馬頭

2014.09.04 (Thu)
今年のお盆の話。俺は親が転勤族だったんで、小中での転校が多かった。
まず1年ごとといっていいような具合。
だから親しい友だちもあんまりできなかった。
今は東京で大学生をしているんだが、同窓会の案内の通知がきた。
これは中学2・3年のときに在学していた土地からの葉書で、
当時の生徒会長が幹事になって出してよこしたんだ。
そこでは、お盆に成人式をやるらしく、
その後にホテルの大会場を借りて行うとあった。
その学校にいたのは2年間で、俺には最長記録。
成人式は参加できないが、懐かしかったんで同窓会には出ようと思った。

それで、今親が住んでる場所にある俺の部屋から、
中学校のときの卒業アルバムを送ってもらった。
どんなメンバーだったか名前と顔を確認しようと思ったんだ。
俺はほら、転校をくり返してあんまり想い出がないかわり、
こういうアルバムや行事の集合写真なんかはこまめにとってある。
小学校のときは6年生1年間しかいない学校だったけど、それも持ってるんだ。
宅急便で部屋にアルバムが送られてきたんで、さっそく開いてみた。
1ページ見開きで1クラスが載ってて、真ん中が大きな集合写真。
横にそれぞれの名前がわかるように、写真と位置を同じくして氏名が書かれている。

A組、B組と見ていって・・・俺はEまであるうちのD組だったんだが、
自分のクラスのページを開いて集合写真を見た。そして違和感を感じたんだ。
並んでいるやつらのほとんどは顔を覚えているし、男子はだいたい名字までは言えた。
俺は背が高かったから男子の後列の中央に近いほうに並んでいたが、
俺と反対側の写真の左端に、後列から1人おいて異様なものが写っていたんだ。
そいつと言えばいいか・・・それだけが列から高く飛び出ている。
身長にすれば2m以上で、全体のシルエットは首の長い馬の頭だった。
ただ、はっきりしない。なぜかというと、その馬の首は焦げたように黒くなってて、
その黒いのは背景になってる空にも染みだしているんだ。
うまく言えないが、煤が飛び散ってるように首の周囲の空間がぼんやり黒ずんでいた。

「何だこれ!」と思った。
アルバムを開いたのは数年ぶりだが、前にも何度も見てるはずだった。
そのときにはこんなものは映ってなかった・・・と思った。
あれば当然気がつくはずだし、
そもそもこんな変な写真をアルバムに使うはずもない・・・
その馬の首がある部分に立ってるはずのやつの名前を確認すると、
「長友洋一」とあった。
記憶にあるような気もしたが、他に写ってるやつらほどはっきりしたものじゃなかった。
他のやつは顔がわかるからなのかもしれない、と思って、
アルバムの他のページで、長友というやつがいないか探したが見つからなかった。
もう一度集合写真に戻って、黒い馬の首をじっと見つめていると・・・
吐き気がしてきた。後頭部もずきずき痛む。

貧血のときのように目の前がスーッと暗くなって、強い焦げ臭さがした。
パチパチという音、焦げ臭いにおい・・・その中で、
「お前のせいだ」という声を聞いたように思ったが、そのまま気が遠くなった。
気がついたら朝になって、ベッドに倒れていた。下にアルバムが転がってたんだ。
幸い、頭痛はなくなっていたのでなんとか起きてバイトに出かけた。
帰ってきて、アルバムをもう一度開くことはしなかった。
昨夜のようなことになれば大変だと思ったからだ。
だれかに連絡して事情を聞きたかったが、
このときの同級生で連絡先のわかるやつはいない。
高校は遠く離れた場所に行ったし、アルバムにも電話番号まではついていない。
当時俺は携帯も持っていなかったし・・・

同窓会開催の葉書に幹事役の携帯番号が書いてあったと思いあたった。
時間は夜の8時過ぎで、問題ないだろうと思ってかけてみたんだよ。
すぐに通じて、明るい声が帰ってきた。
電話の向こうは居酒屋のようなところなのか、賑やかな音が聞こえていた。
「今いいかな」と言って自分の名前を言ったら、幹事の生徒会長が黙った。
「もしもし、聞こえてる?」こう呼びかけると、
固い口調に変わった声で、
「同窓会の葉書は手違いでした。同窓会は行われません。来ないでください」
これだけ言って切れてしまったんだよ。
それから、何度もかけ直しても出ることはなかった。
電源が切られていたんだと思う。

な、変な話だろ。勇気を出して、アルバムをもう一度見ようと思ったんだが、
少し開くと、あの焦げ臭いにおいがしてくる。
それでやめるということをくり返して・・・
で、思い切って同窓会の当日に、アルバムを持って会場のホテルに行ってみたんだよ。
成人式をやるのはネットで調べたかぎり間違いなかったんで、同窓会もあると思った。
何かの事情で俺に来てほしくないから、あんな反応をしたんだろうと考えたんだ。
東京からはかなり離れた場所なんで、時間がかかった。
ホテルは駅のそばで、新成人らしい振り袖の女やスーツの男の姿がちらほらあった。
中に入って催し物の案内を見ると「○○中学校第23期卒業生同窓会」と書かれていた。
エスカレーターで会場に向かった。
他の中学校の同窓会もあるらしく、ホールは人でごった返していた。
受付を見つけて近づいていくと、女の間に座っていた生徒会長が立ち上がった。

「帰ってくれ!」開口一番、こう言われたんだ。
俺は「いや、会には出ないよ。ただ教えてほしいことがあって来たんだ」こう言って、
アルバムを上にかざした。生徒会長の顔色がはっきり変わるのがわかった。
「それを開くなよ。そのアルバムは卒業式のあとに回収されて、誰も持ってるやつはいない」
なんとなく顔を覚えている男たちが近づいてきて、俺を取り囲んだ。
「○○だろ、よく来れたな。会場には入れないぞ」
「帰れよ、顔も見たくないから」今にも殴られそうな雰囲気になった。
こんな扱いをされる心あたりはなかったから、
「何だよお前ら!俺が何をしたっていうんだ」こう叫んだら、
「お前、長友と2人で、卒業式の前に神社の馬頭観音の社から火事を出しただろ」
意外な言葉が返ってきた。
そんなことまったく記憶になかった。

「ちょっと待ってくれよ。知らんぞそんなの」
同窓生らは、俺の腕をつかみ、腹を押してエスカレーターのほうへ押していこうとした。
「わかったよ、帰る。帰るから一つだけ教えてくれ。長友ってやつはどうなったんだ?」
聞いたら、生徒会長は「・・・長友は死んだ馬になった」こう言い、
続けて、「それだけじゃない、そのアルバムを持ってたやつらも、
 死にはしなかったがだいぶ迷惑したんだ。誰もお前の顔は見たくない。帰ってくれ」
とりつくしまもない感じで拒絶されたんだ。
・・・しかたなくホテルを出て、駅に向かった。
俺の記憶では、馬頭観音も火事も、長友すらまったく覚えていない。
何がなんだかわからなくなった。もしかしたら俺はひどい事件を起こしていて、
その記憶が飛んでるのかもしれないと考えたんだよ。

それにしても、アルバムが回収されたというのは、
俺は卒業式後にすぐ引っ越したからわからないんだろうが、
アルバムを持ってたやつまで迷惑って・・・死んだ馬、どうすれば人が死んだ馬になれる?
駅の待合室に座って、なんとか気持ちを落ち着けてからアルバムを開いてみた。
クラスの集合写真の、黒い馬の首はなくなっていた。
それだけじゃなく、俺の姿も消えていたんだよ。
俺がいたと思った場所は空いてるんじゃなく、列がつまってて、
最初からそうだったようにしか見えない。
名前も、俺も長友のもなかったんだ・・・
焦げ臭いにおいがした。アルバムがくすぶっていたんだ。
熱くて手を離すと、イスの下に落ちたアルバムから火があがった。
周りの人が立ち上がって飛び退き、こっちに駅員が走ってくるのが見えたんだ。



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