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芋虫

2014.09.10 (Wed)
ここ1ヶ月ばかりの話ですね。大学に入って四国から大阪に出てきたんです。
仕送りは期待できない境遇なんで、もうバイトバイトの毎日です。
今2年なんですが、4年で卒業するのはもうあきらめました。
1ヶ月前、バイトに向かう途中、駅前で新興宗教のチラシ配りがいたんです。
ほら白い服を着た集団、たまに見かけますよね。
無視して通り過ぎようとしたんですが、「○○じゃないか」って名前を呼ばれて、
そっちを向くと、なんとなく顔に見覚えのあるやつがいたんです。
「俺だよ、高島」それですぐ思い出しました。
中学校のとき、そこそこ仲のいいやつだったんです。
その教団に所属してるらしく、やはり白いだぶだぶの服、
トーガっていうんですかね、あれを着てました。

そのときは時間がなかったんで、とりあえずメアドを交換して別れたんですが、
いや、失敗しました。そっから変なことが始まっちゃったんです。
ま、世間ではよくあるのかもしれませんが、その宗教への勧誘です。
最初は互いに空いてる時間を見つけて居酒屋で会ったんですが、
話したのは中学校時代のあれこれだけだったんです。
楽しく飲んで、帰りがけに名刺を渡されまして、
「解脱研究会 理学研究部所属 □□大学」と肩書きが書いてありました。
いやあ詳しいことは聞きませんでしたよ、もちろん。
ただ、高島は俺とは別の大学に入ってて、
そこのサークル活動としてその宗教団体の支部があるってことはわかりました。

それからですね、高島からちょくちょく連絡が来たんですが、
それが全部、いつ、どこそこでセミナーが開かれるっていうお知らせ。
無視してもよかったんですが、行けないという返事はしました。
そのうちあきらめるだろうと思って。ところが場所は教えてなかったのに、
午後の4時頃、俺のアパートまで訪ねてきたんです。
大学のほうから調べたんでしょうが、なかなかすごい調査力だと思いました。
高島は一人じゃなく、10代後半と思える女の子を2人連れてきてまして、
あの宗教の変な服じゃなく、スカートの短い私服だったんです。
まあねえ、やっぱそれに目がくらんだってのもあると思います。
「東京の本部から教祖が来られる重要なセミナーだから、ぜひ体験参加してくれ。
 金はいっさいかからない」こう言われ、後ろで女の子たちがうんうん頷いて・・・

参加することになっちゃたんですよ。それでも1回だけ、と思ってました。
教祖の話を聞いて、それでも断ればそれ以上は誘われないだろうと考えたんです。
アパートを出ると車体のサイドに変なマークを書いたハイエースが路上にいて、
すでに何人か乗ってました。若い人ばっかりでしたね。
かなりの距離を走って府外に出ました。それから山の中に入って、
3時間ほどかけて着いたのは、かなり大きな、そこそこ新しく見える宗教施設でした。
といってもお寺や神社風の外観をしてるわけじゃなくて、企業の研究所みたいな感じ。
コンクリの四角い建物でした。あとで話に出てきたところでは、
やはりどっかの会社から買い取ったものみたいでした。
その大会議室みたいなとこに40人ちかい人が集まっていて、
年配の人はちらほら、やっぱり大学生くらいに見える若い人が多かったんです。

まもなくセミナーが始まりました。
出てきた教祖様は、30代くらいの男性できちんとスーツを着てました。
印象としては予備校の講師の先生って感じだったんです。
登場のしかたも、おどろおどろしい儀式めいたところは何もなくて、
むしろよくある啓発セミナーのようでしたね。
プロジェクターで、大スクリーンにプレゼンソフトで作ったのを映して、
声を張り上げることもなく、たんたんと教義を説明したんですよ。
ただ、内容はかなり奇妙なものでした。
まず太陽と思われる恒星が爆発して巨大化し、太陽系が滅ぶ映像から始まったんです。
おぼろげに理解したところでは、もうすでにこの世界は消滅してて、
地球人類はすべて死んでいる。

わかりにくいのは、これは何十億年も未来の話で、
俺らはそこから見るとずっと過去の人だってことです。
普通に生き、事故や病気で死んでいて、それから遥か未来に太陽系が滅んだ。
で、俺らはいわゆる死後の世界にいるんですが、天国でも地獄でも輪廻でもなく、
同じ人生をくり返している。意味わかるでしょうか・・・
つまり俺らはもう死んでるんだけど、そうは思ってなくて、
自分の一生の中に閉じ込められているってことです。
最初の1回で生きたとおりの人生を無限にくり返し、どこで結婚するかも、
自分の子どもがどうなるのかも、いつどうやって死ぬのかも、
寸分の狂いもなくすべて未来は決まってる。
ただ自分ではそれがわかっていないってことみたいでした。
そして、その繰り返しから抜け出すことが解脱であり教団の目的だとも・・・

怖い話だなあ・・・とは思いました。もちろん信じたわけじゃないですけど。
一通り説明が終わって、あの白い服を着た信者4人が教祖の前の演台に、
長さ1mくらいの白い箱を運んできたんです。
照明が落とされ上蓋が信者の手で開かれると、ドライアイスらしい煙が上がり、
中にあったのはサツマイモの色をした巨大な芋虫のようなものでした。
直径20cmほどの表面には血管が張り巡らされ、全体がピクンピクン動いていたんです。
教祖が「これはあなた方、一人一人の人生の全体像です。人生の芋虫です」そう言って、
ポケットから小さめのナイフを取り出し、右手側の端に突き立てました。
ブジュッと赤黒い液体がこぼれ、ドブのような臭いがすぐに立ちこめました。
鼻を押さえたんですが、そのときに四国の昔の家が頭に浮かんだんです。
小学校低学年まで住んでたボロ屋です。まだ若い俺の父親の姿が見えました。

教祖がナイフを抜き、今度は中ほどを突き刺すと、別の像が頭に浮かびました。
どっかの河原です。ブルーシートが木に張ってあって、
その前で一斗缶で何かを煮ている俺の姿が見えました。
髪はぼうぼうで顔は汚れ、ホームレスになってるみたいでした。
40過ぎくらいに思えました。
さらに教祖が反対の端を突き刺すと、暗い路上に倒れてる俺の姿が見えたんです。
前の姿から何年もたっていないようでした。
唇や手の先がピクピク動いたんで、まだ生きていると思いました。
ドブの臭いがますます強くなって、机に突っ伏して吐いてしまったんです。
脇にいた高島と女の子が俺を抱えてトイレまで連れてってくれたんで、
個室にこもって吐き続けたんですよ。

やっとトイレから出てくると、高島が待っていてくれました。
会議室では、十数人の人が教祖を取り囲んで熱心に話をしてました。
あの芋虫のようなのは片づけられて見えなくなってましたね。
それから来たときと同じハイエースで府内までまで送られたんです。
高島は道中何も言いませんでした。感想を聞くとかそういうことも一切なし。
車を降りるときに、小冊子のようなのを渡されました。
教団のマークが表紙についてて、
始めのほうにセミナーで見た教義が画像つきで書かれてました。
「一生の繰り返しから抜け出せ、解脱せよ」っていう・・・
それにしても、あの場で見た過去や未来は本当のものなんでしょうか・・・
それとも集団催眠かなんか、まさか薬物とか・・・

俺は将来ホームレスになって、路上で野垂れ死ぬんでしょうか。
しかもそれを永久にくり返し続ける・・・
ありえないですよね、騙されてるんですよね。どう思いますか?
あれ以来、夢を見るんです。
あの教祖がナイフを突き立てた芋虫が胸の上に載っていて、
重くて苦しいまま、ただただ時間だけが過ぎていく夢。
それだけじゃなく、現実に見えたと思ったときもあります。
明け方のキッチンの隅や、バイト帰りの遅い時間の駅のホームのベンチの下・・・
その小冊子に次のセミナーの予定を書いた紙がはさまってました。
2日後です。あれ以来高島からはメールも来ません。
どうすればいいでしょうか、セミナーに参加すればいいのか、
それとも病院に行くべきなのか・・・アドバイスをお願いします。

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