お多福

2014.07.26 (Sat)
じゃあ、話するが、他の人みたく誰かが死んだとかじゃないんだ。
体を壊しったって人は何人もいるんだけど。
だからきっと物足りないと感じる人がいるかもしれんね。
ここに来て、いろんな話を聞いて、ホント驚いてるとこだよ・・・
えー、1年前かな。会社の近くであった飲みの3次会で、
集合ビルの3階にあるカラオケ・スナックに行った。友人の知ってる店ってこと。
10人以上で飲み始めたのが、そのときは3人に減ってたけどね。
入ったときの印象はあんまり覚えてないんだ。かなり酔ってたから。
ただ、その後も行くようになったから、悪くはなかったんだろうな。
水割りを頼んで、数曲歌って帰ったんだ。

次に行ったのが、その3週間後くらいかな。
たまたま近くで接待があって、かなり気を使う場だったから、
お相手をタクシーにのせたときには心底ほっとしたね。
で、上司と別れてから、
そういえばこの辺りに入ったことのある店があったなと思い出して行ってみたんだ。
ああ、店の名前は「この花」といったな。もうなくなったけど。
ママが40代後半くらいかな。オーナーじゃないよ。
それとバイトの女の子が1人、専門学校生って言ってたが、本当かはわからん。
関心なかったんだよ・・・若いだけで、あんまりキレイな子じゃなかったから。

カウンターがあって、テーブル席が4つかな。客が混んでいるのは見たことない。
せまいんだけどなんか落ち着くんだ。
で、週に1度くらいのペースで通うようになった。
店のレイアウトも、特にテーマみたいなのはなかったな。
ほら、よくあるだろ。古い映画ポスターや南国の土産物みたいなのを飾ってるとこ。
そういうのはなくて店全体が暗い水色のトーンでね。
飾り物といえば、カウンター奥の高いところに、
「お多福」ってのか、「おかめ」って言うのかわからないが、ほっぺだけ赤くて、
全体は古そうなお面がぽつんとあるっきりで、それは少し違和感があった。

いや、一人で行ったときには、あんまりカラオケはやらなかったな。
ママと話してることが多かった。ママは何か色っぽいんだよ。
血色がよくて、肌がみずみずしいんだ。・・・最初のうちは化粧のせいだと思ったけど。
話も面白かった。なんでも実家が拝み屋をやってたってことで、
子供の頃そこで見た客の話をいろいろしてもらった。色と欲、恨みの話なんかをね。
まあ、そうだろうなあと思ったよ。
尋常ならざる手段で目的を達成しようとする輩は、やっぱ普通の人じゃないんだろうって。
あと、飾ってある「お多福」についても聞いた。
その実家で大事に祀っていたもので、元々は「アメノウズメノミコト」って神様らしい。
「多福」というくらいだから、かなりのご利益があるって言ってたな。

若い子のほうは聞いたら、こういうバイトは初めてってことで、
だから受け答えもぎこちないかった。それと、なんか顔色がさえなくて、肌荒れもしてた。
ママとは対称的でね。だから、カウンター奥で酒を作ったり、
テーブル席にものを運んだりってことが多かったな。
で、3回目に行ったとき、その子があまり顔色がよくなかったんで、
病院に行くように勧めた。土気色でただごとじゃないと思ったんだよ。
だけど、女の子は「はあ」と言ったきりで、ぼーっと立ってるだけ。
こりゃダメだなと思ってたら、案の定、次に行ったときにはいなくなってた。
ママの話では、体を壊して学校を休学し実家に帰ったってことだった。

次また新しい人を雇う予定だからって言ってたんで、楽しみにしてたんだよ。
ところがね・・・次行ったときに入ってた子をみて、がっかりもいいとこ。
なんか雰囲気が前の子に似てたんだよ。
いや、顔立ちはそこそこ整ってたし、
前の子よりファッションのセンスもよかったんだけどね。
最初のうちは張り切ってる様子で、やりとりも楽しかったんだけど、
だんだんに目がドローンと濁ってきたんだよ。
あと肌荒れもひどくて、化粧でかくせないくらい。前の子の症状とよく似てたんだ。
で、ほとんどものをしゃべらなくなっちゃうとこも同んなじ。

その子も入って2ヶ月くらいでやめちゃったんだ。
やはり体を壊したっという話だった。
ママは「困ったわね。うちはそんなに忙しくないはずなのに」とこぼしてた。
で、次の子が入ってまた2ヶ月前後で体を壊してやめる・・・
これがさらに2回くり返されてね。
つまり俺が通ってた間に、女の子は5人目になったってことだ。
まあこれが、単に都合でやめたっていうなら、
今の学生さんはそんなものか、で済むところだけど、
4人全員が体を悪くして、しかも皮膚病を患ってって言うんだからね。
やっぱり何かおかしいと思うだろ。

でね、その間、ママはどんどん血色がよくなっていったんだ。
口の横の頬のシワも消えてねえ、30代でも通用するくらいだった。
あと、カウンター奥のお多福面だな。
これは俺の気のせいなのかもしんないけど、
ママと同じように頬の色が赤くなって、前より艶々になった気がしたんだ。
もっともね、お面だから何か塗ったり、薄化粧したりしてるのかもしらんと思った。
その頃から、ママが「この店を買い取って独立したい」という話をし始めた。
前から前向きというか、上昇志向のある人だとは思ってたけど、
ここは安くない土地だし、雇われママの身分でそんなに金があるとは思えなかった。
「そうなってもどうかご贔屓に」とは言われたけど、
そろそろ河岸を変える潮時からって気もしてたんだ。

で、4ヶ月前のこと。その日、急な打ち合わせの後、
ちょっと早めに「この花」に行ったんだ。
いつもは9時スタートなんだけど、8時40分過ぎくらい。
その時間は準備をしててママは店にいるから、
常連だから入れてくれるだろうと思ってた。
ドアには、準備中も営業中の札もどっちも下がってなかった。
押してみるとドアは開く。で、入ってすぐに、中の照明が真っ赤だったんだ。
そんな色の明かりは、それまで一度も見たことがなかった。
「ママいる?」と声をかけたら、カウンターの奥に人がいた。
後ろ向きで、かがんで両手に何かを持っていた。紙か布のようなものだと思った。
1m四方くらいの油紙をくしゃくしゃにして、また開いたようなもの。

色が照明で真っ赤になっていたから、何だかわからなかった。
両肩が動いて、頭も上下してた。その紙の上端がアゴのあたりにきてたんで。
食べているように見えた。クチャクチャという音もしてたと思う。
後頭部の髪型で、ママだとわかった。
「こんな照明つけて何してるん?」とさらに声をかけたら、
ママはゆっくり、ゆっくりこっちを向いて・・・それがあのお多福の面を被ってたんだ。
いや、反射的にお面のある場所を見たら、面はそのままそこに掛ってた。
面が二つあるのか、それとも・・・
ママは、紙のようなものを口から離し、そのときに液体が口からこぼれたが。
血にしか見えなかった。ママは「いらっしゃい」といつもの声で言い、
俺は後も見ずに逃げ出したんだ。
それから一度も行ってない・・・噂では、もうないって話だ。



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