました。
律さんの頬にはいく筋も傷があり、雨水と混じった血が流れていました。
「・・・さっきの鳥」律さんがぽつりと言いました。「子とろ鬼を教えてくれた人と同じ顔だった」
律さんは胸の前でお守りを握りしめていましたが、私が「行こう」と腕をとったとき、
片手が離れて、お守りから固いものがパラパラと床にこぼれ落ちました。
それは鉤爪のある、何本もの鳥の足でした・・・

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