テレパス

2014.09.15 (Mon)
えー、ゲーム関係のプログラマーをやっていて、年は28歳になります。
あ、個人情報はいらない?・・・そうですか。
私の職場はわりと自由な雰囲気で、仕事場も仕切りで個人ブースに分かれてます。
忙しいときは何日も徹夜が続きますが、
暇なときは遊んでてもいいし、早く帰ってもいいんです。
そのときは他社の製品を解析してたんですが、期限もないような仕事で、
そろそろ切り上げて帰ろうかと思ってたところです。午後4時頃だったですね。
何杯目かのコーヒーを紙コップに入れて持ってきて、パソコンを打ってると、
つい鼻歌が出たんです。

えー「森の熊さん」です。あの、「♪ある~日、森の中~」というやつ。
あ、歌わなくてもいい?・・・そうですか。
自分でも滅多にないことだと思うんですが、そのときは無意識でした。
「いいご機嫌ね」仕切りの入り口から声をかけられました。
先輩の高崎女史です。この人は事務のほうをやってて、自分より4つか5つ年上です。
神霊関係や予言なんかのムーっぽいことが好きで、
飲み会ではいつもそんな話をします。
この間も、超能力の有無について、自分と少し議論になったんですよ。
もちろん自分のほうが「ない」派でした。

「あんた今、鼻歌歌ってたでしょ」こう言われたんで、
「すんません、聞こえましたか」と答えました。
「いや、そんな外まで響くような声じゃなかったけど、森の熊さんでしょ。
 みんなの歌とか好きなん?」
「そんなわけじゃないんだけど、なんとなく出ちゃって・・・」
「パソコンのキーボードの下を見てごらんよ」
何かイタズラでもされたかと思って持ち上げてみると、ピンクのメモシートが入ってました。
そこには赤いマジックで『森の熊さんを鼻歌で歌う PM15:30』
と書かれてあったんです。
「・・・何これ、手品ですか?」

「いえいえ、超能力。この前少し話した西丸震哉って人の本に出てくる、
 テレパシーの方法を試してみたん」
「うー高崎さんが、俺にテレパシーで森の熊さんを歌わせたってことすか」
「そ。本にはね、人が忙しく集中してない午後のあたりに、誰でも知ってるアップテンポの曲、
 ノリがいい曲っていうか、
 それを頭の中でくり返し歌いながら歌わせたいと思う人に念を送る。
 そうするとかなりの確率で、その人も同じのを鼻歌でうたうようになる、って書いてた。
 西丸さんの本は昔のだから『お猿のかごや』が最適ってなってたけど、
 さすがに今じゃ知ってる人は少ないし、それで森の熊さんにしたん」
「えー、やっぱ信じがたいです。俺の鼻歌を聞いて、
 その間になんとかしてここに紙入れたんでしょ。時間のほうは何とでもなるし・・・」

「そう言うと思った。ウエブで○○掲示板の△スレッドちょっと見てごらん。
 そこにも書いてあるから」
で、見てみたら確かに書いてあったんです。俺の名前はわからないように
『会社のMが森の熊さんを鼻歌で歌う』みたいなのが。
この掲示板は書き込み時間が表示されるので、
さすがに何かトリックができるとは思えません。
「スゲエな、マジっすか!」
「あんた今プロジェクト終わったばっかで、たぶんヒマしてるだろうし、
 そういうときってかかりやすいのよ」勝ち誇った感じで言われたんですが、
まだ半信半疑でした。
「んー、じゃ、こういうの俺でもできるんですか?」

「才能が必要みたいだから、誰でもってわけじゃないけど。
 才能があるかどうか試してみる方法はあるよ」
「へえ、どんなですか?」
「人がたくさんいて、あんまり集中して何かをしてないとき・・・うーん駅のホームとか、
 満員電車の中がいいかな。そこで、頭の中で何かを強く念じるのよ。
 人にショックを与える強い言葉がいいみたい。口に出しちゃ意味ないから、
 あくまで心の中でよ。すると、超能力傾向のある人がやると、
 必ず何人かがはっとした顔でこっちを見たりするの」
「試してみたんですか?」
「もちろん」「で、どうでした?」「満員電車中で5・6人だったな」

・・・どう思いますか?森の熊さんのことはアレですが、やっぱ信じられないですよね。
で、ダメ元で退社時の電車で試してみることにしたんです。
単に心の中で念じるんだから、何のリスクもないし、誰にも迷惑をかけません。
・・・結果は、全然でした。心の中で「脱線するぞ!」と念じてみたんですが、
列車内には何の変化もなし・・・
翌日、そのことを高崎さんに話しました。そしたら、
「それは単に才能がなかっただけか、もしかしたらその言葉に念がこもってなかったか」
「念がこもってないって、どういうことですか?」
「実際に列車が脱線する、と思って念じたわけじゃないでしょ。違う?」
「そうです」「だったら、言葉は他人の心に響かないわよね。口に出しても出さなくても」

何となく納得させられてしまって、少し手段を考えました。
でね、会社では午後ずっと映画のDVDを見てたんです。
ほら、ハリウッド製のアクション映画とか悪役が出てきますね。
で、主人公が絶対絶命のピンチに落ちて悪役が勝ち誇る・・・
この後、敵役はたいてい悲惨な死に方をするんですが、勝ち誇ってるとこまでを、
いろんな映画を早送りして見たんです。『アナコンダ』のシリーズとか。
そして、悪に対する憎しみの心で胸をいっぱいにしてから退社するようにしたんです。
会社でなに遊んでるんだって? いやまあ、別にうちはいいんです。
そのかわり、忙しい時期は残業代なしで連続徹夜ですから。

憎しみを胸に抱いてw 電車に乗りました。
まだ退社のラッシュには早い時間だから、超満員というわけでもなかったです。
確かにねえ、「脱線する」と俺自身が信じてないことを言ってもそりゃね。
理に適ってるなとも思いましたから。電車の中って、観察してみるとみんな、
他人に視線を向けないよう無意識に気を遣ってるんですね。
立ってる人は斜め上や足下を見たり、
座ってる人は目の焦点をぼかして一つのものを注視しないようにしてる人ことが多いんです。
トンネルに入る直前に念じてみようと思いました。
それだと外を向いてる人も車窓に顔が映るじゃないですか。
トンネルの入り口でガタンと車両が揺れました。
そのタイミングで、「死ねこのやろう!!お前は世の中の敵だ!死ね死ね死ね死ね・・・」

強く強く念じてみたんです。もちろん、乗客じゃなくて映画の悪役に対してですが。
・・・でね、はっきりした反応はなかったです。
向こう向いてた人が振り返ったとか、あからさまにこっちに視線を向けたとか、
そういう目立ったことはなし・・・2日続けてこの結果ですからね、
ああ、やっぱり俺には超能力の才能はないのか、というより超能力自体ないんだろう。
「森の熊さん」はやっぱ何かのトリック・・・そう考えたんです。
大きめの駅に着きまして、乗車口近くに立ってた俺は体をどかしました。
ぞろぞろ降りる人が横を通っていきましたが、よれたコートを着たサラリーマン風のおっさんが、
俺の前でしばし歩みを止め、目を下に落としたままこう言ったんです。
「ありがと、おかげで死ぬ決心がついた」って。
その後ですか・・・そこの駅で自殺者が出たのは聞きました。
そのおっさんかどうかは確かめてないです、怖くて。

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『telepathic communication』
テレパシー




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コメント
テレパシーと言うか、シンパシー能力はあると思ってます。

このお話のような強い念は伝わりやすそうな気がします。

だから、うっかりしたことを口にしたり念じたりしてはいけないんでしょうね。
椿 | 2014.09.20 00:05 | 編集
コメントありがとうございます
シンパシーですか
これは、けっこう面白い心理学および超心理学の実験が数々あって、
よくある、後ろを向いている人に念を送ってふり向くかどうか
などがそうですが、その他にも例えば、会議の場に急に入っていっても
のんびりしているか、それとも緊迫した状態なのかはすぐにわかりますよね
雰囲気を察するというか
これを人工的にそういう場を作って、目を閉じ耳を塞いで入っても
感じ取れるかなど・・・
bigbossman | 2014.09.20 01:04 | 編集
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