蛟3

2014.07.29 (Tue)
占星術の勉強をしています。星占いとも言いますね。
僕がやっているのは、西洋の伝統的な占星術に、
独自の統計学的な要素を加えたものなんですが、
限界を感じることもありまして、
それで、ちょくちょく中国に旅行することになりました。
東洋の占星術を学んでみたいと考えたからなんです。
最初のうちは、向こうに行ってもまったくつてがなくて、
教えてくれる先生に巡り会うことすらできませんでした。完全な無駄足です。

中国って、わりとコネ社会なんですよ。
人の紹介がないと何も始まらない。ほら、華僑の人なんかもそうでしょう。
そのことに気がついて、まず日本でコネを得ることに専念したんです。
幸い僕が住んでる近くにもチャイナ・タウンがありまして、
そっからはトントン拍子ですよ。中国でも権威のある先生と関係がついて、
年に一度以上は教えていただくことになりました。
1ヶ月は滞在します。滞在費は安いですが、飛行機代がキツイです。

で、向こうではいろいろ不思議な出来事も目にしたんです。
僕がお会いするのは、伝統的な知識・技能を持った人が多かったですからね。
3年前です。先生から、風水師として有名な方を紹介されまして、
ためになるからお話を聞いてこい、と。
その方は、風水師ではあるんですが、むしろ実業家として有名で、
上海を中心に、中国飯店・・・レストランをいくつも経営しているんです。
お住まいはビルの20階で、ワンフロアがすべて住居と事務所でした。
いちおう仮名で、周さんということにしておきます。

その事務所におじゃましましたが、入り口から入って衝立状の曇りガラスがあり、
そこから横にずれたところにさらに内部のドアがあったんです。
この構造は日本でもよく目にしますよね。
外部から来た人が、ワンクッション置かないと中に入れない仕組み。
つまり何か不測の事態があった場合、時間を稼げるんです。
「ああ、やはりそういう人なんだろうな」と思いながら、
案内の女の子にしたがって中に入ると、目の前に巨大な水槽があったんです。

「あ!」と思いました。『葬経』にある「気乗風則散 界水則止」です。
「風は気を散らし、水は気を止める」という意味で、風水の基本の一つですね。
その人にとって金運のある方角に水槽を設置し、赤い魚を入れる。
赤い魚は金魚でもいいんですが、フラワーホーンというおデコの出た改良魚も有名です。
それとほら、ブルース・リーの映画で、悪党の親玉が海水魚のミノカサゴを飼ってましたが、
あれなんかもそうだと思います。
その水槽は2m☓1m☓1mほどで、これだと水量だけで2トンになります。
鉄筋のビルだと問題はないでしょうが、
一般家庭だと床の補強工事を考える必要のある大きさです。

ただ、その水槽は水は澄んでいましたが、ろ過器のようなものは見あたりませんでした。
普通は、お金が回るように、水を動かしておくものなんです。
それと隅々まで見ても魚がいる様子がありません。立ち止まっていると、
「ああ、それ気になるかね」と流暢な日本語で声をかけられました。
幢というのでしょうか、日本でいうなら暖簾のようなのが何枚もかかっていて、
それをくぐって70代と思われる白いあごひげの小柄な老人が出てきました。
周さんです。有名な方なので、写真で何度も拝見していて、
それではスーツ姿が多かったんですが、
このときは中国古来の伝統的な服装をしていました。

テーブルに座り、中国茶と点心をいただきながら小一時間ばかりお話をうかがい、
またいくつか人脈も紹介していただきました。ああ、会話はほとんど日本語です。
周さんは、戦後すぐに10年以上日本におられたということで、
僕のつたない中国語より、はるかに上手でした。
いや、ごきげんを損ねないように必死でしたよ。
・・・中国の方は、拝金主義と言われることもありますが、
ある年齢以上の人は、勉強しようという志のある若者が好きな方が多いんです。
金持ちに限りますが。ああ、すみません、話がそれてばっかりで。

その訪問の最後に、気になっていた水槽について聞いてみたんです。
周さんは「ああ、あれは金運と関係はない。むしろ、この部屋の浄化装置だ」
こう言われました。わけがわからなかったので、
「どういうことですか」と重ねて問うと、
「君には見えないかもしれないが、魚はいるんだよ。
 すべてを喰ってしまうオソロシイのが」こう言って子供のような表情で笑ったんです。
「見せてあげられるけど、今すぐは無理だな」
呼び鈴で秘書らしい女の子を呼んで、スケジュールを聞いていましたが、
「来月の10日の2時に、もう一度ここに来てごらん、時間ピッタリに」

まだ滞在予定期間内でしたし、
再訪するのはこちらもありがたかったので、即座に承知しました。
で、その当日、1時半過ぎに駐車場に入り、ビルの前に行って待っていました。
2時少し前に見送られて出てきたのはスーツ姿の男2人で、
一目で黒社会とわかりました。
えー、黒社会は日本でいう暴力団のようなもので、黒幇とも言います。
すぐに路上駐車していたベンツが寄ってきて、男らを乗せていきました。
僕がビルの受付に行くと、前に見た女の子が20階の部屋に案内してくれました。
入って水槽の前に出ましたが、前と変わっているとは見えませんでした。
「おっ、来たね」周さんの声がしました。

「ここ出てった人見た?」 「はい」
「どう見えた?」 「幇の人だと思いましたが・・・」
「そう、コワイコワイ、悪い人たち。仕事で会うけど、部屋に悪い気が溜まるよ。
 でもね、あの人たちのとこへは行きたくないしね」周さんはそう言って、
手に持った金属の棒で、水槽をコンと軽く叩いたんです。
すると、一瞬で水槽の中が赤とピンクに濁りました。
動いていなかった水が赤茶色に染まって強い勢いで回っていました。内蔵に見えました。
腸やその他の臓器がいくつもからみあって、うねうね、ぐるぐると・・・
その臓器の中に顔がありました。一つ二つ・・・たくさん。

顔だけです。腸の間に見え隠れしながら、泣いたり叫んだり、悲痛な表情の。
男も女も、子供も年寄りもありました。
「・・・これは、何ですか?」僕がやっと声を絞り出すと、
「罪業だよ、さっきの人たちのね」周さんは平然とした声で言って、
また金属棒で水槽の縁を叩きました。・・・白い蛇でした。
長さは1mくらいでしょうか。腸の間から頭を出し、しばらく一緒に回っていましたが、
それからスゴイ勢いでまわりのものを食い始めたんです。
まるで消しゴムで消すように赤い内臓がなくなっていきました。
しかもそれだけ喰っているのに、
直径10cmほどの蛇の腹はふくらんでこなかったんです。

2分もかからず水槽の中のものは消え、前のように澄んだ水が残りました。
蛇は周さんのほうに頭を向け、
まるで一礼するかのように動かして一瞬で消えたんですよ。
「ね、浄化した」周さんが言いました。「今のは・・・」
「𧈢𧏡と言うんだよ」発音が難しくてわかりませんでした。
というか字が想像できなかったんです。それが顔に現れたんでしょう。
周さんは続けて「日本では蛟というみたいだね。ミ・ズ・チ」
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「ああ、まだ勉強が足りない」そう思ったんです、占星術とは関係ないにしても。
こんなことはまだいくつもあります。また来て話をしてもいいですよ。

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