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牛鬼

2014.09.14 (Sun)
小学校5年生のときですね。浜辺に住んでまして、
もうほんとに、家から通り一本隔てたとこに堤防があって、その先が砂浜でした。
夏休み中です。6時過ぎにノートを持って浜に出ました。
7月の終わりで、まだ明るかったです。
浜へは用がなくてもちょくちょく出てましたが、
そのときは夏休みの自由研究で、夕日の様子をスケッチしようとしてました。
夕焼けの色と次の日の天気を比較したりしたんです。
波打ち際に放置された小舟がいくつかあり、
その縁に日記帳を置いて、クレヨンで夕焼けを描こうと思って色を選んでました。

そしたら波打ち際に近い砂が、小舟ほどに高く盛り上げられてるのを見つけたんです。
回っていって見ると、砂を固めて牛の首の形に作られていました。
「何これ、スゲエ」と思いました。
大きさは縦横1mで、高さも80cm以上あったと思います。
雄牛の肩より上が、ものすごく写実的にできていたんです。
表面を濡らして、てらてらになるまで何かでこすったような感じ。
首の正面は海を向いて、2本の角が上に突き出てました。
壊さないようにそっと角にさわってみると、
流木か何かの固い芯が入ってるようでした。

前に回り、後ろに回ったりしてしげしげと見て感心していると、
海から2人中学生が上がってきました。ゴムボート遊びをしてたみたいです。
そいつらとは同じ小学校だったので知ってましたが、
あんまり柄のよくない、評判の悪いやつらだったんです。
2人は砂の牛を見つけて近寄り、
「何だよこれ、スゲエな。お前が作ったのか?」と聞いてきたので、首を振って、
「ううん、今来てみたらあった」と答えました。
2人はあたりを見回して、「海水浴の客かな。これだと何時間もかかったんじゃないか」
とか言って、自分のように角をさわったりしてました。

そのうちに、1人が角をもぎとっちゃったんです。
先を持って振ると、やっぱり中に白い芯が入ってました。
「お、これ骨だぞ。中に骨入れて角を作ってた」1人が言い、もう1人がそれを見て、
「細いな。から揚げの骨じゃないか」と応じました。
「なんだ、くだらねえ。じゃ中にも何か入ってるのか?」
最初の1人がそう言って、おもむろに牛の後頭部に腕を突っ込みましたが、
「なんもねえな」そう言って腕を抜きました。
それから2人で足で踏んで像を壊し始めました。
蹴ったり、足を深く突っ込んで砂を跳ね上げたりしたんです。

よくできてるのにもったいないな、と思いながらも黙って見てました。
首本体の中には何もなかったようで、しばらくしてそこは平らになり、
砂だらけになった2人は、海に体を洗いに入ったんです。
それから2人して、岩陰に浮いてたゴムボートを浜に引っぱり上げようとしました。
そのときいきなり、2人の背後の海から牛が顔を出したんです。
砂の牛とそっくりでしたが、大きさは何倍もあり、
子どもだった自分の目には漁船半分くらいにも思えました。
ただ・・・水しぶきがあがった記憶もないし、音も覚えてないんで、
これは自分の幻覚だったのかもしれません。

巨大な牛がすぐ近くに顔を出してるのに、
中学生たちはぜんぜん気づいてない様子でしたが、そんなことありえないですよね。
それと今から考えれば、海の深さは中学生の腰ぐらいだったんで、
そんな大きな牛の体が水中にあるはずもないんです。
牛の顔は陸を向いていて、しわが寄った額の下の両方の目は白く濁ってました。
黒い毛が濡れてごわごわの束になって見えました。
その首の前で、角1本よりも小さい中学生がボートを引っぱってるという異様な記憶・・・
やっぱり幻覚なんだろ思います。
2人が浜に上がろうとしたときには、いつのまにか首は消えてました。
ちょうど夕日が海に落ちるところで、
自分から2人は逆光になって黒いシルエットに見えました。

その1人がいきなり「モーウ、モモーゥ」と牛の鳴き真似をしたんです。
もう1人も合わせるようにして「モモーモモー」
鳴きながら自分に近寄ってきました。
さっきからの出来事で怖くなってたんで、日記帳もクレヨンも放りだして逃げました。
走ってる後ろから「ぎゃははは」と笑い声が聞こえてきたんで、
やっぱりふざけてたんだろうと思います。
・・・ここまでは、そんな怖いことでもないですよね。
砂の牛はヒマな海水浴客が時間をかけて作ったもので、海の中の巨大な首は自分の幻覚、
中学生の鳴き真似は自分をビビらせようとしただけ・・・

2人がこの後、溺れて死んだなんてこともありません。
ただやっぱ地元の高校に入っても素行が悪く、退学になって大阪に出ていきました。
暴力団に入ったという噂もありましたが、現在はどっちも消息がよくわからないみたいです。
で、今年の夏です。自分は結婚して別のとこに住んでるんですが、
嫁と5歳の息子とで里帰りしてたんです。
一泊した13日の朝方、息子を連れて浜に出てみました。
お盆のせいか、時間が早かったためか人の姿はほとんどなかったです。
波打ち際まで行くと、息子が「うし、うし」と言いながら、
つないでいた手を振り払ほどいて走っていきました。

その先を見ると、子どもの頃に見たあの砂の牛の首があったんです。
記憶にあるものとまったく同じでした。
実家には何度も里帰りして海にも出ましたが、こんなことは・・・
思わず「さわるな、壊すなよ」と声をかけました。
息子は小躍りするように首のまわりを飛び跳ね、そのときふと予感がして沖のほうを見ました。
もしや昔のように巨大な牛の首が出ているかと思ったんです。
・・・キラキラ光る穏やかな波の重なりがあるばかりでしたね。
「まさかだよな」とつぶやいて息子の片手をつかまえました。
そのときです、息子が「モーウ、モモー」って言ったんですよ。
小さくつぶやいただけでしたが、昔聞いたあの2人の声そっくり・・・

関連記事 『妖怪談義(牛鬼)』

『牛鬼』





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