あやめる

2014.08.20 (Wed)
今晩は。子どもの頃からよく金縛りに遭ってたんです。
あ、よくでもないかな。年に3回か4回ですね。
季節の変わり目や大きな出来事があった後などが多かったです。
母の死の後などです。
場所は自分の部屋のベッドで、それ以外の場所でなったことはありません。
だいたいいつも睡りに落ちた直後でした。
金縛りの体験談を聞くと、
怖かったとか、不快だったって言う方が多いんですが、
私の場合はまったくそんなことはありませんでした。

体は動かないし声も出せない・・・なんですが、
気持ちはすごく穏やかなんです。むしろ快い感じでした。
目は開かないけど音は聞こえて、
耳元で「シャリン、シャリン」というような音がするんです。
あの、何という名前かわかりませんが、
ガラス棒をいくつもつるしたのを、かき鳴らすような心地よい音です。
そして枕元に何かがいるのがわかります。
それは右のときも左のときも、頭の後ろで感じるときもありました。

一度などは胸の上にのってきた、と感じたこともあります。
そのときは、妖精のこびとのようなものじゃないかと想像していました。
小さな足の裏の感触を感じたんです。
とても心が温かくなって、今にも賛美歌が聞こえてくるような、
そんなふうな気分でした。
・・・母を亡くしたのは11歳のときで、
その後父とともにキリスト教に入信したので、そう思うのかもしれません。
だから嫌というより、金縛りになるのを心待ちにしてた気持ちもあったんです。

私は人と話すことが苦手で、
ずっと恋人はおろか友だちもなかなかできませんでした。
うまく人間関係がつくれないし、
人と話すのが怖い、と感じるときも多かったんです。
高校から専門学校へ行き、今の会社に就職しました。
事務ということでしたが、しばらくは受付と電話番を兼ねてやっていたんです。
この頃、金縛りはすっかり間遠になっていて、
年に一回あるかないかくらいでした。
そこで、出会いがあったんです。

取引先の方でした。就職して3年目の年度の初めに合同の懇親会があり、
2次会の帰りにお付き合いを申し込まれたんです。
こんな自分ですから、どぎまぎしてろくに返事もできませんでしたが、
考えに考えて後日「はい」と承諾の返事をしました。
そこからはとんとん拍子に2ヶ月ほどで婚約までいったんです。
父も、6歳下の弟も祝福してくれたんですが・・・その結納の晩です。
新居はアパートを借りることになっていましたので、
あと自分の部屋で過ごすのもわずかかと、
感慨深く睡りに入った夜、金縛りになりました。

耳元で鳴るガラスのさざめきのようなかすかな音、小さなものの気配、
ゆったりと海に浮かぶような安心した気持ち・・・
そこまではいつものとおりでしたが、においが、
鼻につくにおいがあったんです。腐ったもののにおいです。
冷蔵庫の中でビニールに入れた野菜がどろどろに溶けて、
汁がこぼれたときのようなにおい。
小さなものがトットッという感触で胸の上に上ってきました。
動かない両のまぶたが、引っぱり上げられるかのように、
自分の意志に関係なく少しずつ持ち上がってきました。

目が開いても、最初は涙がにじんで物がよく見えませんでしたが、
だんだん胸の上に乗っているのが鳥だ、とわかってきました。
元は薄緑だったと思われるインコの体、でもそれは腐って干からびて、
体毛がけば立って房のようになった鳥。
頭だけが違っていました。古びたバービー人形の顔がのっていたんです。
髪の毛が3分の1ほど引きちぎられて地肌が見え、煤がついて黒くなった顔。
「この人形を知っている」そういう考えが頭に浮かびました。
人形の樹脂でできた唇が動くのがわかりました。

人形は一語一語区切るようにして、「お前が幸せになることは許さない」
「あやめる」こう言ったと思いました。
そこで、ダンと、断ち切られるように意識が途切れ、
気がついたら朝になっていたんです。
嫌悪感と胸騒ぎがありました。そして目に焼き付いているバービーの顔は、
どこかで見覚えがあるという気持ちが残っていました。
まだ5時過ぎでしたが、結婚式の準備のために整理したアルバムを出してみました。
ほとんどは母が亡くなる前の写真で、
それ以降は父が忙しく旅行などにも出かけていないため、
中高のクラス写真くらいしかないんです。

「どこかで見た」そう思いながら小さい頃のを一枚一枚見ていると、
3歳くらいの私が、人形を小脇に抱えている写真がありました。
それと、これは記憶にまったくなかったんですが、
私が母の腕に抱かれている1歳くらいの写真の室内・・・
そこは現在もある居間なんですが、
その奥に鳥かごがつるされ、インコらしき鳥がいるものがあったんです。
そして奇妙なことに、その2枚の写真のどちらも、
幼い私の顔の部分に画像加工したような透明なうずまきがあって、
目鼻立ちがゆがんでいたんです。これはもちろんフィルム写真で、
何年も放置されていたものなので、そんな加工をする人がいるはずはありません。

ややあって起き出してきた父に、人形と鳥のことを尋ねました。
バービー人形については、
「亡くなった母が買ってきた物だろう。そういえばあったような記憶がある」
程度でしたが、鳥の写真を見せると、息をのんで押し黙ってしまったんです。
そればかりではなく、写真を私の手からひったくるとポケットに入れてしまいました。
そして「お前は幸せになることだけ考えていればいいんだよ」そう言いました。
・・・父はその日、会社に休みの電話をかけてどこかに出かけていきました。
夜遅く帰ってきて、ズボンの裾が泥まみれになっていました。
いくら聞いても何一つ教えてはくれませんでした。

怖いんです。一つは、いつまたあの金縛りになるのかということ。
幼い頃から楽しみだったのが、恐怖に変わってしまいました。
もう一つはあの鳥人形が言った「あやめる」という言葉です。
その後のデートで彼から、
「結婚にあたって健康診断を受けたら、腸の検査でひっかかった。
 念のために精密検査を受けることになったが、たいしたことはないだろう」
こう言われたんです。
父は相変わらず黙っていて、ちょくちょく休みを取って出かけるようになりました。
一度だけ帰りがけに「こんなに長く続くとは思わなかった」ともらしたんです・・・
皆さんの中で、こういう話を他にも聞いた方はおられませんか?



関連記事
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/485-d98c6e2a
トラックバック
コメント
 個人的に、人間は「上げて落とされる」のが何より辛いんじゃないかと思います。そういう意味で、この話は恐怖の極致ですね。
 バービーインコの正体やお父さんの不穏な言動もさることながら、話し手さんの不幸な未来が暗示されていることが一番気になります・・・
| 2014.08.21 00:02 | 編集
バービー人形にインコ…どちらも特別な思い入れの象徴のように感じました。だからこそ呪いや憎悪といった負の現象として現れると怖い。
お母さんの死因と何か関連があるのでしょうか…
お父さんの行動が恐怖を終わらせてくれることを祈ります。
頑張れお父さん!
みつや | 2014.08.21 22:19 | 編集
コメントありがとうございます
相変わらずの謎話で、今後どうなるのか自分もわかりません
あるいは怪談ルームのメンバーが
なにかよい知恵を出してくれたかもしれません
bigbossman | 2014.08.22 00:01 | 編集
コメントありがとうございます
何か背後に隠された事実があるのだとは思います
それが明らかになるような形で書くこともできますが
長くなってしまうので・・・
読まれる方はフラストレーションが溜まるかもしれません
bigbossman | 2014.08.22 00:03 | 編集
「鬼藤千春の小説」のブログへ訪問いただきまして、有り難うございます。今後ともよろしくお願い致します。
鬼藤千春の小説 | 2014.08.22 21:43 | 編集
コメントありがとうございます
たいへん楽しく拝見させていただきました
こちらこそ、よろしくお願い致します
bigbossman | 2014.08.23 02:20 | 編集
管理者にだけ表示を許可する