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重なる1

2014.09.13 (Sat)
Fラン大学を出たが、就職がなくてしばらくバイトをしてた。
大学時代から出入りしてたバーで皿洗いに雇ってくれたんだ。
ただ、そこも経営があんまりよくなくてね、勤めてから4ヶ月で店を閉めちまった。
アパートを引き払って田舎に帰るかってとこまで追い込まれたんだが、
出入りしてた客の一人に別のバイトを紹介された。
その客は不動産業と言ってたが、
なんかもっと柄の悪いほうの人じゃないかと思える、服装や口調だったね。
贅沢は言ってられない。
仕事は、市の郊外に貸倉庫があってそこの管理人ってことだった。

管理人って言ったけど、仕事は夜間だけで荷は運ばれてこないんで、
警備員のほうが正確かもしれない。ほとんどやることはなくて仮眠もとれる・・・が、
拘束時間が長かった。夕方6時から、翌日の9時まで15時間もあったんだよ。
深夜勤務だし、その分給料はよかったけどな。
倉庫は2つあって、どっちも小学校の体育館ほどの広さで背中合わせに建ってた。
その片方が俺の担当で、もう一方には別のバイトが入ってる。
でもよ、これってすげえ経費のムダだと思わないか?
初期投資はかかっても、
監視カメラや赤外線センサをつけて警備会社と巡回契約したほうが、
バイト2人をずっと雇うよりコストは安いはずだろ。

でも、そのときはあんまり深く考えなかった。世間知らずだったんだな。
建物の前方に管理人室があって、空調、固定電話や机、仮眠のベッドがある。
さすがにネットは引いてなかったが、
テレビもあって一晩中見ててもいいっていう楽さだった。
ただ・・・変なことを指示されたんだよ。
倉庫に通じる大扉の横手に台がしつらえてあって、そこにガラスコップがのってたんだ。
毎日、バイトに来たらまずそれを飲むように言われた。
飲んで美味かったら通常どおり仕事続行、冷蔵庫から四号瓶を出して酒をつぎ足しておく。
ただし・・・もし不味かった場合は、倉庫内の見回りはしなくてもいいことになってた。
さすがにこれを聞いたときは、頭の中が「?」だらけになったけどな。
理由は教えてもらえなかった。

始めて2週間ほどはなんということもなかったよ。
酒の味見?と入れ替えもきちんきちんとやってたんだ。
俺は日本酒でもまあ味はわかるほうだと思う。
1日置いても変になってるってことはなかった。
ところがある日、やってきてコップをあおるなりむせて吐き出してしまった。
「不浄な味」としか形容のしかたがなかったな。
ドブ水に血と腐った卵でも混ぜたよりずっとヒドイ・・・まあ想像してくれ。
トイレでしばらく吐き、それからコップを洗って酒を入れ替えた。
本当なら2時間おきに倉庫内の見回りをすることになってたが、今夜は免除ってことになった。
でもよ、やっぱり不思議だろ。それと暇だったから、たびたび大扉に耳をつけたり、
小窓から中を覗いたりしてたんだよ。

12時過ぎだったな・・・もう仮眠してもいい時間だったが、テレビを見てた。
そしたら倉庫のほうから異国の音楽みたいな音が聞こえてきたんだ。
倉庫内から分厚い扉を通して聞こえるんだとしたら、かなりの大音響だ。
そんなに怖いとも思わず近寄って耳をつけてみたら・・・お経だったよ。
窓を覗くと、倉庫の真ん中の通路の中空で何か青く光るもんがくるくる回転してる。
俺はね・・・あんまり幽霊とか信じないほうだったんだ。
それで、禁じられてはいたけど鍵を出して入ってみたんだよ。
お経はエコーがかかったように鳴り響いてた。
中は非常口のランプとかあって完全に真っ暗じゃないし、
何より3mほどの高さに青い光があった。
かなり離れていたが座ってる人に見えたんだ。
それがゆっくりと回ってこっちを向いた・・・坊さんだと思った。

座った姿勢の坊さんが回転しながら経を唱えてるんだ・・・と、こっちに気がついたように、
宙に浮いたままスーと俺のほうに近づいてきた。そんなに速くはない。
だが、だんだん坊さんが迫ってくるにつれ顔がはっきりしてきた。
カッと目を見開いて血みたいな涙を流してたんだ。
それが見えたとたん、怖ろしくなって逃げた。
ガーンと扉を閉めたときには、すぐ後ろまで近づいてた気配がしたよ。
小窓に中から坊さんの顔がひっついて、スゴイ恨めしそうな顔で睨んでるとこまでは見た。
震える手で鍵をかけ、よっぽど職場放棄したかったんだが、
管理室に戻って電話をかけた。ここを紹介してくれた不動産屋にだ。
まだ1時前だったんで不動産屋はすぐ出た。
今見たことを話したら、こんな返事が返ってきたんだ。

「あー見たのかよ。そうか、大丈夫だ。
 もう一つの倉庫と違って害が出たってやつはこれまでいねえ。
 倉庫内からは出てこねえから心配するな」
「何なんですか?あれ」
「見たとおりの坊主だよ。・・・そこの倉庫はな、前は寺の本堂だったんだ。
 ただ建物は壊し、土地は借金のかたに頂いた。坊主はどうなったかって?
 知らんが、死んだんじゃないか。霊になって出てくるくらいだからな」
俺が呆然としてると、
「もう一つのほうの倉庫じゃなくてよかったと思いな。あっちは墓所だったんだ。
 むろん骨壺とかは掘り出して移転したが・・・まあな、残ってるのもあったんだろう。
 だから、あっちの倉庫はバイトも1ヶ月しか保たねえ。まあ消耗品だな・・・
 お前は前から知ってたからそっちにしてやったんだぜ。だから、せいぜい頑張ってくれや」
こう話して電話は切れたんだよ。
 
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