お冷

2014.07.07 (Mon)
去年の夏のことです。もう少しで1年になりますね。
あんまり有名じゃないけど、
地元ではそこそこ怖いと言われている心霊スポットに行ったんです。
場所は言えませんが、トンネルです。
もう使われてなくて、車止めが設置されてるんですが、徒歩でなら入れるんです。
行ったのは自分も入れて男女4人。みんな同じ大学の同じ学部で、カップルが2組です。
夜の9時過ぎに出発して、着いたのは10時過ぎだったと思います。
自分らの他に停まってる車はないし、来てるやつもいなかったです。

一人ずつ懐中電灯を持ってトンネルの中を向こうまで行って戻ってくる、
というのをやる予定でした。
トンネルの長さは100mもないでしょう、向こう側の街灯の明かりが見えるくらいでしたから。
ただ、やはりというか現場に行ってみたら女組が怖がってしまって、
結局、カップルで行って戻ってくるということになりました。
で、結論から言うと、不可思議なことは何もなかったんです。
そりゃ、トンネル内はあちこち壁に水が垂れてて、落書きもあったし、
懐中電灯の光でそういうのが不気味なシルエットになって浮かんで、怖かったですよ。

ビデオカメラは持って行きませんでしたが、写真もかなり撮ったんです。
それをアパートに帰ってからPCに移して、じっくり見てみる予定だったんです。
11時過ぎて、帰ろうとして俺のキューブに乗り込んだんですが、
なんとなくみんな腹が空いてて、コンビニに寄って食い物を買って帰ろう、
ということになったんです。
県道を流してると、右脇のほうにドライブインとレストランの中間くらいの
コジャレた店が見えてきて、まだ明かりがついてたんです。
たぶん来たときは見過ごしていたんだと思います。

俺はバイトの給料日からすぐだったんで、けっこう金持ってたんです。
「入ってみようぜ、金ないならおごってもいい」と言って、中に車を入れました。
せまい駐車場があって看板が出ていましたが、俺らの他には車はなかったです。
・・・ほんといい感じだったんですよ、店の具合が。
高級そうなレストランなら服装もあれだから敬遠するし、
寂れたドライブインなら最初から目にもとめない。
ところがなんて言ったらいいか・・・東京にチェーンの喫茶店があるじゃないですか、
あれくらいの入りやすさ。トンネルを過ぎていったとこにちょっとした観光地があって、
そこへの行き来の客を相手にしてるんだと思いました。

で、店の戸を押して入っていくと、すぐに「いらっしゃい」って言葉がかかりました。
若いマスターが出てきて人数を聞き、4人がけのテーブルに案内されました。
マスターは背が高く、バスケかバレー選手みたいな体格でした。
メニューを見てる間にお冷が出てきたんですが、
これがスゴかったんです。何が・・・というと、まずグラスが凍ってて、
冷凍庫から出したばっかりみたいだったし、氷はクラッシュアイスなんですね。
そしてライムが一片入ってました。
暑かったし喉が乾いてたんで、一気に飲みほしましたよ。
たぶんミネラルウオーターで、砂糖を入れれば金がとれるんじゃないかと思いました。

ところが仲間内の一人、俺以外の男のやつなんですが「うわ、なにこれ!」と言って、
テーブルの下のコンクリの床に水をブーッと吐き出したんです。
・・・さすがにね、失礼なやつだと思いましたよ。
マスターがすぐに飛んできて「お客さん、大丈夫ですか?」と聞きました。
ダチは「何この水、酸っぱいじゃね。飲めないくらい」
紙ナプキンで膝のあたりを拭きながらマスターにそう言い、マスターは、
「ああ、すみません。もしかしたらライムの絞り汁が多すぎたかも・・今、取っ替えますから」
グラスを持ってカウンターの奥に引っ込んでいきました。
で、新しいグラスがすぐに来たんですが、ダチは今度は普通に飲んでました。

「いくらなんでも、吐き出すことはねえだろ」と俺が言うと、
ダチは「でもよ、信じられないくらい酸っぱかったんだぜ。ライムそのままかじるよりずっと」
かなり不機嫌になってましたね。
それから料理を注文したんですが、みなパスタ系でした、安かったですし。
味はまあまあでしたね。マズイってことはなかったですが、
お冷ほどのインパクトはありませんでした。
で、みなが食べ終わった頃にマスターがやってきて、ダチに、
「さきほどはすみませんでした。つまらないもんですが、これお詫びのしるしに」と言って、
小さな箱に入ったものをくれたんです。

「これは開店のときに配った記念品なんですが、まだあまってたんで、どうぞ」
それから「みなさん、もしかしてあのトンネルに行ってきたんじゃないですか?」
そう聞いてきたんで「そうです」と答えると、
「よくトンネル帰りのお客さんも来るんですよ。
 ・・・あそこね、子どもだましと言う人もいるけど、
 けっこうガチなところもあるんです。帰り道はどうかお気をつけて」
店を出て車に乗り込み出発すると、後部座席でダチがさっきもらった箱を開けたようでした。
「何だこれ、バカにしてる」「えーかわいいじゃない」こんなやりとりがあって、
「何入ってたんだよ」と俺が言ったら、助手席の彼女に手渡してよこしました。
見ると、蛍光イエローの10cmくらいの招き猫で、腹に黒字で「厄除」と書かれてたんです。

「おー、いいものもらったじゃね」と俺が言うと、
「こんなのくだらね」こう言って、
彼女から受け取ると車の後ろの窓をあけて放り捨てちゃったようでした。
「あー捨てたのかよ。もったいねえ」「いらねえよ、こんな子どもだまし」
「いらんなら、俺がもらって車につけてたのに」
でまあ、俺のアパートに着いて、カップルごとに別れました。
ダチはバイクで来てたんで、後ろにダチの彼女を乗せて帰っていったんです。
で、翌日です。ダチの彼女から連絡がきて、ダチがバイクで事故って大怪我したってことでした。
急いで病院に行くと、集中治療室に入っていて面会できなかったんです。
どうやら彼女を自宅に送ってから自分のアパートに戻る途中、
なんでもない道で一人でコケたようなんです。

その後ダチは手術をくり返して、退院まで8ヶ月かかりました。
まだ右足を少し引きずってます。顔とかは何でもなかったのが不幸中の幸いと言えばいいか・・・
あと、この騒動でほったらかしになってたトンネルの写真なんですが、
一段落ついてから彼女と見てみると、一枚だけ、
ダチが彼女とトンネルから出てくるところのでしたが、
その右足にの下に黒いものがうずくまってるように見えるのがあったんです。
それだけじゃなく、その黒いものから、やはり黒いつるのようなのが出てて、
ダチの右足に巻きついてたんです。・・・もちろんダチらには見せないで消去しました。
え?その喫茶店ですか。いや、あれから行ってないです。
うーんこの一連のことって、何か関係があるんですかねえ・・・



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