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2014.06.30 (Mon)
あれは・・・小学校6年の夏休み前。今年みたいにかなり暑い夏だったな。
日曜の放課後、悪ガキ4人でバケツと手網を持って用水路で生き物をとってたんだ。
小鮒とか、ミズカマキリ、タガメ、ガムシなんかの水生昆虫。
とったのは家に持って帰って飼うんだけど、小さいプラケースで濾過装置もなかったし、
何より夏場は水温が高くなってしまってあんまり長生きしなかったな。
浅い用水路の水にズックのまま入って、水草の下から網ですくい上げたり、
泥ごと底をさらったりすれば、ドジョウとか必ずなんかの生き物が入ってたな。

アスファルトの農道に上がってた石田ってやつ・・・これがリーダー格だったんだけど、
何か踊るような奇妙な格好をして飛び跳ねた。
「何やってるんだよ」と俺が見にいったら、
道路に10cm以上ある大きなカエルがつぶれてた。
今、石田が踏んだんだと思った。カエルはまだ生きてたが、腹が割れて少し汁が出てたな。
「おーでけえ」と俺が言うと、林も寄ってきて、
「これ、植村にそっくりじゃないか」と言った。
植村というのはクラスで少しイジメられてる太ったやつで、そのイジメの主犯格は石田だった。

「おーほんと、よく似てる」石田が笑いながら言い、
「このカエル、植村って名前つけてやろ」と続けた。
「・・・でもよ」最後にやってきた橋見が、
「うちのばあちゃんに聞いたけど、死んだ物に戒名以外の名前をつけるとよくないんだって。
 生きても死んでもいない変なのが生まれてくることがあるって」やや遠慮がちにこう言った。
「まだ死んでないだろ」と石田。たしかにまだカエルは弱弱しく片方の手足を動かしてた。
「そんなの迷信だろ。年寄の言うこときくのか」林がかさにかかったように言ったんで、
橋見は黙った。

それから10分くらいで帰ることになったが、さっきのカエルを見ると、
日に照らされて表面が乾いてた。ピクリとも動かなかったんで死んでると思ったが、
石田が木の枝の先で尻を突き刺すと、弱弱しく手を動かした。
「まだ生きてるんか」「すげえ生命力だな」
石田は「どうだ植村、苦しいか?」そう言いながら枝ごとカエルを持ち上げ、
「これ持ってって、植村んちに投げ込んでやろうぜ」と言った。
帰り道で、住宅地に入る最初の家が植村のところだったんだ。

俺らは網とバケツを持ち、
石田はカエルが刺さった木の枝を捧げるようにして歩いていったが、
道々カエルに「植村苦しいか、?もう死んだか?」と話しかけてたな。
やがて植村の家の塀が見えてきたが、これが50mも続くほど長い。
今考えれば、金属加工の工場が併設されてたんだと思う。
その中ほどくらいまできたとき、「んじゃあな。植村くんお家に帰りなさい」そう言って、
石田が塀の中に枝ごとカエルを放り込んだ。
・・・もうこのときは動いてなかったし、確実に死んでたと思う。

翌日学校に行ったら、植村も普通に来てたし、カエルのことも何も言わなかった。
まあ敷地の中の草むらに落ちてだれも気づかなかったんだろう、くらいにしか思わなかった。
その日は朝から図工とか面白い授業があって、植村をあんまりかまわなかったが、
同じ班だった橋見が何か話をしてたようだった。
で、給食中、植村が太った体を奇妙に動かしながら先生のところに行った。
先生は植村の手や、シャツをまくりあげて背中とかを見ていたが、
そのまま植村をどっかに連れていった。
植村の班の女子に聞いたら「手に大きいぶつぶつがいっぱい出てた」と言ってた。

先生が戻ってきて「植村はジンマシンが出たので早退することになった」と告げて、
ランドセルに机の中のものを入れて持っていった。
いつもの仲間で昼休みに連れ立ってトイレに行ったとき、橋見が、
「さっき植村のやつから聞いたんだけど、部屋に新しく90cm水槽セットしたって」と言い、
「すげえ、あいつんち金持ちだからな、アロワナでも飼うんかな」
「それだと90cmでも小さいだろ」「見にいってみないか」
「でも、今日はジンマシンで帰ったんだから無理だろ」
「ジンマシンなんて俺もなったけど、注射一本で治るよ。
 やつもさっき帰ったんだから5・6時間目の間に医者にいってるだろ」
こんな会話になり、寄ってみることにした。

植村の家は市街地にある学校から一番近くて10分もかからずに着いた。
でかい門の前で、呼び鈴を押すと使用人らしい人が出た。
遊びに来たことを告げると、ややあって玄関から植村が出てきたのが見えた。
門を開けたので「もう治ったのか」と石田が聞いたら、うなずいた。
「水槽見せてくれよ」と言うと、これもうなずいただけで先に立って玄関を入っていった。
俺らは「おじゃましまーす」と言って植村の後について階段を上り、
前に何回か来たことのある植村の部屋に入った。
部屋には真新しい縁なしの水槽がセットされていて、もう水が張ってあり照明でギラギラ光ってた。
「これ2階だろ。どうやって水換えするん?」
「・・・2階にもトイレがあるんだ」植村は苦しそうな感じでそう言った。

「何を飼うつもりだ」と石田が聞くと、植村は黙って水槽の下のほうを指さした。
もう底に青黒い砂利が敷かれてあったが、植村の指の動きにつられるようにして上がってきた。
「!」と俺らは息をのんだ。
大きなカエルだった。両目は白く濁り、体は半透明な粘膜のようなのに包まれてて、
しかも内臓がはみ出して体の後ろになびいていた。自分で泳いでるようには見えなかった。
昨日石田が塀の中に放り込んだやつだ、と思った。
呆然と見ていると、水面近くまできたそれを植村が無造作に手でつかみ上げ、
そのまま大きく口を開けて頭からくわえ込んだ。強い腐臭がした。
「あ、あ、あ」と言いながら石田がドアのほうにいきかけた。
植村はくちゃくちゃと口を動かしながら、石田のほうを向いて手を上げた。

その両腕一面にぶわっとそら豆大のジンマシンが浮き出いた。
「うわわ」と言って、俺ら3人も石田のほうにいき、石田がドアを開けた。
そっから4人でもつれるようにして広い階段を駆け下り、
「おじやましましたー」と叫んで、ズックをはくのももどかしく玄関を転がり出た。
最後に見た、部屋のドアのところに立った植村の顔・・・
口からはカエルの白くなった足がのぞいていたよ。



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