逆さ

2014.07.09 (Wed)
えー2か月前のことです。うちの会社で幽霊騒ぎがありまして・・・
いや、お恥ずかしい。
出たのはうちの会社の中ってわけじゃないんですけどね。
ああ、意味が解らないでしょう、説明します。
うちは雑居ビルの5階に入ってる南米からの輸入雑貨の会社なんです。
で、地下に倉庫というか物置がありまして、
そこはそのビルの入居者が共同で使ってるんです。
地下の半分が駐車場になってて、残りのスペースが倉庫なんですね。
だから広いし、天井も高いんです。

よそ様と共同使用だから、
なくなってもかまわないような物しか置いてないですね。
廃ロッカーとか壊れたイスとか、不要になった事務機が多いです。
うちの場合は、輸入品を扱ってるんで箱類ですね。
外国製の段ボールですが、ガサばるんで、
畳んでひもで縛ったのをかなり入れてます。
・・・その倉庫に、夜の8時くらいに入ったんです、私が。
残業中でして、その日届いた荷を整理してました。
で、空段ボールをまとめてエレベーターで持ってったんですよ。

倉庫には電気はついてないんですが、夜でも薄明るいんです。
駐車場のほうに常に照明があって、その明かりが窓から入ってくる。
鍵はビルに入ってる会社ごとに持ってたんで、それでドアを開けて、
すぐにある電気のスイッチを押した。
ところがつかなかったんです。「あれ」と思いましたが、
見えるからまあいいと、段ボールを抱えて入ってたんですよ。
スチールの棚がいくつも並んでて、会社ごとに使える場所が決まってます。

私らのスペースに行って空いてる場所に段ボールを重ねて、やれやれと思ったとたん、
目の前にね、ドーンと女の顔が落ちてきたんです。
いや、驚いたなんてもんじゃないですよ。
しばし固まったのちに絶叫。そのまま走って・・・
なぜかエレベーターを使わなかったんです。
コンクリの非常階段を5階まで走りのぼって、会社の中に駆け込んだんですよ。
息は切れるし、足はガクガクするし、言葉はもつれるしで、
会社にはそのとき男の社員が2人残ってたんですが、
大声で見たもののことをがなり立てました。

いや・・・信用してはくれませんでしたよ。まあ、今考えれば当然ですね。
私だって彼らの立場だったらそうでしょう。いきなり幽霊なんてねえ。
それで、3人で見に行ったんです、懐中電灯を持って。
でね、映画なんかだとこういう場合、大勢で見にいくと出なかったりするでしょ。
それで私の正気が疑われて職場内で孤立していくなんてのが、
ありがちな筋書きじゃないですか。
ところがね、このときは出たんですよ、3人の目の前で。
倉庫の鍵を開けて、一番若いやつが先頭で入っていきました。
スイッチを押すと、さっきつかなかった電気がつきまして。

会社用の棚の前までいきました。それで、この上から女の顔が落ちてきた・・・
って説明したんです。
2人はしげしげと上を見てましたが、3mくらいもあるんでしょうか。
天井は駐車場から続く鉄骨がむき出しになってまして、特に変わった様子もない。
「これ、普通ですよ」「○○さん(私)の勘違いとしか思えませんがねえ」
小バカにしたような目で2人が私を見た、そのときです。
「ギガーン」というかなり大きな金属音が聞こえたと思いました。
で、3人が立ってる真ん中に上から女の頭が・・・・

「はぶじゃじゃっ!」人は驚いたときにはこんな声を出すんですね。
3人とも意味不明のことを叫びながら逃げました。
もうね、こんいうときって人のことかまってられないていうか、
むしろ押しのけたり引っぱったりして逃げるんですね。
私は・・・2回目なんで少し余裕があったというか、余裕というのも変なんですが、
ドアを出るときに後ろを振り返ってみました。
するとまだいたんですよ、女が。頭を下にして、足が上。
極彩色のTシャツに短いスカート、浅黒い肌、長く縮れた黒髪。
間違いなく日本人じゃなかったです。

すぐに社長に連絡しました。こういう点は小さい会社だから機動力があるんです。
社長は酒飲んでるからってタクシーで来まして、3人で事情を話したんです。
それは・・・妙な顔をしてましたよ。内容が内容ですから。
でも、頭ごなしに否定することもなかったんです。
私らの会社で扱ってるのは主にメキシコの民芸品で、
中には宗教関係のものもあったし、そういう面で心あたりがあったのかもしれません。
私が見た女は南米系だと思ったし、会社の輸入品に関係があっても不思議ないかも・・・
さすがに倉庫に確かめにいくことはしませんでした。
「明日、知り合いの霊能者を呼ぶよ」社長は言い、その日は解散になったんです。

翌日の昼前に来たのが、霊能者・・・というか小さいジイサンでした。
服装も普通で、和服着たり神主の格好とかそんなことはなかったです。
Yシャツに紺のカーディガン、スラックス姿で、
ホント、定年退職したそこらで庭いじりしてるようなジイサンとしか・・・
3人が呼ばれて話を聞かれましたが、霊の全身像を見たのは私だけだったので、
特にしつこく確認されました。
「幽霊のスカートはめくれてなかったかね」って。
この人何言ってるんだ、と思いました。
まさかそんなことが重要とは考えないですよね。

「記憶にないです」って言ったら、
「じゃあ髪の毛はどうだった?下に垂れ下がってたか、そうでなかったか?」
これは・・・考えてみたんですが、かなり長い髪が背中でまとまって、
下に垂れてはいなかったと思いました。そう答えると、ジイサンは嫌な顔をして、
「厄介だね」と溜息をつきました。それからこんな説明をしたんです。
「逆さ幽霊が出てるんだろうね。だが、これには2種類あるんだ。
 まあ、それを払うのが商売だからいいが、髪の毛やスカートが垂れ下がってるかどうかは
 大切なことなんだよ。垂れ下がってるなら、その霊はわれわれと同じ空間にいる。
 同等の重力を受けているってことだから。
 ところがそうでないんなら、こっちからそこへ行ってやらなくちゃならない」

その後、ジイサンの言ったものをいろいろ買ってきて、
社長を含め10人ほどで倉庫へ行きました。
あらかじめその時間は使わないように他の会社には頼んでました。
ジイサンの両足をバスタオルでくるみ、その上からロープで縛りました。
で、若いものみんなでジイサンを倉庫の天井の鉄骨からつり下げたんです。
ジイサンが四合瓶の液体を口に含み、ブッブッとあたりの空間に吹きかけました。
逆さのままクルクル回転しながらです。むろんすべてのことはわれわれで手伝いました。
ジイサンが呪文のようなのを唱えると、昨夜聞いた金属音が響いて、
ドンとジイサンの横に女が出現しました。

まわりの社員はいっせいに跳びのきましたが、
社長が逃げなかったんで離れたところから遠巻きにして見てたんです。
ジイサンは女と逆さに並んだ状態でぼそぼそ何か話してるようでした。
ただ声は聞こえてはきませんでした、口だけが動いてたんです。
小一時間もそうしてたんですが、やがて女の姿がフッと消え、ジイサンがロープを指さして、
降ろしてくれと合図しました。
床に立ったジイサンは、伸びをしたりあちこちの関節をさすったりしてましたが、
「あのね、さっきの女の髪の毛を使った人形が日本に渡ってきてるみたいだ。
 それ最近輸入したもんだろうから、回収して供養すればおさまるだろう」こう言いました。

続けて「あんたらにはどう見えたか知らんが、メキシコなんだろうね。
 外国の貧民街の空きビルみたいなとこに立って話してたんだよ。普通に足を下にして。
 いや言葉はわからないよ。でも通じるんだ。
 なんとか納得してもらったから、供養すれば大丈夫だと思う。
 お祓いの費用は高いよ。
 いくらかは知らんが、メキシコ往復のファーストクラスの航空券以上だな。
 なんせ、向こうまで行ってきたんだから」
ジイサンはこう言うと、からからと高笑いしたんですよ。



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